(前)救われないはずだった猫族は幸せを掴む
煌びやかな広間を出た後、ミーは騎士達によっていつもの独房に戻る事となった。
———ミーのために戦ってくれてたにゃ…。
あの時、ミーよりも幼い少女が王様や偉い人達を相手に物怖じせず、主張していた。
結果から言えば、『死罪』は免れたものの、ミーはあの娘の奴隷になる事で終える。
———不思議だにゃ。嫌な気がしないにゃ。
そんな風に独房の中で思い返して、考えているとミーの独房の前に複数の騎士達が現れた。
「猫宮瑠璃、本日より我が君………『雪凪殿下』の命により出所だ」
「……どういうことかにゃ。ミーを迎えに来てくれるのは月夜伯爵嬢のはずだにゃ」
こんな独房生活には飽き飽きしていた所のため、出ていけるのは嬉しい。
でも、ミーのご主人様は『雪凪殿下』ではなく、王様が指名した『月夜伯爵嬢』のはずだ。
「我々もその予定だった。……しかし、『我が君』がどうしても、『猫宮瑠璃』を綺麗にしてから月夜伯爵嬢へ会わせたいと仰せでな」
「綺麗に……かにゃ?」
「…ああ、頼めないだろうか?」
———なんだか悪い気はしないにゃ
騎士達がミーの前に頭を下げる。そんな彼等を見たミーは、彼等の頼みを聞くことにした。
…
……
……………
「出所かぁぁ?俺も出せやゴルァ」
「その猫族は俺達が可愛がってやっからヨォ」
「聞いてんのか?あ?」
「俺達が出た時は命がないと覚えておけよ…」
ミーの独房とは異なった大きな地下牢には様々な囚人が囚われている。
そんな地下牢に収監されている薄汚い男達から聞こえる数々の罵声に耳を塞ぎたくなった。
———今まではこんな奴らの声なんとも思わなかったのに………変だにゃ
ミー自身の変化に戸惑いながら、騎士達において行かれないように着いて行く。
…
……
…………
「『猫宮瑠璃』、待っていたのじゃ」
地下牢の階段を上がった後、エントランスの方へ移動する。その後、整備されている階段を登った先にある部屋の前に到着した。
部屋の前には『雪凪殿下』と彼の隣にいる事が多い騎士のお偉いさんが待っていた。
———名前まで覚えていないけど、『月夜伯爵嬢』に協力していた人にゃ
そして、ミーが来たことに気づいた瞬間、雪凪殿下は柔らかい表情をして歓迎する。
「ミーは何かやらかしてしまったのかにゃ?」
「ち、ちがうのじゃ。い、今から其方には綺麗になってもらうのじゃ」
————さっきも同じような事を言ってたような気がするにゃ。
そもそもミーは相手が『月夜伯爵嬢』とはいえ『奴隷』になる。『奴隷』といえば平民よりも階級は下がり、周囲の目も冷ややかだ。
そんなミーに対して、慌てて否定する『雪凪殿下』の様子を見て頭に疑問を思い浮かべながら、斜め右の方向へ首を傾げる。
「そんな考えなくて良いのじゃ。すぐに分かるはずじゃ。そんな訳で如月隊長、頼むのじゃ」
「任されました…!!さて、猫宮瑠璃、私達について来るといい」
状況がうまく飲み込めない中、雪凪殿下を見ていると騎士のお偉いさんに腕を掴まれる。
掴まれた瞬間、雪凪殿下へ視線を合わせる。
そうすると彼が笑顔で手を振ってきたため、ミーはそのまま抵抗する事なく、騎士のお偉いさん達に連行される形となった。
…
……
…………
「まずはあそこだ……!!」
「如月隊長、あそこですね!!」
「ああ…!!」
「そういえば、最近、隊長が抜け駆けしているような感じが………ひっ…す、すみませんっ」
「猫宮瑠璃のエスコートを終えた後、その話をたっぷり聞こうじゃないかっ」
「そ、そんなぁぁぁ」
ミーがどこかへ連れて行かれている中、引率する騎士達から親しげに話す声が聞こえる。
————すごく仲がいいんだにゃ……
そんな関係性を築けている彼女達に羨ましい気持ちを抑えつつ、ミー達は移動した。
…
……
……………
「ここはどこかにゃ……」
「まずは湯浴びだ……!!」
———それはまずいにゃ!!猫族にとって大量の水は天敵にゃ!!
その言葉を聞いた途端。逃げ出そうとする。
「「……ここは通しません」」
「にゃ!?」
………しかし、既に退路は閉ざされていた。
「猫族が水が嫌いという情報くらい我々も知っているぞ…!!観念するんだ…!!」
出口に2人
ミーの正面に3人
正面以外に3人
———諦めるしかないにゃ…
逃げられない事を悟り、ミーは首を横に振りながら手を挙げて浴場へと足を踏み入れる。
…
……
…………
ゴシゴシゴシゴシ……
「どこか痒いところはないだろうか?」
「………ないにゃ」
————人に洗われるなんて人生で初めてだけど、悪くはないにゃ…。
小刻みにリズムを奏ながら、手際よくミーの頭を洗ってくれる騎士の偉いさんに返事する。
「そうだろうとも…!!」
「如月隊長って頭を洗うの上手ですよねー」
「そうそう。私達の頭もたまに洗ってくれるんですけど…」
「「「「うんうん」」」」
「これでも私は姉だったからな!!」
ミーの返事を聞いた騎士のお偉いさんは上機嫌になる。そして、ミーの身体を洗ってくれていた他の騎士達が思い出したかのように騎士のお偉いさんへ話しかけて場が盛り上がる。
————ここはあったかいにゃ
胸の中で秘めた上、ミーは騎士達が話す話題へ耳を傾けながら洗われ続ける事となった。
…
……
…………
「次は衣服だ…!!」
「せっかく身体が綺麗になったのにボロボロのシャツ1枚とは…」
「なんだか勿体無いです…」
「今すぐ買いに行きましょう…!!」
王城で働いていた時でさえ『浴場』は避けていた。基本的に、水を浸したタオルで拭くことで身体の清潔感は十分に保てていたからだ。
———ミーの身体から甘い香りがするにゃ…
嗅ぎ慣れないミー自身から放たれている臭いについて考えていると、付近にいた騎士達が今度は『衣服』で盛り上がっているらしい。
「瑠璃、そう思わないか?」
「瑠璃ちゃんもそう思うよねー?」
「どうかなぁ?」
「さぁ、行こうかぁ」
———な、何が起きたんだにゃ
そんな騎士達を傍目で観察しながら、リラックスしているとミーの周囲を騎士達が囲いながら謎の同調を求めてくる。慌てて、縦にコクリと返事をするとミーの返事に満足したらしい。
…
……
…………
「あたし、瑠璃ちゃんにはこの服がいいと思うんだよねー」
「いいや、これだ…!!」
「如月隊長はおしゃれには疎いです!!」
「そ、そんな訳………」
その結果、リラックスできる暇もなく騎士さん達に連れてこられたのは、王城を出て真下の方にある商店街のような場所だった。
————かれこれ1時間くらい経過している気がするにゃ。
心の中でため息を吐きながら、そのまま騎士さん達のそれぞれの衣服争いを眺め続ける。
そして、長い話し合いの末、結局全部購入する事に至った彼女達は買ってもらったミーよりもウキウキな様子で王城へ帰っていく。
…
……
……………
「我が君、ただいま戻りました」
「うむ。零に借りを返しとかないと後から請求される利子が怖いのじゃ」
気づけば、夕日が顔を覗かせる時間となっていた。城門の方に戻る頃には『雪凪殿下』と残った男性の騎士達が周囲の護衛を固めていた。
「『猫宮瑠璃』、待っていたのじゃ。明日には零が迎えにくるから客室を案内するのじゃ」
「え?独房じゃないのかにゃ?」
「其方はもう『無罪』じゃ。だから、今日は王城内の客室に泊まってもらうのじゃ」
騎士さん達と話した後、ミーの方に向き直り、優しく話しかけてくれる。
「…………すまなかったのじゃ」
『雪凪殿下』はミーにだけ聞こえる声で謝罪した後、騎士さん達からそのままミーが泊まる王城内にある客室の案内を受けた後、そのまま部屋で夜を過ごすこととなった。
「ふかふかだにゃ……」
赤色のふかふかの絨毯、天井を見上げると大きなシャンデリアがある。そして、見たこともないくらい大きなベッドやソファーがある。
騎士達に振り回されてへとへとだったミーは即座にベッドへ寝転がる事にした。
…
……
……………
「おはようだ…!!猫宮瑠璃」
「ん、もう朝かにゃ…」
目を擦りながらゆっくりと上半身を起こすとミーの部屋へ騎士のお偉いさんが来ていた。そして、その時にあのまま寝落ちした事を悟る。
「そういえば、なんで騎士のお偉いさんがミーの世話をしてくれるのかにゃ?」
本来、こう言う世話係はミーのような『使用人』に任されることが多い。騎士ともなれば、基本的に警備や治安維持の方に回される。
少なくとも、ミーが働いていた時は客人の世話等は騎士がやることはなかった。
「無罪だったとは言え、気まずいだろう?」
「それはまぁ……そうにゃ」
「我が君の計らいだ…!!」
————どうして、ミーなんかのために
その言葉を聞いた瞬間、小さな声でミーへ謝った時の『雪凪殿下』の表情を思い浮かべる。
「あ、それより零が来ているんだった…!!急いで支度をしようっ!!」
「もう来てしまってるのかにゃ!?」
「我が君が零を案内しているところだ…!!」
いくら疲れていたとはいえ、眠り過ぎたことを反省する。ただ、反省ばかりしてる時間もない。急いでいる騎士のお偉いさんに、試着室へ連れて行かれることとなった。
そこで購入したばかり衣服の中から手短に取り出した薄い桃色のワンピースへ着替える。
その後、月夜伯爵嬢が待っていると思しき雪凪殿下の部屋へ移動することとなった。
ーーーー
1話じゃ終わりませんでした………m(_ _)m
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