『ファッキン陽山侯爵家』vs『噛ませ犬愛好家』

「陛下!!麿は数々の証拠を持って参りましたぞ…。まずは陛下、こちらをご覧になるぞの。これが『猫宮瑠璃』が扱った凶器ぞの」

 ———凶器!?

 

『雪凪殿下暗殺未遂事件』に関して、凶器が使われていたことに心の中で驚く。凶器を用いる理由は幾つか考えられるけど、1番可能性が高いのは『証拠』を回収できるからだろうか。


 ———でも、そっちの方がやりやすいなぁ


 てっきり、瑠璃の猫族としての鋭利な爪だとばかり先入観を抱いていた。しかし、『無罪』サイドの私にとっては好都合である。


『ファッキン陽山侯爵』が私の方へ嫌味ったらしい視線を向けながら『クレイジーサイコキング』に意気揚々と凶器を披露する。


「受け取ろう」

「陛下、他にもございますぞ…!!これは事件が起きた日の雪凪殿下のお召し物ですが、その際に猫宮瑠璃の『白毛』も採取できましたぞ」

「……確かに、『人族の体毛』ではないな」


 私の想定通り、『ファッキン陽山侯爵側』は現場に残っていた『証拠』から『クレイジーサイコキング』へ提出していく。『有罪』を求める場合、オーソドックスかつ確実なやり方だ。


「もちろん、『証拠』以外にもありますぞ。『猫宮瑠璃』を襲っていたという証言もありますぞ…。小日向、小鳥遊、出てくるとよいの」

「は、はい…。小日向と申します。私は早番でしたので王城の掃除をしようとした時、雪凪殿下の大きな声が聞こえました」

「小鳥遊と申します。その時は小日向と同じ当番でした、私も同じ意見です」

「陛下、お聞きになりましたぞの!?あ、小日向、小鳥遊、そちらは仕事に戻って良いの」

「「し、失礼致しました」」


『ファッキン陽山侯爵家』は幾多の証拠だけに留まらず、小日向と小鳥遊と呼ばれる瑠璃と同じく夢想王城の使用人の証言も得ていたらしい。


 ———だから、こっちを見るなっ!!


 私の方を見て勝ち誇った顔をした『ファッキン陽山侯爵』に沸々とした怒りが湧いてくる。


 小日向と小鳥遊を名乗った使用人は『ファッキン陽山侯爵』に冷たい声であしらわれた上、足早に『謁見の間』を退場する事となった。


「……『証拠』『証言』共に十分だな。それで『陽山侯爵』の主張は終わりでよいか?」

「いいえ。麿の主張は終わりません。その前に猫宮瑠璃へ質問の許可を………」

「……好きにするがいい」

「心からの感謝を陛下へ捧げますぞ」

 ———演技のような振る舞いが一々癪に障る!!悪霊退散!!悪霊退散!!心頭滅却!!心頭滅却!!


『クレイジーサイコキング』も私と同じように感じているのか。『デスゲーム』の開始を宣言した時のいい表情は薄れかかっている。


 しかし、『ファッキン陽山侯爵』は『クレイジーサイコキング』の微妙な表情変化に気づかず『猫宮瑠璃』の方へ接近していく。


「『猫宮瑠璃』、正直に答えるといいぞ。貴様は『雪凪殿下』の暗殺未遂をした。それで間違いないでよいの?」

 ———そう、それでいいの…。


『ファッキン陽山侯爵』の質問に対して、瑠璃は縦にこくりと頷く。そして、私は瑠璃の様子を見て安堵する。

 

「陛下……!!ご覧になられましたか!!先程、麿の質問に対して猫宮瑠璃は『雪凪暗殺未遂事件』をしたと認めましたぞ…!!」

「……そうだな。終わりでよ……」

「いいえ、麿は他にも用意しております」

 ———おい、『クレイジーサイコキング』、完全に寝てたな!?完全に興味失せてるね!?


 それ以降の『謁見の間』では『ファッキン陽山侯爵』によるワンマンライブショーが開催されることとなった。私はそんなワンマンライブショーを聞き流しながら、『ファッキン陽山侯爵家』の派閥にも真っ当な情報収集能力に長けた人物がいる点に関して興味を持った。


 …

 ……

 …………


「………『陽山侯爵』、そろそろ良いか?」

「陛下のお望みとあらば、名残惜しいですが、この辺りで終わらせますぞ…!!きっと、麿の主張は王家の方々へ響いたでしょうぞ!!」


 その結果『ファッキン陽山侯爵』のワンマンライブショーは30分も続くこととなった。彼の部下達が用意したであろう『証拠品』を『謁見の間』に並べて延々と自論で語りかける。


 それだけならまだ可愛げがあるが、ワンマンライブショーの後半に至っては永遠に同じ主張を言い換えて主張していただけだった。


 その結果、『クレイジーサイコキング』が額に青筋を立てながら諌める事態となった。一般的な常識人ならば、謝罪するべき場面にもかかわらず、『ファッキン陽山侯爵』にとって、諌められた事は誇れる事らしい。


「『麿の勝ち』ぞの!!」


 そして、フィナーレと言わんばかりに大きな声で私の方を指差しながら、勝利宣言をした。


「………小娘、早くするがいい」

 ———気持ちはわかるけど、八つ当たりは勘弁して頂きたいんだけどなぁ………


『クレイジーサイコキング』がうんざりだと言わんばかりの表情で私に促す。


「承知しました。先程、『陽山侯爵』の主張の大部分を簡潔で表すと『証拠』と『証言』と『自白』に該当する部分でした」


 私の言葉に『謁見の間』は頷く声が多数上がる。当の本人の『ファッキン陽山』は言い足りていない様子だが、放置しておこう。


「今、ここの場で私の『陽山侯爵』が行った事に関して相違がある場合、ご指摘ください」

「ないのじゃ」


 奏音が代弁して、『クレイジーサイコキング』や『王妃』も頷く。


「雪凪殿下、感謝いたします。それでは、申し上げましょう。私の主張は『雪凪殿下暗殺未遂事件なんて存在しなかった』と主張します」

「ほう…」

「あらあらぁ…」


 私の主張した事に対して、『謁見の間』で一瞬の静寂が生じる。そして、私の主張に対して真っ先に反応したのは『クレイジーサイコキング』と『王妃様』だった。


「あの娘は何を言ってるのか……」

「その主張の意味を……」

「どういうことだ…」

「……それは無理があるぞの」

 ———本当にそうかな?

 

 そして、王家の反応の後に『侯爵家』とその護衛達を中心に『謁見の間』は騒々しくなる。


 主に話題の中心となっているのは『どういう事だ』という点だ。そして、最後に反応したのは『ファッキン陽山侯爵』だった。


 ————私の主張が想定外だったらしい


 アドリブに弱いなと思いながら、私は『クレイジーサイコキング』と『王妃』の近くに控えていた奏音へ向き直る。


「雪凪殿下、ご質問をしても?」

「許すのじゃ」


『クレイジーサイコキング』と王妃の近くで控えている『奏音』へ目を合わせて、尋ねる。


「雪凪殿下は本当に『猫宮瑠璃』に襲われたのでしょうか?ナイフを見て思ったんですが、その時、薔薇を持っていませんでしたか?」

「言われてみれば………青色の薔薇と赤色の薔薇を持っていた気がするのじゃ」

「ええ…。そもそも魔法に長けている『雪凪殿下』に『猫宮瑠璃』は最適ですが、わざわざナイフで襲う必要がないんです」

「その通りじゃ。しかし、『猫宮瑠璃』がナイフを持っていた説明が付かないのじゃ」

「薔薇を切り取る際に、いくら猫族の表面の毛が硬くても薔薇の棘に触れれば、痛いはずです。その時にナイフが必要だったんでしょう」

「……納得なのじゃ。でも、余の記憶だけでは確証がない。事件現場に居合わせた『魔法騎士団』がいるから聞いてみると良いのじゃ」


 少しプランを変更しても奏音は柔軟に対応してくれる。そして、私が頼んでいた『忠犬騎士団』への根回しもしてくれているらしい。


「魔法騎士団の方々の中で『雪凪暗殺未遂事件』に居合わせた隊員へ質問です。『猫宮瑠璃』は、薔薇を持っていませんでしたか?」

「持っていました」

「薔薇を持っているの見ましたー」

「持っていたはずだ…」


 私の質問に対して、数人の隊員から『薔薇』を持っていたという目撃証言が上がる。


 ———こっそりと親指を立てる奏音

 ———深呼吸をする瑠璃

 ———私を睨む『ファッキン陽山侯爵』

 ———笑う『クレイジーサイコキング』

 ———驚き、口に手を当てる『王妃』

 ———何かを思案する『公爵家』


 私と雪凪殿下と『忠犬騎士団』のやりとりを見た『謁見の間』は大部分が『困惑』の反応だが、それ以外ではこんな感じだった。


「夢想王、私も『陽山侯爵』がした時のように私も『猫宮瑠璃』へ質問しても?」

「許そう」


 もちろん、『ファッキン陽山侯爵』が行った行動は私にもできる。そのため、私は『魔法騎士団』の方へと歩み寄る、


「猫宮瑠璃に質問します。あなたは先ほど、陽山侯爵の時に頷いておりました。もう1度聞きましょう。本当に雪凪殿下を襲いましたか?」

「ミーは…雪凪殿下の部屋に生花を飾ろうとしていたんだにゃ。でも、『陽山侯爵』に自白するよう頼まれて引き受けてしまったんだにゃ」

「先程に関して、なぜ頷たのでしょう?」

「たぶん眠くて、間違えたんだにゃ」

 ———そう。言質さえとられなければ、苦しい言い訳でも、撤回することができる。


 だから、私は『陽山侯爵』が『仙沼』さんを出汁に使うことを伝えていて、その時に『言葉は発さずに頷く』ように伝えていた。


「ふざ………」

 ———感情は制御できるらしい。


 私と瑠璃のやりとりを見た『ファッキン陽山侯爵』は怒りに包まれているのか、顔が真っ赤な表情である。耐えれなくなった『ファッキン陽山侯爵』が途中で主張しようとしたが、ここは『謁見の間』である。


 自分の感情が露呈しかける寸前で抑えた『ファッキン陽山侯爵』は頭の中で理解していた。


 きっと彼の中で『謁見の間』で問題を起こす『危険性』を熟知していたのだろう。


「証言だけでは足りないかもしれません。それでは『魔法騎士団』の如月隊長、『事件の議事録』をお借りしても?」

「………これのことか?」

「ええ。感謝致します」


 もちろん、『恋クリ』は魔法の世界だが、ファンタジー世界の設定に使われる『生活魔法』なんて便利な物は一切ない。


 そもそも、『魔法』自体が希少な物でそれらは全て『戦闘用』に特化しているのだ。


 だから、こういった事件が生じた場合、全て内容を紙で書き留めている。その書き留めた紙を保管しているのは、囚人達の統制をしている『魔法騎士団』達だ。


『くっ……殺騎士』隊長に分厚い『議事録』を借りて、該当のページを捲ると頼んでいた通り、『薔薇』の改竄が確認できたので、それを『クレイジーサイコキング』にそのまま手渡す。


「………これを見れば、その通りだな」

「夢想王、つまり、元々『雪凪殿下暗殺未遂事件』なんてものは存在しなかったんです」

「小娘、『証拠』についてはどう片付ける」

「猫宮瑠璃は夢想王城の使用人をしていたのです。『体毛』がつくだけでは証拠としてはやや弱いものかと思います」

「…………であるか」


 別に『ファッキン陽山侯爵』の『有罪サイド』のやり方として、『証拠』と『証言』と『自白』は悪くない。むしろ、それこそセオリー通りのやり方だ。私の『無罪サイド』も本来は瑠璃を重点にした『やむを得ない事情』を全面に押し出すのが本来のやり方だ。


 ———でも、そんなやり方は『クレイジーサイコキング』から無罪は勝ち取れない。


 だから、私は事件の根本から覆す事にした。


『ファッキン陽山侯爵』側に『誤算』があったとすれば、私の隣には王子の仮面を被った奏音がいた。次に『くっ……殺騎士隊長』が私の友達になった。最後に、私の方が先に『噛ませ犬推し』と出会っていた事だと思う。


 そのやりとりを最後に『クレイジーサイコキング』は目を伏せて考え始める。


 当然、この場にいる殆どの者は私がこの事件を『改竄』したと分かっているだろう。でも、それを主張するという事は『奏音』を疑う事と同じことである。だからこそ、この『謁見の間』で誰も私の事を『嘘』だと主張しない。


「大人しく聞いておけば、好き勝手に……!!麿はそんな主張認めないぞの……!!」

「それを決めるのは陽山侯爵や私ではなく、『夢想王』です」

「そんな出鱈目な主張が……」

「出鱈目?それは、雪凪殿下の主張を『偽り』だと言う事でしょうか?」

「ぐっ……しかし、『事件』がそもそもないならば、その前に気づかないはずがないぞの」

「雪凪殿下や『魔法騎士団』も人間ですから……」


 そう考えていたら、とうとう耐えきれなくなった『ファッキン陽山侯爵』が私に直接抗議の姿勢を示してきたため、口論になる。


 最初の方は軽くあしらえていたが、最後に少し痛いところを指摘されてしまう。


『クレイジーサイコキング』が『猫宮瑠璃』に関して、いつものように即断できず、目を伏せているのも『ファッキン陽山侯爵家』が主張した『矛盾点』等を考慮しているのかもしれない。


 

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インフルかもしれなくて日曜日の更新が途絶えたらごめんなさい💦10/8少し内容変更しました

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