王立魔法学院試験編

『噛ませ犬愛好家』と差し迫る入学試験

 窓から太陽の光が差し込むと同時に目を覚ます。視線を上げると、私の両腕に包まれてすやすやと眠る瑠璃の表情見て、思い返す。


 …

 ……

 …………


『クレイジーサイコキング』『ファッキン陽山侯爵』『腹黒メガネ』のそれぞれ癖のあるキャラクター達と渡り合った『デスゲーム』は『ファッキン陽山侯爵』の1人負けと言う結果で幕を閉じることとなった。


 零夜お父様に後から聞いた話 だが、『ファッキン陽山侯爵家』はパーティーの件以来、自身の取り巻きの勢力を落としていたらしい。


 それに拍車をかけるように、『謁見の間』で『クレイジーサイコキング』の前で示した醜態の責を問われることとなり『侯爵家』から『子爵家』へと降爵となったそうだ。


 ———『腹黒メガネ』なんかに利用されるからそうなるんだよ……


 …

 ……

 …………


 私の方は『噛ませ犬推し』の1人である『猫宮瑠璃』を救済してから2ヶ月が経過した。


 その間の私の生活スタイルは『夢想王城』を訪れる以前と大して変わらない。


 目が覚めたら、瑠璃と作戦を練るのが日課である。もちろん、作戦内容は『天谷夫妻』が作る『朝食のつまみ食い』に関してだ。


 思考を凝らして色々な作戦を実行に移したにもかかわらず、なぜか真里に看破されてしまい、説教を受ける朝から始まる。


 ————気のせいかな?私の専属使用人になってから厳しくなったような………


 もちろん、真里自身も本気で怒っていない。


 そのため、説教自体は零夜お父様達が起きてきたら、すぐに解放となる。


「瑠璃、起きてー!!今日はどんな作戦にする?」

「にゃっ!?また懲りずにやるのかにゃ??」

「冷めた食事より出来立ての食事!!」

「ミーが抱いていたご主人様マスターのイメージがどんどん崩れていくにゃ」

「ふふんっ!!今日は別の考えがあるんだから」


 瑠璃が私にどんなイメージを抱いていたのかは分からないけど、今も昔も私は私だ。


「……毎日そう言って変装したり、夜遅くから張り込みをしたりして失敗してる気がするにゃ…」

「ちがうの!!今日の作戦は!!!瑠璃が真里の気を引く。その間に私が食べる!!その後、バトンタッチで私が気を引く!!その間に瑠璃が食べる!!」

「……………ご主人様マスターは天才にゃ!!それは名案だにゃ!!その発想はなかったにゃ!!」


 心外なことに瑠璃が作戦を聞くまで、私へジト目を送ってきたが、私の作戦を聞いた瞬間、すぐに私の立案した作戦を褒め称えてくれる。


「ずばり……今回の私の作戦の要は………」

「ミ、ミーだにゃ…!!」


 起きた当初とは全く異なるテンションでゴクリと息を飲む瑠璃に対して、私は真剣に頷く。


「瑠璃、任せたよ」

「ミーにお任せにゃ!!」


 そして、私と瑠璃は自分の部屋から抜け出し、瑠璃は真里の方へと向かって移動する。一方で私は『天谷夫妻』へ『ジェスチャー』を送りながら、つまみ食いをしようとした瞬間、


「零お嬢様、おはようございます!!」

「そ、そんな……瑠璃は……」

「え?瑠璃?見かけませんでしたけど…」

「な、なぜ……」


 私を見つけた真里が満面の笑みで私に話しかけてきた。心の中の声がそのまま口から零れると同時に疑問はすぐに解消することとなる。


ご主人様マスター、ごめんなさいにゃ。真里の部屋を間違ってしまったにゃ」

「………零お嬢様?旦那様達が来るまで楽しいお話をしながら、待ちましょうか?」

「零お嬢様、おはよさん。いやぁ、今日も今日とて失敗だねぇ」

「裕香の言う通りだぁ。まっ、次がありまさぁ」

 ————瑠璃ぃぃぃぃぃぃぃぃ


 勢いよく瑠璃が入ってきて、『部屋を間違えた』の言葉だけで全てを察する事ができた。心の中で瑠璃の名前を叫んでも無意味である。


 結局、真理に事情を問われながら、零夜お父様達がくるまで待機する事となる。私と瑠璃が真里から説教を受けてる間、ニヤニヤとした天谷さん夫妻から謎に励まされてしまう。


 ————変に慣れつつあるいつもの朝だぁぁ…



 …

 ……

 ……………


「零、瑠璃、真里、おはよう」

「零ちゃん、瑠璃ちゃん、真里、おはよう」


 いつものように椅子でぼんやり待機していると零夜お父様と零華お母様が私達の元へ訪れる。


 以前と少し変わった点は零夜お父様が『涼宮君』ではなく『真里』と呼ぶようになった所だ。


「零、瑠璃、またかい?」

「あなた、元々零ちゃんがお転婆なのだから、きっと瑠璃ちゃんが巻き込まれたのよ」

「……かもしれないさ。まずは朝食を頂こうか」


 そして、零夜お父様は額に右手を当て、零華お母様は笑顔で私と瑠璃と真里を交互に見ている。


 そして、零夜お父様の合図で朝食を取ることとなった。もちろん、朝食には私の専属使用人となった真里と形式上は『私の奴隷』の瑠璃も私や零夜お父様達と共に食事を取っている。


 ———-食事はみんなで食べる方が美味しいのになぁ……


 前世の『3JK』の弊害により自宅警備作業をこなしつつ、1人で『攻略掲示板』と『モニター』を監視しながら、日毎に異なる味のカップラーメンを食べ続けるより、今世のようなみんなで食卓を囲んで食べた方が美味しく感じる。


 まぁ、瑠璃と真里に関しては零夜お父へ私の方から交渉した。ゆくゆくは他の使用人の方々も一緒に食事を取れるようにしたいと考えている。


 当たり前だけど、この世界の『恋クリ』の常識に沿えば、『使用人』が『主やその家族達』と食事を取るなんてありえない事だろう。


 むしろ、真里と瑠璃が『特別』だと思うが、私は変な様式美に囚われるつもりはない。


 ただ、今すぐに『使用人達が私達と同じように食事を取れるように動く事は難しい』と考えた私は、一旦考えるのを辞めることにした。


 ————それよりも今日の朝食はっと…


 私は用意された朝食の方へと視線を移動する。


 今日の朝食のメニューは、焦茶色のバンズにとろとろの卵とハムが挟まっているエッグベネディクト、サラダ、黄金色のコーンスープだった。


「これはどうやって食べるのかにゃ?」

「瑠璃ちゃんには少し難しいかもしれないわね」

「奥方様、それでは私が……」

「真里、朝食の時くらい仕事をしなくていいの。ここは私に任せてちょうだい?」


 前世の記憶がある私ならば、素手で食べたくなるのをぐっと堪えてナイフとフォークで食べ進めていく。一方で、瑠璃にとってエッグベネディクトの食べ方は難しかったらしい。


 そんな彼女に対して、真里が教えようとするが零華お母様が直々に瑠璃を教えている。


「零、これを渡しておくさ」

「零夜お父様…これは……」


 そんな微笑ましい瑠璃と零華お母様の姿を見ていると零夜お父様が思い出したかのように金色のバッジを私へ渡してくる。


 零夜お父様から頂いた三日月の形状をした金色のバッジを渡される。


「それは零が『月夜伯爵家』の者であると示す証のような物さ」

「えっと……なぜ、これを」

「3日後に王立魔法学院の試験があって必要になるからさ。そして、今年は『勇者様も受験』するらしく、試験自体を変更するらしいさ」

「ぐっ………」

「もちろん、私は約束を覚えているつもりさ」

 ————『勇者』様ね…。


 奏音に『勇者の情報』を教えてもらった日からかなりの日数が経過している。


 情報がどこから漏れたまでは分からなくとも、広がっていても不思議じゃない


 それよりも、今は零夜お父様との王立魔法学院の入学試験の約束についてだ。


 ———忘れていたわけじゃないんだけど…


 その証拠に、毎日のように『短剣』を召喚させて、瑠璃と真里とともに実験を行っている。


 実験の結果も紙に残しているが、残念ながら新たに判明した事実はない。


「………零夜お父様、ご安心ください。もちろん、私も覚えております」

「それなら私から言うことは何もないさ」

「それでは前回と同じように『夢想王城』まで、零夜お父様が着いてきてくれるのですか?」

「今回は私ではなくて、零華さ」

「前回のような除け者扱いはごめんよ!!…………と言うわけで零ちゃん、瑠璃ちゃん、真里、よろしくお願いするわね?」


『デスゲーム』の件で有耶無耶にできないだろうかと密かに希望を抱いていたが、零夜お父様は『王立魔法学院試験の約束』を覚えていた。


 それよりも驚いた点は、今回の同行者が零夜お父様ではなく零華お母様だと言うことだ。


 ———別に零華お母様を除け者にした覚えはないんだけど……


 なぜか怒っている零華お母様を宥めながら、私と瑠璃と真里は視線を合わせ、縦に頷く。


「お母様、ご主人様マスターの事はミーにお任せるにゃ」

「奥方様、零お嬢様の『専属使用人』であるこの私にお任せください」

「いやいや、ミーにお任せして欲しいにゃ」

「零お嬢様の『専属使用人』は私です!!」


 零華お母様が終わったかと思えば、今度は瑠璃と真里で火花が飛び散り合うこととなる。


 ————こんな感じで大丈夫なのかなぁ


 心の中で不安に思っていると零夜お父様となぜか視線が合い、同情の視線を向けられる。


 若干不安になりながら、今の状況も悪くないとフォークを進めていく。


 そうしていると、平和な朝食の時間はあっという間に終えることとなった。


ーーーー

2章のプロローグのようなものです。

これからもよろしくお願い致します。

11/26→内容更新

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