デスゲームの行末

『謁見の間』では『クレイジーサイコキング』が目を伏せて考えている間に、私と『ファッキン陽山侯爵』の口論だけでなく、周囲の侯爵家や護衛達を中心に騒々しくなる。


「『雪凪殿下』達がついた以上、月夜伯爵嬢の勝ちだろう」

「そう簡単にうまくはいくまい。なぜならば、『陽山侯爵』は筋が通っているのに対して、月夜伯爵嬢のは無理がある」

「でも、陛下は明らかに月夜伯爵嬢の意見を楽しんでいたように思う」


 周囲が話題になっているのは、『クレイジーサイコキング』が『私』か『ファッキン陽山侯爵』どちらを勝者にするかの予想だった。


 ———ギャラリーは気楽に楽しめていいなぁ


 そんな風に思いながら、私は『ファッキン陽山侯爵』の目を見て口論を続ける。


 …

 ……

 …………


「皆の者、静かにせよ…」


 先程まで目を伏せて考えていた『クレイジーサイコキング』がゆっくりと口を開く。その声を聞いた瞬間、先程まで盛り上がっていた空気感が静寂に包まれることとなった。


「……此度の『ゲーム』の勝敗は『小娘』の勝利とする。従い『猫宮瑠璃』は無罪とする!!わしの決定に異論があるならば聞こうではないか」

 ————よっし!!


『クレイジーサイコキング』が私の勝利を認めた瞬間、『ファッキン陽山侯爵』がバタンと音を立て、膝から崩れた。


 ————零夜お父様は嬉しそうに

 ————真里は涙を流していて

 ————奏音はブイサイン

 ————『くっ……殺騎士隊長』は縦に頷き

 ————瑠璃は声をあげて泣いている


 今すぐにでもみんなで祝したいと思っていたが、その思いをグッと留める。


 ————このまま異論がなければ……


『クレイジーサイコキング』を相手に異論を立てる者などいないだろう……。


 私はその時、本気でそう思っていた。


「ふふっ…陛下は大事な事を忘れておいでだ」

「『鈴代公爵』、わしが見落としていると?」

「…ふふっ。失礼致しました。陛下のご指摘通り、『ゲーム』では『月夜伯爵嬢』の勝ちは揺るがないでしょう」

「……ふんっ」

 ————悪霊退散!!悪霊退散!!当たり前だろう……!!私の勝ちだ!!


『クレイジーサイコキング』に異論を申し立てたのは『鈴代公爵』だった。『鈴代椎葉、椎菜ルート』の『裏ボス』的ポジションで、愛称は『腹黒メガネ』である。どうやら、『クレイジーサイコキング』は『腹黒メガネ』が苦手なのか不明だが、嫌そうな表情をしていた。 


「ふふっ…。陛下が私の事を嫌いなのは承知しています。なので、簡潔に申し上げますと『猫宮瑠璃』が無罪の場合、虚偽が問題になります」

「………その点はわしも考慮した」

 ———虚偽………


 どういう事だろうと頭の中で考えていると、1つ思い当たる節があった。先程、『ファッキン陽山侯爵』が瑠璃へ質問をしていた時、脅されていたとはいえ縦に頷いた。


「それに関しては『陽山侯爵』に脅されていた上に、間違えて頷いただけで………」

「月夜伯爵嬢、それが『公爵家』である私に通じる『言い訳』のつもりなのかい?」

「しかし、私は事実を………」

「ふふっ…。どんな事情であれ、『猫宮瑠璃』は『謁見の間』で嘘をついたんだ。これを聞いても、まだ分からない君ではないだろう?」

 ————こいつっ……!!心頭滅却!!心頭滅却!!


 前世のモニターで何度も目にした『鈴代公爵』の自分以外の人を心の底から小馬鹿にするような喋り方に『ファッキン陽山侯爵』の方が可愛く見えるほどにストレスが生じる。


 ———言ってることがわかるのが悔しい……


 例え脅されていても

 例え間違えていたとしても

 この『謁見の間』で瑠璃の行動は間違いなく『虚偽』の行動だった。

 


「……小娘はまだ若い。なにより、わしのお気に入りだ。確か…『猫宮瑠璃』の処遇だったか?ならば、わしにいい案がある」

「……陛下、流石のご慧眼です。ふふっ…そういえば、月夜伯爵嬢は『王立魔法学院』に通う前の若いお嬢様でしたね…」

 ————毎回、一言が多いんだっ…!!


『腹黒メガネ』に指摘された事に私が戸惑っていると『敵の敵は味方』と言わんばかりに『クレイジーサイコキング』が庇ってくれた。


「へ、陛下………そ、その提案をする前にお聞かせください。なぜ、麿ではなく……」

「ふんっ…。陽山侯爵、今回の『ゲーム』の期間で何を準備していた?」

「も、もちろん。陛下に納得いただくため、献上品を揃えるための指揮を………」

「だから、小娘に負けるのだ。よいか?この『ゲーム』はわしをどれだけ楽しませつつ、『有罪』『無罪』を勝ち取れるか?だ」

「ではどうすればよかったと………」

「小娘が『有罪』の立場ならどう動いた?」


 自分が負けたことに納得のいかない『ファッキン陽山侯爵』は『クレイジーサイコキング』へ涙声になりながら、質問をする。


 その結果、関係なかった私の方に飛び火が回ってきたらしい。


「私が『有罪』サイドならば、そうですね……『魔法騎士』の買収及び猫宮瑠璃にもう1度、『暗殺未遂』の強要…でしょうか?」


『ファッキン陽山侯爵』はあり得ないと言わんばかりの表情を浮かべている。


 ———何かおかしいこと言ったかな?



 そう考えた私はこの『謁見の間』の周囲を見渡すことにした。その結果、一部の人達を除く全ての人達が私の発言したことに対して、『ファッキン陽山侯爵』と同じ表情をしていた。


「グハッハッハッハッ!!そうだ。それでいい。『ありとあらゆる手段』を行使する小娘のその姿勢をわしは気に入っている」

「し、しかし………!!」

「………この程度のことさえわからないとは嘆かわしい。もうよい。……………陽山侯爵、この場から立ち去るといい」


 私の回答を聞いて、豪快に笑ったのは『クレイジーサイコキング』だけだった。


『クレイジーサイコキング』が説明しても『ファッキン陽山侯爵』は納得はしない様子らしい。それどころか、まだ喰い下がろうとしていた。しかし、『忠犬騎士団』達の手により『謁見の間』を退室させられることとなる。


 その結果、『猫宮瑠璃』ルートで私を散々苦しめてきた宿敵の『ファッキン陽山侯爵』の最後は実にあっけなく『クレイジーサイコキング』により、幕を閉じる事となった。


 …

 ……

 …………


「ふふっ……滑稽でしたね。それより陛下の提案と言うものをぜひお聞かせ願いたい」

「簡単な事だ。陽山侯爵がわしに頼みこんだ根回しをそのまま小娘に譲渡をするだけだ。つまり、『猫宮瑠璃』を小娘の『奴隷』とする」

「ふふっ……流石です。これならば、陛下の決定に不満を言う者も減るでしょう」

「ふんっ……。化け狸が……」

 ————『腹黒メガネ』ェェ………ッッッ!!


 沸々と『腹黒メガネ』に怒りの感情が湧き、思いっきり睨んでみるが、『腹黒メガネ』に涼しい表情で受け流されてしまう。


 ————また、私はこの『恋クリ』でも瑠璃を救うことは…………



「………ミーはそれで構わないにゃっ!!!」


 

 目の前が真っ暗になり、下の方を俯いていると、『忠犬騎士団』に囚われていた瑠璃の方から大きな声が聞こえてきた。


「小娘、顔をあげよ。そして、あの猫族の表情を見るがいい」


 ————私はまた救えなかった……

 ————きっと瑠璃もそんな私を……


 憂鬱になりながら、『クレイジーサイコキング』の声に従い、恐る恐る俯いていた顔を上げて瑠璃の方を見る。


 ————瑠璃はきっと怒っている

 ————恨まれても仕方ない


 でも、私の予想に反して『猫宮瑠璃』表情は満面の笑みを咲かせていた。

 


「小娘、お前が大切にしている『あの猫族』の笑顔を勝ち取ったんだ。誇るがいい」

「どうし……」

「……手の掛かる娘さ。ほら、行くのさ」

「……零お嬢様、今日だけですよ…?」


 困惑する私の背中を押してくれたのは近くにいた零夜お父様と真里だった。


「零、行ってやるのじゃ」

「零、行くべきだ!!」

「月夜伯爵嬢、待っている!!」

「月夜伯爵嬢…!!あの子のところへ!!」


 そして、奏音や『くっ……殺騎士隊長』だけでなく、『謁見の間』にいた侯爵や護衛達もいつのまにか、私を激励している。


 ————もうっ……なんでこんなにも……


 私に掛けられる応援の言葉を胸に刻みながら、ゆっくりと瑠璃の方へ移動する。


「ミーは、『間者スパイ』だったからにゃ…。たとえ助かったとしても、自由の身になれるなんて思ってなかったにゃ」

「それでもっ……私は約束を………」

「……少し前に、月夜伯爵嬢はミーの『居場所』になってくれると約束してくれたにゃ」

「………うん」

「ミーはお礼を伝えたかったにゃ!!本当にミーを命を賭けて守ってくれたにゃ!!!大好きだにゃ!!」

「………私の力が及ばすごめんなさい……それでも私は瑠璃を愛している。もう、絶対離さないんだからっっっ…!!」


 瑠璃が兵達の包囲を破って私の方へと、抱きついてきた。そんな瑠璃を私は受け止めて、彼女に力強く抱きしめる。


 そして、私と瑠璃が抱擁を交わしていると、『謁見の間』で盛大な拍手の連鎖が巻き起こることとなった。


 …

 ……

 …………


 もちろん、瑠璃とずっと抱擁している訳にはいかない。気まずそうな表情をした『忠犬騎士団』の隊員に、離れるように注意を受ける。


「気持ちは分かるのじゃ。ただ、手続きや『隷属の首輪』を準備する必要があるのじゃ」


 いつのまにか私の付近にきていた奏音から説明を受けて納得した。


 その後、『クレイジーサイコキング』による『終了宣言』と共に私達は『謁見の間』から退室する事で終わりを迎える事となった。


 …

 ……

 …………


「そう言えば、我が君が零に話があるから先に部屋の前で待てと言っていたぞ」

「……その、灯火は大丈夫です?」

「ああ…!!零の好きな人があのメイドと猫族だという事が分かったからな!!」

 ———声が大きいんだよっ!!零夜お父様に聞こえていたらどうするんだ!!


 後ろの方から着いてきている真里と零夜お父様に聞こえていないようにと祈りをこめる。


 そして、そのまま『くっ……殺騎士隊長』と私を護衛する『忠犬騎士団』の隊員達と共に階段を降りていく。

 

 ————私、少し前まで『野良犬』扱いだったんだけど?


 いつの間にか、零夜お父様よりも私の方が護衛が厚くなっていることを考えると、『野良犬』から相当ランクアップしたらしい。


 モヤモヤとした気持ちのまま、私は奏音の部屋の前で奏音が来るのを待つこととなった。


 ーーーーー


 後2話程のエピローグを挟んで『猫宮瑠璃救済ルート編』は閉幕となりますm(_ _)mよければレビューや感想などいただけるとモチベーションにつながるのでお待ちしています!!

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