『噛ませ犬愛好家』、ついに『猫宮瑠璃』と会う

 キィィィィィ……

 ———意外と重っ!!


「零、無理に其方が開けなくてもこれくらいは余が開けるのじゃ」

「い、いいえ。『野良犬』如きが『雪凪殿下』の手を煩わせるわけには行きませんから」


 既に私も奏音も『仮面』をつけた状態で話している。『仮面』を付ける理由としては、扉の前に『忠犬騎士団』がいるかもしれないと奏音が予想したからだ。


 もちろん、『野良犬』と言われた事に根を持っている私は『忠犬騎士団』が扉の前にいることを見越して大きな声で『野良犬如き』の部分を強調した後に扉を開ける。



「………『我が君』と………野良…ゴホッ、月夜伯爵嬢……お待ちしてました」

 ———わざとか?わざとなのか!?


 案の定、扉の前には愛する我が君である奏音を待っている『忠犬騎士団』が待っていた。


 そして、奏音が無事を確認すると、『くっ……殺騎士』隊長が話しかけてくる。


「零、言わんとしてることはわかっているつもりじゃ。それより如月隊長、余達を『猫宮瑠璃』の元へ案内するのじゃ」

「我が君、我々は話し合い、心から反省しました。だから『猫宮瑠璃』の面会も止めるつもりはありません。我が君の意思を尊重します」

「……うむ。それは良い事じゃ」

「その代わり、我々はご褒美を所望します。今、この場で『1日1回のご褒美タイム』をしてください。そうすれば、案内いたします」

「わー、是非見学させてくださーい!!」


 私達が『猫宮瑠璃』に会いたいと言えば、『忠犬騎士団』達が全力で止めてくると思っていたが、どうやら違うらしい。


 奏音が『忠犬騎士団』へご褒美をあげれば済むらしい。


 それならばと、私はその『1日1回のご褒美タイム』を見る以外の選択肢はないと判断する。


 これは決して、奏音への意地悪ではない…!!


 チラリと隣の奏音を見るとどこか遠くの方を見ながら口を少し開けて漠然としていた。


「『雪凪殿下』、早くしてくださいよー」

「私はこれが日々の生き甲斐なんだ…」

「野良い…我々の姿を月夜伯爵嬢に見せつけてやるんだっ!!」

「わ、わかったのじゃ」

 ———今、私のことを野良犬って言いかけた『忠犬騎士団』の隊員、出てこい!!


 ガサッ


 心の中で荒ぶっていると、プルプルと顔を真っ赤にさせた奏音が次々と『忠犬騎士団』からリクエストが飛んでくる。


 仕方ないと言わんばかりに『忠犬騎士団』達の要望を聞き入れ縦に頷くと、『忠犬騎士団』の隊員達が一斉に頭の兜を取り始める。


 ———何を始める気だ…


 そう思っていると奏音の前には隊員の列ができており、1番最初に並んでいる『くっ……殺騎士』隊長が奏音の前へと跪く。


「………よしよしじゃ」

「くぅぅ……『雪凪殿下』ぁぁ。憎きライバルが見ている前で……なんたる屈辱ぅぅ」

 ————おっふ


「隊長、早く変わってください!!私の番です」

「………よしよしじゃ」

「はぁぁぁぁん…これで明日も頑張れますぅ」

 ————おっふ


「次だ。次!!」

「………よしよしじゃ」

「うぉぉぉぉ…!!力が溢れてきますっ!!」

 ————おっふ


 これ以上はみない方がいいと判断した私は口を半開きにして遠くを眺めることに集中する。


 ちなみに、次々と奏音に頭を撫でられて各々の反応を示した『忠犬騎士団』達もやばいた思ったが、それらの隊員達の頭を抜けてやばいと感じたのは『くっ……殺騎士』隊長だった。



 …

 ……

 …………


「………満足したなら余達を『猫宮瑠璃』の元へ案内して欲しいのじゃ」

「かしこまりました。我が君と野…月夜伯爵嬢を『猫宮瑠璃』までご案内いたしましょう」

 ———また言いかけた!?!?


 アレから奏音に1人ずつ頭を撫でられ続けた『忠犬騎士団』の約40名程の隊員達はそれはもうやる気に満ち溢れている様子だ。


 そんなやる気に満ち溢れた『忠犬騎士団』達の瞳には私が見えていないのだろう。


 誰もが奏音の周囲取り囲み、厳重に護衛をしながら、『猫宮瑠璃』がいる場所へ先導する。



 ———おっふ……私のことは眼中にないらしい。後ろから着いていこう…。



 そう判断した私は『忠犬騎士団』達が通った道の最後尾をぼっちで歩いて行くことにした。



 …

 ……

 …………

 

『忠犬騎士団』の後に着いていくと、『謁見の間』へ続いていた階段とは全く異なる整備されていない階段が私の目の前に現れる。


 ———つまり、この先が地下牢って訳ね…。


 モニター越しではわからなかった夢想王城の構造に感心しながら、先に行く『忠犬騎士団』達に置いていかれないようについていく。


 長い階段を降りて行った先にあったのが、両端に松明が灯された薄暗い場所だった。


「いつ来てもここは苦手じゃ」

「我が君をこんな薄汚い所へ連れて行きたくなかったのですが………」

「あ?クソ王国のクソ王子が、俺らを見下ろしに来たってのかぁ?さっさとこっから出せってんだよ……ゴルァ!!」


 地下牢には衛星管理がされていないのか、はっきりとはわからないけど、何かが腐敗したような異臭が漂っていた。


 周囲を観察している間に、私達が来た事を1番端の檻にいた囚人が気づいたのか、早速汚い罵声と共に脅しを掛けてくる。


「貴様……我が君に……」

「よい。早く案内するのじゃ」


 奏音は脅した囚人を相手にせず、一方で囚人の言葉にキレかけている『忠犬騎士団』へ注意をして先に急ぐように指示を出している。


 …

 ……

 ………


「よぉ……ここから殿下、出してくれヨォ」

「お前ら、ここを出たら覚えておけヤゴラァ」

「げへ……よく見ろよ。後ろの方には可愛い嬢ちゃんもいるじゃねえの」

「お前ロリ◯ンかよ。でも、悪くねえ」

「ヒャッハァァァァ、釈放か?釈放か?」


 当たり前だけど、この地下牢には『猫宮瑠璃』以外にも多くの囚人がいる。


 そして、奥へ進んでいく度に汚いセリフや脅し等色んな言葉を投げかけられるが、一々相手にしていたらキリがない。最初の方はやや恐怖心もあったが、徐々にスルーができた。


 …

 ……

 …………


「こちらです……。『猫宮瑠璃』のような『王家』を手にかけようとした者や『魔法』が扱える者が入る特別な牢です」

「1つ質問いいですか?」

「月夜伯爵嬢、どうぞ」

「『魔法の書』なら『雪凪殿下』の部屋で見ましたが、書が流通しているなら貴族以外でも使えるのではないでしょうか?」

「はぁ…。これだから田舎者の野良……伯爵令嬢は世間知らずで困るんです。『魔法の書』1冊の価格は白金貨1枚以上です」

 ———少し聞いただけで、この回答とか絶許!!絶許!!許すまじ!!


 私の心が荒ぶっていると奏音と関係のない残りの『忠犬騎士団』達に悲しい物を見るまでみられて少し恥ずかしくなる。


 もちろん、基本的に魔法は『王立魔法学院』に入学してから習得するのは分かっている。しかし、あんなに『魔法の書』があるなら……と思っても仕方ないじゃないか!!


「まぁ、強盗等で平民が魔法を行使する場合もあります。ただ、そのような愚行をする者らが魔法の深淵に辿り着くことはないでしょう…」

「なるほど…」


 やれやれと言わんばかりに『くっ……殺騎士』隊長が補足してくれる。


「つまり、魔力のない零は関係ないことじゃ」

 ———ここぞとばかりにご褒美タイムの時の仕返しをされてしまうとは……


 私に仕返し出来た事で上機嫌になった奏音が『忠犬騎士団』達に『猫宮瑠璃』の独房の場所を尋ねて移動を始める。当然、私も置いていかれないように着いていく事となった。


 そして、移動した場所には端々に鯖が目立つ赤色の錬鉄製の扉がある。扉の中央には大きな数字で『No6』と記載されており、入り口は何重にも特別な施錠をされているのが分かった。


 その施錠を素早く解除していく『忠犬騎士団』達を見守る私と奏音


 …

 ……

 …………


「我が君、終わりました」

「それじゃ、零行くのじゃ」

「…うん」

「…我々はここでお待ちしております」


 自分の体温上昇と共に鼓動が速くなっていく事で、自分自身が『瑠璃』と会うことに緊張しているのが分かる。


 ———私は臆病者だ…


 心の底から自分自身をそう思うのと同時に、左手を胸に当てる。そんな私の弱気な様子に勘づいた奏音が私の右手を逃げるなと言わんばかりに強く握ってくる。


「分かってる…。今世は逃げないよ…」


 バンッ……


 奏音にだけ聞こえる声で呟いた後、私が赤色の錬鉄製の扉を勢よく開けた。


 扉の先に私の目に飛び込んだのは、殺風景で机と椅子と上層の方に小さな窓以外何もない小さな部屋だった。


 そして、その椅子に腰掛けていたのが、雪のようなふわふわとした真っ白な髪、大きな琥珀色の瞳、頭の側頭部に同じく真っ白な三角の耳が特徴的な私より少し大きい身体の猫族……。


 今、私がモニター越しで心の中で恋焦がれ続けた『噛ませ犬推し』の1人、『猫宮瑠璃』が私の目の前にいる。


「誰にゃ!?」


『瑠璃』が着ている肌につけている衣服は所々に穴が空いており、まともな食事を食べれていないのか、私の知ってる『瑠璃』とは異なり、やや身体が細く感じ、顔もやつれている。


 ———どうやって話せばいいんだろう

 ———何から……


 自分の心から溢れ出す感情が止められない。


「零……!!」

「なんだにゃ?ミーに近づいて……」


 そんな私の心とは別に私の身体は無意識のうちに瑠璃を求めていたらしい。


 奏音の声に気づいた時には、自分自身の身体を制御できずに瑠璃へ抱きついてしまった。


「ごめん……ごめんね。あなたを何度も守りきれなくてごめん……」

「零………」

「何を言ってるのか分からないにゃ…。だってミーとあなたは初対……」

「もう大丈夫だから……」


 ここの『恋クリ』の『猫宮瑠璃』が私のモニターに映っている『猫宮瑠璃』は別個の存在だと頭の中では分かっている。それでも、私は瑠璃のボロボロの状態を見て止められなかった。


 本来、ふさふさの真っ白な毛も所々で汚れている部分やボサボサになっていた部分もある。


 抱きついた時の瑠璃の体温もやや冷たかった。そんな瑠璃の姿を黙ってみている事はできず、彼女が言いかけた『初対面』の言葉の時に人差し指で静止した後、そのままその手で彼女のボサボサになっている箇所の毛を撫でていく。


「今世こそは私が守るから……」

「にゃ……そこは……!!ちょ………」

「はぁ……やれやれじゃ」


 最初こそ、私の毛繕いに声をあげていた瑠璃だったが、徐々にその声は小さくなる。そして、ボサボサの箇所が解消されたと同時にそれまでの無意識の行動から正気に戻る。


「あれ、私………もしかして………」

「先走りすぎなのじゃ。恐らく、感情が爆発してしまった所以なのじゃが、肝心な事を何も聞けずに終わってしまったのじゃ」


 奏音に指摘されて自分の腕を見るとすーすーと小さな寝息を新しい瑠璃の寝顔がある。


「………まぁ良く言えば、其方の暴走のおかげで警戒心は解けたっぽいのじゃ。なぜか、『猫宮瑠璃』も安心したのじゃ」

「そうなんですか?」

「余は、眠っている姿を見せるのは安心できる場所だからだと思うのじゃ」

「なら暫くこのままでいてもいいですか?」

「好きにすると良いのじゃ」


『仮面』を付けながら奏音と話すことに若干の抵抗感が生まれる。結果として、私の無意識な行動のおかげで瑠璃が安心してくれたはいいものの、今回の反省点は多い。


 ———もし、瑠璃が安心できなかったら?

 ———もし、瑠璃が不審に思ったら?

 ———もし、瑠璃が恐怖していたら?


 その結果に至っていた可能性もある。ただ、今は瑠璃に集中すべきだと判断した私は即座に頭を切り替えることに専念する。


 そして、考えた結果の末、私から奏音と『忠犬騎士団』へ頼み、瑠璃の回復を最優先の方針にすることとなった。


 ーーーー


 数時間くらい経過した辺りで、瑠璃は目を覚ました。奏音と私も地下牢や『謁見の間』の事もあって疲れていたのか、眠る寸前だった。


「『雪凪殿下』にゃ!?あの時は本当に……」

「………良いのじゃ」

「私が言えた義理ではございませんが、まずは自己紹介から始めませんか?」


 目を覚まして我に帰った瑠璃は飛び起きて、奏音を見るなり、即座に謝罪している。そんな瑠璃の様子を見た私は落ち着けるように自己紹介を始める事の提案をすることにした。


「改めまして、ご機嫌よう。私は月夜伯爵家の娘、月夜零と申します」


 奏音も瑠璃も私の提案に頷いた様子を確認した後、私はカーテシーをしながら名乗る。


「余は陛下の息子、夢想雪凪なのじゃ」

「ミーは猫宮瑠璃ねこみやるりだにゃ」


 そして、奏音に続いて瑠璃も自己紹介を終えることとなった。

 

 ーーーーー

 そこまでシリアスにはならない予定です……!!

 又、感想等ございましたら、いただけると励みになりますm(_ _)m


 ※本文一部改正していました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る