『噛ませ犬愛好家』、王立魔法学院を目指す
「零ちゃん、瑠璃ちゃん、真里行くわよ!!」
「えーと…零華お母様、今回は王立魔法学院試験のために王都へ行くんですからね?」
「そ、それはもちろん、分かってるわよ!!」
———本当かなぁ?
朝食を食べ終えた私達は、夢想王都へと向かうこととなった。同行するメンバーの中で1番張り切っているのは、私達以上に零華お母様である。
私がジト目を向けると咄嗟に逸らそうとする零華お母様を見て、零夜お父様が彼女に惚れた理由が少し分かった気がした。
「旦那様が既に馬車等の手配しておられたらしく、準備は整っております」
「ほ、ほら!!零ちゃん、分かったかしら?」
「え、ええ」
そう言えば『ファッキン陽山』の時も零華お母様は感情をオープンにしていたような気がする。
こういう『騙し•騙される』世界の『貴族社会』で零華お母様は癒しの存在だと思う。
零夜お父様は零華お母様を裏からサポートして、零華お母様は持ち前の天真爛漫の性格で零夜お父様のメンタルなどを緩和する。
———本当に零夜お父様と零華お母様は私の自慢の両親だよ…
未だにふふんとドヤ顔している零華お母様の機嫌をとりながら、『勇者』にはなれなかったけど2人の子供に生まれてきたことを感謝をした。
…
……
……………
「月夜伯爵婦人様方、お待ちしておりやした。今日は別嬪様揃いで、あっしの腕がなりまさぁ」
「青野さん、ご機嫌よう。私の自慢の娘共々をよろしくお願いするわね」
「これはこれは…月夜伯爵婦人様、あっしなんかにどうもでさぁ」
零夜お父様や真里以外の使用人達に見送られながら、月夜家のエントランスを出ると、前回と同じ馬車を引き連れた青野さんが待っていた。
私が応じようかと考えているたところ、零華お母様がニコリと笑顔を見せながら、応対する。
————これが零華お母様の外の姿
思い返してみると『パーティー』の時も『大人サイド』と『子供サイド』別れていた。
だから、零華お母様が家族や使用人以外で話している姿を見た事ない。
それ故に、普段の零華お母様とは異なるギャップを見た私は思わず、息を呑む。
「零お嬢様、乗りましょうか」
「
零華お母様が青野さんの隣の席へ腰掛ける様子を見ていたら、真里と瑠璃がそれぞれ左右から私の手を引いてくる。どうやら、2人は零華お母様の姿に何も驚いていないらしい。
———驚いているのって私だけ!?
その結果、そのまま私と真里と瑠璃は前回と同様、荷物の余白スペースに座ることとなった。
…
……
……………
ガラガラガラガラガラ……
———お尻痛いっっ!!
相変わらず、馬車の乗り心地は最悪である。
『元3JK』の私でさえ、幼い頃に1度は白馬に乗った王子様が私を迎えに来るなどと妄想をした事あるが、そんな役に立たない王子様より私にもふもふと言う癒しをくれる『猫族』が欲しい……!!
「
「零お嬢様、こんな時に瑠璃へ変な事をしないでください!!」
「えぇ!?私はいつものように……」
『お尻の痛みを忘れるため、瑠璃をもふもふしていただけ』と反論をしようとしたが、自分の右手が何かを掴んでいることに気づく。
「んっっ……にゃっ……」
次第に吐息が激しくなる瑠璃の様子を見て、恐る恐る自分が掴んでいた右手を確認すると、どうやら瑠璃の尻尾を掴んでいたらしい。
「零お嬢様………」
「えっと……これはその……事故だと思うの…」
「
———このまま甘い誘惑に乗り、瑠璃と真里と結ばれる運命も有りなのかな……。
私の返事をため息を吐きながら待つ真里
私に涙目を見せ、演技をしているつもりの瑠璃
きっと、真里や瑠璃にとっては冗談だ。
それでも『勇者』の問題や『腹黒メガネ』の問題を全て置き去りにして、逃げるのも悪くはないんじゃないかと私の脳裏に過ぎった。
————あーしは詩織を信じているんよー
しかし、その考えは奏音の言葉を思い出してすぐに頭を左右へ振り却下する。
「いつか、瑠璃も真里も責任取るつもりだよ」
だから、私はありのままの感情を彼女達に伝える事にした。
私には『
———『
後日談の凄惨なバッドエンドルートさえ避けれれば、私はそれ以上の介入をするつもりはない。
「ミーはその言葉だけで嬉しいにゃ」
「はい。零お嬢様、お待ちしてます」
私の返事に瑠璃と真里はそれぞれの笑顔が咲かせる。そんな2人を見て、私も幸せになった。
「でも、1つだけ確認をお願いします。その場合、私が『正妻』であっていますよね?」
「真里、それは違うにゃ。ミーが『正妻』で、2番目を真里譲るにゃ」
「これだから知識が足りない『猫族』はダメなんです。いいですか?零お嬢様とは私の方が先に出会ったのです。この意味がわかりますか?」
「過ごした時間は関係ないにゃ!!それにミーは
————またこうなるのかぁぁぁぁ
『今回は喧嘩なくハッピーエンド』とはならずに、真里と瑠璃はいつものように喧嘩を始める。
出会ったばかりの2人はそれぞれ互いを手探りする感じだったのに、最近はお互いを認めた上で自分の方が上だと主張し合っている。
————2人とも1番大切なんだけどなぁ……
結局、謎の言い合いをする2人を眺めながら、馬車の揺れに耐えることとなった。
…
……
……………
ガタンッ
馬車が停止した音がして、揺れがなくなった事を確認する。
「到着しやしたぁ」
「ほら、真里、瑠璃、起きて」
そして、青野さんの言葉を聞いた私は喧嘩で疲れて眠ってしまった真里と瑠璃を起こす。
「………っ!?零お嬢様、大変失礼しました」
「
真里は『やってしまった』と言わんばかりの表情をしているのに対して、瑠璃は相変わらずのマイペースだった。
「それじゃ、あっしは別の所へ行くんでぇ」
「青野さん、感謝いたします」
「あっしも助かってるんでお互い様でさぁ」
私達が馬車を降りたことを確認した青野さんは前回と同様、私達とは異なる宿に泊まるらしい。
そのため私達に挨拶をした後、馬車を率いて、別の場所へと移動してく。
…
……
……………
「青野さんに『おすすめの宿まで』とお願いしてみたら、ここまで運んでくれたのよ…!!」
今回は寝ていたわけではないが、馬車の中でぼーっとしていたら、いつの間にか千鶴子爵領内にある『菊さん』が経営している木造建築の宿の前に到着していたらしい。
「誰かと思ったら零華はん達やないかぁ…!!ほんに、久しぶりやなぁ…」
「お菊!?!?じゃあこの宿って……」
「零夜はん、伝えてなかったんかいなぁ…」
このまま青色の暖簾を分けて宿の玄関へ入ってよいのか、考えていたところに丁度いいタイミングで菊さんの方から出てきた。
「零華お母様と零夜お父様と菊さんの関係は…」
「昔、一緒に冒険者で組んでいたのよ」
「ほんに懐かしいなぁ……」
「それじゃ菊さんは……」
「零はん、領地を持たない『貴族』なんて結構いるから覚えておくといいさかいな」
菊さんに指摘されて、初めて気づかされる。
私が『恋クリ』で成人になったとして、『月夜家』を継ぐのは零士お兄様だ。そうなれば、私は『領地を持たない貴族』になるだろう。
「し、失礼しました」
「構へんよー。それより、零はん達は王立魔法学院の試験の道中でここに泊まりはるんやろ?それなら噂の『勇者』は警戒すべきやねぇ…」
「それはどういう………」
私が聞き返そうとすると菊さんは周囲に目線を配らせながら、私の口元に人差し指を向ける。その後、すぐに宿の方へ踵を返す。
その動作を見て理解した私は、宿の中へ入っていく菊さんの後に着いていくことにした。
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火曜日、多分投稿できません………。おそらく金曜日になるかと……申し訳ないです汗。この物語は必ず結末させるので、よろしくお願いします。
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