『零華お母様』vs『勇者』

「零お嬢様……おはようございます」

ご主人様マスター、おはようにゃ」

 ————あれ、私は………


 私の寝ている両側から真里と瑠璃の声が聞こえてきたため、上半身を起こす。


「零ちゃん、おはよう」

「零華お母様!?お、おはようございます。ひょっとしてですが、寝坊を………」

「気にしないでちょうだい。っつう……私も本調子じゃなくてね。それより青野さんを待たせているから準備をしましょう」

 ————私は寝坊だけど、絶対に零華お母様は2日酔いだなぁ………


 零華お母様が額を右手で抑えているのを見て、不調なのが自分だけではないことに安堵する。


 その一方で真里と瑠璃は私と零華お母様の分の荷造りまでもテキパキとこなしていった。


 …

 ……

 ……………


「零はん、分かってると思うけど……前回のような無理はせんようになぁ…」

「お菊、そのための私なのよ!!」

「ほんまや!!零華はんなら安心やねぇ。………それと、真里はんも瑠璃はんも急いだ方がええで」

「な、なにをかにゃ」

「師匠、それはどういう………」

 ————師匠!?!?わたしの知らないところで、いつの間にそんな師弟関係が……!?!?


 真里と瑠璃のおかげで手短に荷造りを終え、王立魔法学院へ出発するため外に出ようとした時、菊さんが私たちを見送りにきてくれた。


 見送りに来た菊さんは零華お母様と軽く話した後、今度は真里と瑠璃の方へ近づいていく。


 瑠璃はきょとんとした表情をしているのに対して、真里はやや食い気味である。そんな2人の様子を見て、前回の『小悪魔真里事件』を思い出した私は菊さんに全力で首を左右に振ってアピールをしてみるも、彼女が応じるはずがない…。


 ————なるようになるしかない…!!


 私は私なりに結論つけた結果、菊さんに何を吹き込まれたのか、瑠璃と真里は林檎のように赤らめながら、私と零華お母様の元へ戻ってきた。

 

 …

 ……

 ……………


「月夜伯爵夫人様方、お待ちしておりやした。行き先は王立魔法学院で間違いないですかい?」

「ご機嫌よう。ええ。王立魔法学院までよろしくお願いするわね」

「あっしにお任せくだせぇ」


 菊さんの宿を出ると本当に青野さんがいつでも出発できる状態で待ってくれていた。


「えーと、零華お母様、王立魔法学院の入学試験は明日かと思うのですが……」

「零ちゃんが行かなくていいなら行かないけど、まずは自分の眼で確かめるべきだと思うの」

「……………零華お母様のおっしゃる通りでした。私も王立魔法学院へ行ってみたいです」


 初めて訪れる場所と1度でも訪れた事のある場所では雲底の差がある。


 そう考えた私は、零華お母様の意見に賛同して、王立魔法学院に訪れることに賛成した。


「「ヒヒーンッッッ」」


 ガララララララ………


 私と零華お母様で話が纏まったことを確認した青野さんは馬達を引く。それと同時に馬達の大きな鳴き声を聞いた後、馬車が動き始めた。



 …

 ……

 ……………


「目的地まで到着しやしたぜぇ」


 馬車から走って数時間が経過した頃に青野さんの大きな声と共に馬車が停車する。


 完全に停車した事を確認した私は、真里と瑠璃と共に馬車から降りて周囲を確認する。


 ————これが本物の王立魔法学院……


 振り返ると近くに錬鉄製で出来た巨大な校門があり、その奥には校門より一回り大きい校舎と思しき建物がある。その建物を視界に入れた瞬間、モニター越しで見ていた『王立魔法学院』とは迫力等が異なり、思わず唾を飲み込む。


「懐かしいわねぇ…!!奥の校舎側に行けば、今頃零士も頑張ってるかしら…」

「ひ、広いにゃ……!!」

「ええ。私も初めて見ましたが、これほどとは思いませんでした」


 零華お母様は懐かしむような表情をしているのに対して、瑠璃と真里は驚いている様子だ。

 

「ここが私が通う王立魔法…………」

「「「「さすが、勇者:光朝雷様」」」」


 その後、私の言いかけた小さな感想は、突如として現れたハーレム集団の桃色の声援によって掻き消される事となった。


 ————いや、それより今なんて……


 私の聞き間違いでなければ、『勇者』と聞こえた。自分の聞き間違いだと信じたかった私は、慌てて声のした方へ身体を振り向かせる。


「僕は『魔王』を倒すのが『勇者』の役目だと思っている。だから、君達に『協力』や『手伝い』はお願いしても『見返り』は求めないんだ」


 ————どうし………


『勇者』の姿を見た瞬間、頭の中で前世の『思い出トラウマ』がフラッシュバックをする。


 それに付随して私の身体に異常な寒気、頭痛、吐き気、胸焼け等ありとあらゆる症状に見舞われ平衡感覚を失い、その場で膝をつく。


「零ちゃん……大丈夫!?真里、零ちゃんを任せるわ。瑠璃ちゃんは青野さんに伝えて来て」

「わ、分かったにゃ」

「承知しました。零お嬢様、失礼します」


 私の異変に気づいた零華お母様は真里と瑠璃にそれぞれ伝えた後、


「超級火魔法『不死鳥の踊舞フェニックスダンス』」


 零華お母様は『勇者』の集団を目掛け、魔法の詠唱を唱えた。零華お母様の足元から濃い赤色の魔法陣を出現し、その魔法陣から炎を纏った鳥が2枚の大きな羽を上下に動かし飛び出した。


 ————それより超級って……火魔法の中でも最上位クラスの魔法!?私の知識が正しければ地獄級、超級、上級、中級、下級のはずだけど……


「きゃぁぁぁぁ」


 零華お母様の魔法詠唱に気づいたのか、ハーレム集団にいた1人の女の子が零華お母様の繰り出した『不死鳥』を見て悲鳴をあげる。


「これはこれは……聖剣よ!!超級光魔法『光速一閃ライトアクセル

 ————こいつも既に『超級』クラス……!?

 

 空から急降下して襲いかかろうとする不死鳥に対して『勇者』は慌てる様子もなく、輝く聖剣で私の目では捉えれない程の高速で移動して降下する途中の不死鳥を真二つに斬り伏せた。


「どうして急にこんな事をしたのか、説明をお聞かせ願いたい」

「ご機嫌よう。『勇•者•様』がこの程度で死ぬはずはないでしょう?明日が本番の王立魔法学院入学試験の練習試験と思ってちょうだい」

「ふぅ……………なるほど、それにしてはハードな練習試験ですね………ギリギリでしたよ……」

「「「「さすが、勇者:光朝雷様」」」」

 ————これが勇者ッッッ!!『短剣』1本の私と比べてチートが過ぎるよ…………


思い出トラウマ』のせいで、体調が優れず真里に手当を受けている私でも『勇者』がギリギリではない事が分かった。


 それでも恋を見る乙女には『演技』と見抜けないのか、目がハートになっている。そんな乙女達の熱い視線に『勇者』は満足したのか、零華お母様や私達には何も話さず、移動を始める。


「勇者様も悪くはないのかもしれないにゃ……」

「ええ。しかし、私達には零お嬢様が……」


 青野さんが率いる馬車を引き連れてきた瑠璃と手当をしながら様子を見ていた真里が、許せない感想を漏らしたので2人の背中を強くつねる。


「い、いだいにゃ」

「い、痛いです……」

「真里と瑠璃が私の元から離れるなんて、絶対に許さないからっっ!!」


 無意識のうちに大きな声で話すと瑠璃と真里は痛がってるのに嬉しそうな表情をしている。


 ————まさか、菊さんの入れ知恵……?


 頭の脳裏に過ぎったものの、体調が優れない私は、零華お母様の提案もあり、一先ず王立魔法学院付近にある宿に移動することとなった。


ーーーー

実は転職しまして仕事を覚えることが多くて小説書く時間がないんです….

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