王立魔法学院入学試験 前編
「それじゃ月夜伯爵夫人様方、短い距離ではございますが出発しやすんでぇ」
青野さんの声と共に、馬車は動き始める。もちろん、零華お母様が青野さんの助手席に座り、私と真里と瑠璃は後方に腰掛けている状態だ。
…
……
…………
馬車が走り出して10分頃が経過した頃、王立魔法学院が遠目から見えてきた。もちろん、私達と同じような馬車が一列に並んでいる。
「毎年、この時期は馬車で混み合うんでぇ」
「他の国からも訪れますから仕方ありませんわ」
「気長に待ちやすかぁ」
前方から青野さんと零華お母様のやり取りが聞こえてきたが、私以外に大勢の受験生が集まる事は分かっていた事のため、割り切ることにした。
「零お嬢様、そう言えば試験対策って……」
「真里、この世には気づいてはいけないこともあるんだよ」
「…………まさかですけど、毎日行っていたあの妙な儀式が受験対策とは」
「真里、それは言い過ぎだにゃ。
「げふっ……!?ゴハッ……」
瑠璃なりに私を庇おうとしてくれたのだと思うが、フォローする言葉が逆に鋭利な刃物となって私の心へ突き刺さる。
「瑠璃の方こそ失礼です!!零お嬢様の『短剣』がただの『短剣』なはずが……………………ただの『短剣』だとしても零お嬢様なら……!!」
「真里も全然フォローできてないにゃ!!!」
「ブフォ………も、もうやめれ………」
真里が私の『短剣』をフォローしようと頑張ろうとしてくれたものの『実験』の日々を思い出したのか、いい言葉が思い浮かばなかったらしい。
そのため、『短剣の所有者』である私を今度はフォローしようとするものの、私の容姿を確認した後、言葉が行き詰まっている。
私をフォローしてくれようとする2人の気持ちは大変有難いが、このままでは王立魔法学院の入学試験を受ける前に私が気絶寸前である。
「え、ええ。そうですね……」
「そ、そうした方が良さそうだにゃ」
————気まずい空間だぁ……
私の提案に同意する真里と瑠璃なのに2人と視線が合わなくなる。
結局、王立魔法学院へ到着するまで、私と真里と瑠璃の間で微妙な空気が流れる事となった。
…
……
…………
「ご機嫌よう!!ようこそ、王立魔法学院へ!!」
「夢想王国出身の方はあちらに受付ですよー!!」
「他の国からの受験者はこちらが受付でーす!!」
「まだまだ時間は余裕がありますー!!」
「円滑に進めるために『家紋バッジ』の準備をお願い致しますわ!!」
「混雑してるため、校門より先は『受験生』の方のみでお願いします!!」
————おおっ……!!『恋クリ』で見たままの制服だぁ……!!
校門付近へ到着すると、ネイビーを基調とするブレザーに素肌を包んだ在校生と思しき生徒達が声を張り上げながら、受験生達を案内している。
男子生徒は赤色のネクタイに白色のカッターシャツに赤色の蝶ネクタイをしているのに対して、女子生徒は水色のリボンを着用していた。
———日本でも在校生の案内とかあったなぁ…
思い出したくない前世の暗黒学生時代を彷彿させる光景だと心の中で秘めておく。それよりも、私のためにここまで着いてきてくれた瑠璃や真里、零華お母様の方へ振り返る。
「それじゃ、私は行ってきます」
「ええ」
「零お嬢様、私は零お嬢様が無事に戻ることだけが望みです。お待ちしていますから……!!」
「
周囲は混雑しており、行き交う人の群れや大きな在校生による受験生の案内等で騒々しい。
ただ、幸運にも私達は既に菊さんの宿で別れの挨拶は済ませている。
だから、長い言葉はいらない。互いに頷き合った後、私は『夢想王国出身』側の受付の方へ、零華お母様達は馬車の方へと戻った。
…
……
……………
「僕の家は侯爵家なんだ。なぜ、その僕が並ばなければならない!!」
「あたしの家は伯爵家よ?納得がいかないわ!!」
王立魔法学院を受験しようとする生徒は基本的に爵位を持つ家系の子息・子女が多い。
当たり前だが、貴族でも爵位が低い家系の人口層は爵位が高い家族の家系よりも広い。
だから『伯爵家』や『侯爵家』の家系ともなれば、天狗になるのも仕方ないと言える。
「………この学院では『爵位』や『家格』は関係ございません。大事なのは『個々の強さ』です」
「魔法だろ?そんなこと分かってるさ。そして、例年の試験と同じように満点で………」
「ふふっ…今年の試験方式は『例年』とは試験方式自体が異なりますよ?」
「そ、そんな脅しは通じない!!」
「あたしはそんな試験方式に驚かないわ!!それよりも、この並ぶ時間が勿体無いのよ!!」
————年齢的には仕方ないのかなぁ……
案内している在校生は手慣れているのか、抗議の姿勢を示した『侯爵家』の子息と思しき金髪の男の子を軽く遇らうものの『伯爵家』の紫髪をロールにした女の子の不満には考え込んでいる。
「余も並んでいるのじゃが、余の時間よりも貴様の時間は有意義なんじゃな?」
考え込んだ結果、曖昧な返事で誤魔化していた在校生だったが、聞き馴染みのある奏音の大きな声が騒々しかった『試験会場全体』へ響き渡る。
「雪凪殿下………だ。本物だ…」
「それよりも王家が並んでいるなんて…」
「この学院は本当に…」
奏音の存在に気がついた受験生達は小さな声で話し始めるが、奏音は気にしないらしい。
「で、で、で、殿下の御前とはつゆしらず、大変失礼致しました…」
「良いのじゃ。それに見てみるのじゃ。なぜ、夢想王国の余達がトラブルを起こして、他国の方はスムーズに進んでいるか、考えると良いのじゃ」
奏音が指を指した方向を見ると、他国の受付が見えてくる。多少、喋り声は聞こえるものの、夢想王国の受付よりもスムーズに進んでいた。
最初こそ、奏音に指摘された女の子は恥ずかしさからか顔を紅潮させていたが、冷静になったのか、深々とお辞儀をして頷いた。
…
……
…………
「次の方、どうぞー」
「ご機嫌よう。月夜伯爵家の子女、月夜零と申します。それと月夜家の家紋バッジでございます」
「ご機嫌よう。拝借させて頂きますね」
王立魔法学院の試験の受付をしているのは先生と思しき方達で、資料を見ながら家紋バッジの鑑定を行っているらしい。ちなみに、私の受付担当は眼鏡を掛けた若い女の先生である。
———偽の家紋バッジかとか、調べてたらこんな長蛇の列になるよね…
「…確認できました。それでは最奥に進んでください。そうするとドーム型の『魔法実践場』が見えてくるでしょう。そこが今年の試験会場です」
「えっと……ペーパー方式とかではなく……?」
「どうせ後から分かることなので先にお伝えさせていただきますと、今年の試験は規定人数になるまで『生き残り戦』です」
自分の右手に刻まれた『短剣の刻印』を見る。
「えっと、『生き残り戦』とは……」
「『勇者』が現れる時は『魔王』が復活する時です。例年通りならば、魔法に関する『知識試験』と『実技試験』ですがやむを得ません…」
————え?え?オワタ………………
————私の装備、短剣……
————あれ?意識が………遠のいて……
呆然と立ち尽くした私に対して、受付の先生が案内人の在校生と思しき生徒へ声をかける。
そして、試験会場まで引っ張ってくれているものの、未だに私は心ここにあらずの状態だった。
ーーーー
まだかろうじて投稿していきます泣
モチベーションが低下中…
推しが『噛ませ犬』の特殊ゲーマーは転生先の世界で推し達を悲劇から守るために奮闘します 百合谷百合花と申します @syumidesu
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