デスゲーム開始

「……じゃあ真里は死なないよ。だって、この『デスゲーム』は私が勝つから」

「何を根拠に………そんなことっっ!!」

「私と雪凪殿下が組めば、最強だからかな?」

「やはり、零と雪凪殿下は……」

「ええ。『雪凪殿下』は私側の人間です」

「それでもっ……」

「確かに、それならば…」


 奏音が私の味方だと伝えると、考え込みながら納得する零夜お父様と奏音が味方でも不安を拭いきれない真里の2つの反応に別れる。

 


「真里、いつも心配ばかりかけてごめんなさい。こんな私に着いてきてくれてありがとう」

「急に何を……」


 真里が抱くその拭いきれない不安は私を想っての事なんだと思う。だからこそ、彼女へ自然と謝罪と感謝の気持ちが湧いてくる。


 ———そういえば、私がこの世界の『恋クリ』に来たのも真里が始まりだった…。


 そんな風に考えていると真里と月夜家で過ごした日々が私の脳内で蘇る。

 

 ーーーー


 私が『月夜零』として生きた日々には原作の『恋クリ』の表舞台に立てなかった1人の小柄で表情豊かなメイドが必ず、私の隣にいた。


 ———すぐに涙を流す真里

 ———いつも笑顔な真里

 ———時に大胆な行動に出る真里

 ———お姉さんっぽい真里

 ———小悪魔のような真里

 ———覚悟を決めた真里


 最初は『噛ませ犬推し』の事ばかり頭で考えていたはずだった。それなのに真里は私が気づかない内に『噛ませ犬推し』と同じくらい『私の大切』になっていた。


 ーーーー


「真里、あなたのお嬢様が『夢想王』と『陽山侯爵』に勝つ姿を信じて頂けませんか?」

「…………そんな聞き方、ずるいです」


 自然と私の右手が真里の方へ伸び、彼女の顎を持ち上げ、彼女の瞳を見つめながら尋ねる。


 ———『顎クイッッッ』!?元『3JK』の私がしているの!?!?


 真里の事を思い出して彼女をどう説得するかを頭の中で考えていた私は無意識のうちに恋愛高等テクニックの内の1つにある『顎クイッッッ』を身体で習得していたらしい。

 


「……ゴホンッ、どうやら解決したらしいさ。それならば、私は自分の部屋へ帰るとするさ」

「零夜お父様、この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした…」

「零にとって『手が届いた範囲』なんだろう?それならば、全力で足掻くといいさ」


 当然、無意識で行動してしまった故に『顎クイッッッ』の辞めるタイミングが分からず、少しの間、真里と見つめ合う形になる。


 そんな私達の様子を見た零夜お父様は気まずいと感じたのか、咳払いをした後、私を激励し、自分の部屋へと移動した。


 …

 ……

 …………


「零お嬢様?そろそろ離して頂けると……」

「ご、ごめんなさい!!」


 結局、零夜お父様が戻った後も『顎クイッッッ』のやめ時を失った私は真里に言われるまでそのままの姿勢を続けてしまう。


「け、決して、嫌とかじゃないんです……。むしろ、嬉しくて……でも、零お嬢様の行動を喜んでる場合でもなくて……」

「う、うん……」


 その結果、真里と私の間で気まずい空間が完成してしまった。


「……………その、改めて質問させていただいてもよろしいでしょうか?零お嬢様は明日からまた王城へ行かれるおつもりですか?」

「ううん…。もう既に手は打っているよ」


『クレイジーサイコキング』に与えられた期限は『3日』である。セオリー通りに考えるならば、初日に『作戦』を練り、2日目に『実行』して最終日に『調整』をする。


 もちろん、これは『ファッキン陽山侯爵家』のような派閥がある時である。


 私のような奏音しか味方にいない『少数精鋭』の場合、1日目に『作戦と実行』をして2日目と最終日にのんびりする方が勝ちやすい。


「まさかですけど、明後日まで何もしないつもりでいるんですか??」

「一応、そうなるのかな…?」


 私の返答に言葉がでない真里は唖然とした様子になる。でも、私の提案した『デスゲーム』は『無罪』か『有罪』を決めだけのゲームだ。


 だから、私は私が思いついた作戦を実行するために奏音や瑠璃や『くっ……殺騎士』隊長の力を借りる必要があった。それを夢想王城に訪れていた日に済ませただけである。つまり、元より私のやるべき事と言うのがほとんどない。


 簡易的に真里へ伝えて説得を何度も試みたが、彼女はそれでも不安そうな表情をする。


 そのため、その日の夜は真里が聞いてくる度に彼女の頭を両腕で抱きしめながら、大丈夫と言い聞かせ続けて過ごす1日となった。



 …

 ……

 …………


 窓から陽が差し込んだのを確認した私はベッドから上半身を起こす。


 ———いよいよ、今日かぁ……


『クレイジーサイコキング』との決戦を控えた朝がやってきた。ちなみに、昨日は宣言通りに午前中は朝食のビュッフェを取った後、真里が淹れた紅茶を片手に色々な事を話していた。


 そのまま真里と話していると途中で私達の部屋に零夜お父様が訪問してきた。


 そのため、零夜お父様も交えて『夢想王城の出来事』の話をする事で昨日を過ごした。


「零お嬢様、おはようございます」

「真里、おはよう」


 自分の支度を整えていた真里だったが、私が起きたことに気づいたらしい。そして、私自身が自分の身支度を始めようとした頃には真里が零夜お父様の部屋へ移動して彼を呼びに行く。


 そして、自分の準備を一足先に終えた私はソファーの方へ移動して寛ぐことにした。


「零、おはよう。待たせたのさ」

「零夜お父様、おはようございます」

「それでは、朝食の会場へ向かうとするさ」

 

 真里が零夜お父様が準備を終えたため、私は2人と合流する。


 そして、近くの階段を降りて左側へ直進すれば、その奥に白金色の大きな扉があり2人のウェイトレス達が待つビュッフェ会場へ到着した。


「「いらっしゃいませ…月夜伯爵御一行様、ごゆっくりどうぞ」」


 私達が来るのを待っていたウェイトレス達が気持ちの良い挨拶をした後、扉の奥のビュッフェ会場のコーナーへ丁寧に案内してくれる。その道中におすすめの料理等を教えてもらいながら、テーブルの方へ到着した。

 

 どうやら、案内してくれたウェイトレスによれば、今日は魚とお肉がおすすめらしい。


 ———昨日はお肉だったから、今日は魚にしようかな?

 

 そんな風に考えた私は真里へ自分の食事をリクエストする。そして、最後に真里が自分の食べたい物を取ってきた後、3人で食べ始める。


 真里が選んできてくれたお皿には彩られた魚たちのポワレやムニエル等が乗っていた。


 ちなみに、零夜お父様は昨日と同じくお肉をメインにした盛り付けらしい。


 それに対して、真里は昨日と同じく野菜をメインに盛り付けをしている。


「零、信じていいかい?」

「…ええ」


 私が白身魚のムニエルを口に運ぼうとした時、零夜お父様が私を真っ直ぐ見つめながら念押しするかのように尋ねてくる。


 ———私が零夜お父様の立場でも心配だし…


 零夜お父様の立場も分かる私は、彼の瞳を見つめながらしっかりと頷く。


「それならば構わないさ」


 私の返事に満足した零夜お父様は再び食事に集中する。それを見た私も盛り付けられた食事を口に運び堪能することにした。


 …

 ……

 …………


 宿のビッフェを堪能した後、自分達部屋へと1度戻る。そして、チェックアウトを済まして、『夢想王城』へと向かこととなった。


「正直、複雑な感情です…」

「そうだね…。流石に私も緊張するよ…」

「ここまで来れば…行くしかないさ」


 馬車で行くべきかどうかと零夜お父様達と話し合いになったが、距離的に不要だと判断した私達は徒歩で夢想王城へ向かうことにした。


 ———帰りの下り坂は楽なんだけど、行きの登り坂はしんどいなぁ


 心の中でそう思いながら、坂を進んでいくと大きな城門が見えてくる。大きな城門の方向を目指して坂道を登っていくと、城門の警備をしている複数の『忠犬騎士団』達が見えてきた。


 驚くことに城門を警備している『忠犬騎士団』の中には『くっ……殺騎士』隊長もいる。


「零!!それと月夜伯爵御一行、ご機嫌よう…?」

「まさか、『如月隊長』が『零』と呼んでいるとはさ………。ふふっ、2人がこんなに仲良くなってるとは思っていなかったさ」

「月夜伯爵様、貴殿の娘である零殿と仲良くさせていただいている」

「……色々抜けている私の愛娘だけど、末長くこれからもよろしくお願いするのさ」

「こちらこそ、よろしくお願いする」

 ————痛っっっ


 そう言えば、真里と零夜お父様には夢想王城の出来事は話していたけれど『くっ……殺騎士』隊長と仲良くなった事は言ってなかった。


 なんだか、零夜お父様と『くっ……殺騎士』隊長の話を聞いていると全身がむず痒くなる。


 そんな零夜お父様と『くっ……殺騎士』隊長の話を聞いていたら、後ろに控えている真里に背中をつねられたため振り返る。


 真里の方を見ると『猫族だけではなくあの騎士もですか?』と言わんばかりのジト目をされたため、大慌てで頭を左右へ振る。


 ————『くっ……殺騎士』隊長と私がそんな関係になるわけないでしょ……!!


 心の声を口に出したいものの、この場では言えないため、心の中で叫ぶ程度に留めておく。


「灯火…!!改めて、ご機嫌よう。もしかしてだけど、その青色の髪はひょっとして…」

「ああ、零に言われた通りやってみたんだ。そうすると、我が君が見たことない程、私の姿を見て顔を赤らめたんだ……!!本当に感謝する」

 ———この短期間でどうやって染めたのかなぁ……。でも、何より幸せなら問題なし!!


『くっ……殺騎士』隊長は私のアドバイス通りに奏音の好みの外見へイメチェンをしたらしく、その結果が出てすごく喜んでいる様子だ。


 2日前に見たばかりの金色の髪がすっかり薄めの青色の髪へ変化しており、口調も『お嬢様』を意識している事が私に伝わってくる。


「それはよかったですね…。ちなみに『雪凪殿下』はどこへいらっしゃるんですか?」

「我が君ならば、既に『謁見の間』へいる」

「なるほど。それでは私達の案内は……」

「もちろん、私達がさせてもらう予定だ」

 ———なんだか『くっ……殺騎士』隊長以外の『忠犬騎士団』から睨まれているような……


 自分の胸を軽く叩いて自身ありげに話す『くっ……殺騎士』隊長とそれに付き従う『忠犬騎士団』の隊員達が案内してくれるらしい。


『くっ……殺騎士』隊長と奏音が順調に進んだ原因が私にあると思われているのか、『忠犬騎士団』の隊員たちから視線を感じる。


 ———でも、今はいっか…


 そう判断した私は私達の周囲を護衛する『忠犬騎士団』の隊員と先導する『くっ……殺騎士』隊長の後を着いていくこととなった。

 

 そんなわけで両面に咲いている薔薇畑を傍目に王城のエントランスへ入り、最上階の『謁見の間』へ続く手入れが行き届いている方の階段を無我夢中で登って行く。


 …

 ……

 …………


 最上階へ到着すると、前回の『謁見の間』の時と同じように『忠犬騎士団』の隊員達が大きな扉を開けて、扉の端へと移動をする。


「陛下、月夜伯爵御一行を連れて参りました」

「……小娘、わしを楽しませてくれ」

「ご機嫌よう。夢想王……もちろんです」


『謁見の間』の様子は前回来た時とほとんど同じ構造をしている。まずは、『くっ……殺騎士』隊長が『クレイジーサイコキング』へ報告する。しかし、『クレイジーサイコキング』はそんな報告に興味がないらしく、私の方に挑発の言葉をかけて来たので肯定しておく。



 ———最早、自分の『本性』を隠す気もないって訳ね……


 改めて『クレイジーサイコキング』に返答した後、『謁見の間』の周囲を観察する。


 ———前回と特に配置は変化なし…


 中央の方に『クレイジーサイコキング』と『王妃様』が椅子に座っている。


 そして、それぞれの両端に残りの『忠犬騎士団』と『3大公爵家』と『7つの侯爵家』に彼等を護衛するそれぞれの私兵達を侍らせていた。


 前回の『謁見の間』と変わっている点を挙げるのならば、左側にある『忠犬騎士団』の中央付近に刃先を首に当てられている瑠璃の姿があるということくらいだろう。


 ———瑠璃が脱走なんてするわけない!!その、刃先をどかせ…!!激怒激怒!!


 心の中でそう思ったものの……現状は瑠璃が犯人となっているため仕方ないと受け入れる。


 …

 ……

 …………


「集まったようだな。それではこれより『猫宮瑠璃』を賭けた『ゲーム』の開始を宣言する。まずは『陽山侯爵の主張』から聞こうか?」


 私達が来たことを確認した『クレイジーサイコキング』は、前回のつまらなさそうな表情ではない。目の前にいる『クレイジーサイコキング』は分かりやすく、右側の口角を斜め上に上げ高らかに『デスゲーム』の開始宣言をした。


ーーーー


 1章もラストスパートにさしかかってます。魔法が使われ始めるのは『次章』以降の予定です。


 もし、本作を応援してくださる方等おりましたら、感想などいただけますとモチベーションの励みになります。社会人は時間がない……orz

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