『噛ませ犬愛好家』と『ファッキン陽山』と『クレイジーサイコキング』
夢想王国国王こと『クレイジーサイコキング』の名前を聞いて私のような反応になるのは一部のプレイヤーだけだと思う。
当時のとある出来事を思い出した事で夢想王国こと『クレイジーサイコキング』と呼ばれる所以となった記憶が私の脳内でフラッシュバックする。
ーーーー
そう。あの時はいつものようにコーヒーを片手に『恋クリ』をプレイした時だった…。
前世の私は『猫宮瑠璃』を『ファッキン陽山』の魔の手から救済するため、色々分岐ルートを決める選択肢の研究に励んでいた。
その時に敢えて『雪花王女』に嫌われる選択肢を選び続ければ『夢想王国』と深入りすることなく『猫宮瑠璃』にそのまま通ずる隠しルートがあるのではないか?そんな風に考えた。
当時の私はその考えをそのまま実行してしまったのだ。
…
……
…………
雪花王女『零太様、私が暗殺されかけたんですよ?なぜ私の味方をしてくれないんですか?』
零太『A.ごめん。僕が悪かった』
『B.確かに、大丈夫かい?』
『C.でも、あの猫族だって事情が……』
考えるまでもなくCを選ぶ。
ーーーー
雪花王女『零太様にとってあの猫族と私はどっちの方が大切なんですか!!』
零太『A.雪花王女』
『B.両方』
『C.あの猫族』
もちろん、『C』を選んだ。
それでも『恋クリ』の『雪花王女』のメンタルは鋼らしく、彼女の機嫌を戻すためのデートをすることで許して貰えることとなる。
ーーーー
雪花王女『今日の零太様との城下街デートのは新鮮でとても楽しかったですわ』
零太『A.僕も楽しかったよ。またこよう』
『B.今日は本当に来てくれてありがとう。気をつけて帰ってほしい』
『C.そんなことよりあの猫族は……ごめん、やっぱり何もない』
迷う必要もなく『C』を選んだ。
ーーーー
私は、その後に出てくる選択肢もずっと『C』を選び続けていた。そうすると、先程まで『零太』と『雪花王女』にスポットライトが当たり続けていたのに、突如として私のモニターに『夢想王国の謁見の間』のバックグラウンドが映し出される事となった。
私のモニターに映った『夢想王国の謁見の間』では『クレイジーサイコキング』と『雪花王女』と『魔法騎士団』が映っていた。
その後『クレイジーサイコキング』は私が『恋クリ』をプレイしている時には見たことがない笑顔を浮かべながら涙を流して悲しむ『雪花王女』の頭を撫でる異様なシーンが流れる。
———なんだ、これは…
最初は単純に疑問だった。ただ、その後すぐに私のモニターにはあの悪魔の文字が映る。
『 ファイナルミッション No6666 逆 襲 の 夢 想 王 国 』
『勇者』である零太にそれまで協力的だった『夢想王国』が変貌し逆襲してきたのだ。
しかも、普段ポンコツのはずの『魔法騎士団』共が鬼のように強化されていた。その結果、『勇者』にもかかわらず、抵抗虚しく敗北を喫してしまう事となった。
…
……
…………
この出来事を『恋クリ』の攻略掲示板に書き込んだところ、私と同じ事を試そうとするプレイヤーが続出した。
————私と同様に攻略をしようとする者
————単純に面白がる者
————怒った『雪花王女』の表情を見にいこえとするコアなファン
主にこの3つのプレイヤーに分かれたものの、この特異な現象は当時の攻略掲示板を騒がせることとなった。そして、多くのプレイヤーを交えて白熱した議論が交わされることとなる。
その白熱した議論の末に夢想王国の王は『クレイジーサイコキング』というふさわしい愛称が生まれることとなったのだ。
ーーーーー
———行くしかないかぁ……
奏音と『忠犬騎士団』達がついてこいと言わんばかりに、王城内の奥の方に続く階段へ昇っていく。そんな彼等の姿を見た零夜お父様は同じように階段の方へと歩き始める。
「零お嬢様……大丈夫です…。怖いのは零お嬢様1人ではありません…。最も平民の私が零お嬢様にできることなんてございませんが…」
「そんなことないよ……。真里、いつもありがとう。真里のおかげ勇気をもらえたよ」
「零お嬢様のお役に立てたなら光栄です…!!」
なかなか進んでくれない足に力を込めていると私の手に真里の右手が勇気を与えてくれる。
———あの時の『ファイナルミッション』なんかにビビるなっ……!!
自分自身を心の中で鼓舞した後、私と真里は手を繋いだまま、先に進んだ零夜お父様達に置いていかれないように、足早に王城内の奥へ続く階段の方へ駆け上がって行った。
ーーーー
そして、そのまま夢想王城の階段を登り続けて最上階まで上がると、少し先の方に煌びやかな扉が待っていた。
———如何にもって感じのエントランス…
キィィィィィ………
まずは『忠犬騎士団』達が甲高い音を鳴らしながら、扉を開ける。
そして、彼等は扉を開けた『忠犬騎士団』達のそれぞれが煌びやかな扉の端へ寄る。
彼等が並んだのを確認した『くっ……殺騎士』隊長が奏音と共に『謁見の間』へと続く中央の道を歩いていく。
同じように奏音達が歩いた後に零夜お父様、私、真里の順で通ることとなった。
———ここが『謁見の間』
私の目に飛び込んできたのは中央には2つの大きな椅子があった。
その椅子に腰掛けているのは濃い青色の髪の上に小さな王冠を乗せて、馴染みのあるつまらなさそうな表情をしている『クレイジーサイコキング』だった。
そして、その右隣には淡い水色の髪の上に小さなティアラを乗せて笑顔のままと言う対照的な『夢想王妃』が座っている。
———私にとっての『猫宮瑠璃攻略のラストボス』………!!現実で見るのとモニター越しで見るのとは『圧』が違う……!!
一方で中央の椅子から見て右端には皇族に準ずる権力を持つ『3大公爵家の当主』と『7人の侯爵家の当主』がそれぞれ腰掛けており、彼等の周りを各自の護衛と思しき者達で侍らせていた。
———『鈴代公爵』『ファッキン陽山侯爵』といい、後に私の敵になるであろう者がこの『謁見の間』に集結されているなぁ………
中央の椅子から見て反対の左端には他の『忠犬騎士団』の残りの騎士達が横に並んでいる。
「陛下…お連れしたのじゃ。こちらが月夜伯爵と余の友達である月夜伯爵嬢ですじゃ」
奏音以外の『くっ……殺騎士』や零夜お父様や真里は既に跪いている。
———私も跪ずかなければ……
———まて。跪いてどうする?
———下に出てもこいつの性格上………
『クレイジーサイコキング』は私にとって畏怖の対象ではあるが、同時に何度も苦渋を飲む羽目となった因縁の『敵』である。
———今、ここでこいつに跪いたら、それは負けを認めるのと同じだ…。何も私は頭を下げて『お願い』をしに来たわけじゃない!!
そう考えた私は目線を『クレイジーサイコキング』を真っ直ぐ見据える事にした。
「ふんっ……礼儀知らずの小娘。そうだな…。雪凪の招待客であり、わしらが呼んだ訳だから、わしからよくぞ来たと言っておこうか?」
なかなか跪かない私の様子を見た『クレイジーサイコキング』は、私の事を中央の椅子から見下ろしながら、私の方へと話しかけて来た。
「ご機嫌よう…。夢想王、単刀直入に申し上げましょう。件の猫族を解放してください」
『クレイジーサイコキング』と関係の構築は、私自身が拒絶した。つまり、これ以上の問答は意味がない。そう考えた私は『クレイジーサイコキング』にストレートな要求をする。
「あらあらぁ……」
そんな私の様子を見た夢想王妃は右手を口に当て、小刻みに震えながら笑いを堪えている。
「あの娘、陛下を前にして跪かないぞ」
「なんて不敬な……」
「そもそも誰だ」
「殿下の友達らしい」
「殿下の視界が曇ってしまったのか…」
当然、『クレイジーサイコキング』に跪かない私に対して周囲にいた『忠犬騎士団』や『侯爵家』達はざわめきはじめる。
奏音は大きくため息を吐く。そして、零夜お父様や真里は私の方へ小さく振り返って心配そうな表情を浮かべている。
「ふんっ…それは無理な要求だな。わしの息子を暗殺しようとしたのだぞ?『死罪』或いは『奴隷』行きは確定だな」
「………………………それって夢想王にとって面白いですか?」
———我ながら分の悪い賭けに出たと思う。でも、勝算が0ではない。
私の言葉に私の事を完全に『見下ろしていた』夢想王の表情がほんの少し変化する。
「…どう言う意味だ」
「私とゲームをしませんか?私が件の『猫族』を『無罪』にできたら解放してください」
————ここが勝負所っ!!
私の目の前にいるのは大事にしていた『雪花王女』が泣いていた時に最高の笑顔を浮かべながら、脳内では『勇者』を討つ事を考えた『クレイジーサイコ』野郎だ……!!
『クレイジーサイコキング』と目を合わせ、ゲームを提案すると明確に、何かを思案するような表情へ変化した。
「わしが受けるメリットは——」
「チップは私の『命』、賭ける対象は『猫族』、考えてもみてください。こんな命知らずの『ゲーム』を私以外に提案できますか?」
私の提案した『デスゲーム』に周囲は騒々しくなる。
先程まで私の行動に動揺しなかった奏音や『3大公爵』までもが私に視線を集める程だ。
———『クレイジーサイコキング』に頭を下げるくらいならば、自らの手で奪い取りに行く方が100倍いい…!!
周囲の者から見れば、『伯爵令嬢の命』を『ただの猫族1人』の命に天秤にかけているんだから、動揺するのは当然だろう…。
それとは正反対に私の提案を聞いたそれまでつまらなさそうな表情をしていた『クレイジーサイコキング』の口角が斜め上に上がった。
「グハッハッハッハッ!!小娘、お前は面白い!!それに遜られて強請られるよりよっぽど愉快だ!!わしはそのゲームとやらを引き受けてやるっ」
「……夢想王の温情に感謝いたします」
「………それにわしにとっては『百獣公国』の下っ端の『猫族』1匹逃す程度容易いからな?」
———瑠璃の正体が『百獣公国』の『
『百獣公国』とは夢想王国の上に位置する多種族国家で成り立っている国で『猫宮瑠璃』の出身国である。
ちなみに隣は『我龍帝国』であり『雪花王女』正規攻略ルートのラスボスが待っているのだが、今はいいだろう。
話を戻そう。
『百獣公国』には瑠璃のような地位が低い『猫族』もいれば、頂点に君臨する『虎族』等幅広くの『多種族』が存在する。
この『公国』の特徴と言えば『力こそ正義』の文化を掲げており、人間や魔族と違い、魔法が不得手な種族が多い。
その中でも母数が多くかつ耳や尻尾などを隠して人間に成り済ますことができる『犬族』や『猫族』は『他国へ
全ての情報を知っているにもかかわらず、この『クレイジーサイコキング』は私が提案した『デスゲーム』へ嬉々として乗る訳だ。
これを『クレイジーサイコキング』と呼ばず、なんと呼ぶべきなのだろうか。
…
……
…………
「へ、陛下、お言葉ですが……」
「あぁ……『陽山侯爵』、そういえばお前と『つまらない約束』をしていたんだったな…」
「そ、そんな……陛下達に忠誠の証として麿は献上しましたのに……」
『ファッキン陽山侯爵』は既に『猫宮瑠璃』の処遇について、『クレイジーサイコキング』へ根回しをしていたらしい。
———私が介入しなければどうなっていた…
きっと『恋クリ』と同様の結末を辿っていたに違いない。そうなれば、『猫宮瑠璃』を救済することはできなかった。
「それならばこうしよう。『猫族』を明け渡す条件の追加だ。『陽山侯爵』は『猫族』の有罪を示せ。これならば文句は言えまい?」
「っっ……!?」
「今のわしはそこの小娘のおかげで気分がいい。だから、もう1度言う。お前がやるのは『猫族』の有罪の証明だ。分かったか?」
文面だけを読み取るなら『クレイジーサイコキング』が『ファッキン陽山侯爵』を諭しているだけだ。
それだけのはずなのに『クレイジーサイコキング』から発された言葉の重圧が私の全身にピリピリっと押しかかってくる。
「陛下、そのような大役をこの麿に下さり、至極光栄です」
現状の有利性は『ファッキン陽山侯爵家』にあると考えるべきだ。既に事件として、重要視されている以上、それを覆すのは難しい。
その点に気づいた『ファッキン陽山麿侯爵』は笑顔で『クレイジーサイコキング』へ跪く。
「期限は3日だ。無論、小娘には『王城内の全通行の許可』を与える。隈なく調べるがいい」
「はっ!!」
「陛下の仰せのままに……」
こうして『クレイジーサイコキング』の手により『謁見の間』では、『猫宮瑠璃』の無罪証明をしようとする私と『猫宮瑠璃』の有罪証明をする『ファッキン陽山侯爵家』の完全に2つに別れることとなる。
そして、睨み合う私達の構図を見て嗤う『クレイジーサイコキング』と『夢想王妃』
———このクレイジーサイコキングが……
完全に私達を駒にして楽しんでいる王家を前にして思わず、心の中で毒付いてしまう。
「小娘、精々わしを楽しませろ」
「ええ。クレイ……ゴホンッ、失礼しました。夢想王……必ず眼福させましょう」
———あぶなっ!!
『クレイジーサイコキングルート』で見た通りの本性が『クレイジーサイコ』だっただけに、思わず、そのまま言いそうになった。
「月夜伯爵令嬢、この前のパーティーは麿の息子がお世話になったらしいの」
そういえば、『僕ちん』と同様、この親子は特殊な『一人称』を用いてたんだっけ……
「…ええ、少々自意識過剰が目立っておりましたので、世間の厳しさを教えてあげました」
「……図に乗るのは大概にした方がよいの」
私と私に因縁があるらしい『ファッキン陽山侯爵』改め『ファッキン陽山麿侯爵』の間で火花が散り始める。
最終的に『謁見の間』では『ファッキン陽山麿侯爵』vs私という『猫宮瑠璃を賭けた全面戦争』の開始のゴングが鳴ることでこの場は終わりを迎えることとなった。
ーーーー
なかなか伸びないです泣
レビューいただきました泣。本当にありがとうございます。推敲が甘かった部分があったので再度、文章の訂正しましたm(_ _)m
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