噛ませ犬愛好家は本音で話しメイドと甘いxx?

「月夜領に帰宅………ですか」

「そうさ。雪凪殿下もお疲れだろうさ…」

「お言葉ですが、零夜お父様………私は絶対に王城へ行かなければいけません」

「それはだめだ。零と涼宮君の安全を取るさ」


『恋クリ』に来て、私と零夜お父様の意見が真っ向から対立することとなった。


 一方で真里はどのように対応したら良いか分からないのか狼狽えている。


「零は『貴族交流パーティー』で仲良くなった雪凪殿下が心配なのはわかるつもりさ」

 ————ぜんっぜん、分かってない!!そっちじゃないからっ!!いや、大事ではあるけど違う!!


「違います………!!それに零夜お父様は、情報を聞いただけのはずです。それなのに『雪凪殿下暗殺未遂事件』を信じきっているんですか?」

「零『火のない所に煙はたたない』んだ。だから、私の気持ちを分かって欲しいのさ…」

「嫌ですッッッ……!!零夜お父様こそ、私の気持ちを分かってくださいッッッ……!!」

 ————あぁ…私はなんて我儘な娘なんだ…


 私と真里の事を想い止めようとしてくれる零夜お父様に真っ向から反対意見を主張する自分に若干の自己嫌悪が走る。


 ———でも、私は引けない…!!


 例え相手が零夜お父様でも、私は王城へ行く事を絶対に譲らない。一方で零夜お父様も折れる気はないらしく、対立はヒートアップする。


 …

 ……

 ………


「なんや、宿中に大きな声が聞こえはるなぁって思って見に来たら、親子喧嘩やねぇ…」

「菊……」

「菊さん、ご迷惑をおかけ……」


 気づかないうちに私と零夜お父様の声は宿中に響いていたらしい。すーっと襖を開けながら、菊さんが入ってきた。


「かまへんよー。ただなぁ、着飾った言葉の話し合いで平和的に解決っちゅーんなら、必ず一方が引き下がる必要があるねん…」

「譲れません…!!」

「父親として譲れないさ…!!」

「そない言い張るんならば………フェアに『本音』だけで主張すればええねん。それでも決まらなかったらうちとメイドで決めるさかいな」

「わ、私もですか?」

「仕方ないやろ?いくら『本音』で話しても、解決せん時もあるからなぁ。そういう時にうちらが『判決』するんよ」

「ひ、ひぃぃ……!!」


 平民で月夜家で働いている真里からすれば、自分の決断で『ご主人様』である私か『雇い主』の零夜お父様を選べと言われているんだ。


 ———そりゃ、悲鳴くらい出るよね…


 今にも泣き出しそうな真里の表情を見ると、無性に庇いたくなる気持ちを抑える。


「『本音』で解決できる可能性があるならば、それで構いません。『本音』で解決できない時は、真里と菊さんにお願いします」

「菊の案にのって、零の本音が聞けるならば、私はそれで構わないさ」

 ———まさか『恋クリ』で零夜お父様とディベート対決することになるなんて……


 先程までの崩していた姿勢をきちんと姿勢を正して、零夜お父様をまっすぐ見つめる。


 零夜お父様も、私の様子を見て同じように姿勢を正す。


「ここからは『本音』で語り合うとするさ。零は、そこまでして王城へ行きたいんだい?別の機会でも構わないはずさ」

 ———そうくるよねぇ


 零夜お父様や真里からすれば『雪凪殿下暗殺未遂事件』が起きたにもかかわらず、頑なに王城へ行こうとする私が理解できないのは当然だ。


「………隠していて申し訳ございません。王城に行きたい理由は、私が『雪凪殿下暗殺未遂事件』を起こした猫族を助けたいからです」


 想定していた質問だからこそ、私は零夜お父様にありのままの『本音』で答える。


 そして、私の答えを聞いた零夜お父様は目を見開く。近くで私と零夜お父様を見守る菊さんと真里まで私の『本音』に驚いてる様子だ。


「今、零夜お父様や真里は『会ったことないはずなのに』と思ったでしょう。その通りです」

「それならなぜ………」

「きっと、その猫族も私のことを『誰?』と思います。……それでも、私は知っています」

「先程から何を言って……」


『私は知っています』の言葉に反応した零夜お父様の声量が小さくなっていく。


「まず、その猫族が自分の意思で暗殺未遂を起こしたわけではないことを知っています」

「っ…!?」

「その猫族が真面目で不器用な事を知っています。だから、雪凪殿下は現に無事でした。」

「………一体なにを言って」

「零お嬢様………」

「私がその猫族達の太陽のような笑顔に光が見えなかった私の心を救ってもらいました」

「だから……助けたいと?」

「ええ。根拠もなければ証拠もございません。でも、その猫族に会って…………あ…」


 ———あれ、なんで涙が………


 1番強く主張したかった事が、私の頬から溢れる涙によって遮られてしまう……。


「零お嬢様、これを…」

「真里、ありがとう」

 咄嗟にハンカチをくれた真里に感謝を伝えながら言葉を続ける。


「お目汚し失礼いたしました。結局、私が言いたいのは……」

「今ならば『手が届く範囲』だからかい?」

「はい……おっしゃる通りです」


 私が王城で行おうとしているのは、瑠璃を無罪とするための『悪魔の証明』である。それでも、これをやらなければ瑠璃を救えない…。


「零の言ってることが本当だと仮定しよう。でも、今から零がやろうとしてるのは、仮にも王家を殺めようとした『猫族』の救済さ」

「……はい」

「その意味が本当に分かってるのかい?零は今から事情があるとはいえ、他人である猫族のために『国』と戦うことになるって事をさ」


 零夜お父様から発せられた言葉の『国と戦う』に関して、返事が即断できなかった。


 ———どんな事情があれ、瑠璃の行動は許されない。それは分かっている。


 私が瑠璃を救えなかった場合、月夜家はどうなる……?私の大切な真里はどうなる…?


 そう考えた瞬間、過去の『トラウマ』が私の脳内でフラッシュバックした。


 ーーーー


『南雲、お前のような陰キャが本当に俺と恋愛できると思ってたの?』

『超ウケるんですけどーーー』

 ———私に彼氏などできるはずがなかった…所詮、私は彼等の『噛ませ犬』だった。




『詩織、話がある。まずは扉を開けなさい』

『結局、あの子は逃げ続けるのね』

 ———それ以降、人と話すのが怖くなった…




 その後、現実逃避を目的として『恋愛遊戯ギャルゲー』の『恋クリ』と出会った。




『零太は優しいんだにゃ…!!でも、ミーは悪いことしちゃったから仕方ないんだにゃ』

『おーほっほっほっ…零太?わたくしならば、どこでもやれますわ!!心配御無用!!』

『零太…!!なんでもできる椎葉お姉様と違ってダメダメな私につき合わせちゃってごめんね?』

『れーたん………いつも遅くてごめんねぇ?』


 …

 ……

 …………


 私の脳裏に思い浮かんだのは『噛ませ犬推し』達のセリフシーン……。



『最初はなんでいつも笑ってられるの?』

『どうせ、それは運営の設定なんでしょ?』『だから、私と同じ『踏み台』にされても、前向きにいられるんでしょ?』



 人間恐怖症に陥っていた当初の私は『正ヒロイン』の踏み台にされた『噛ませ犬推し』達をそんな風に思っていた。



 でも、本編とは異なる後日談でそれぞれの『噛ませ犬推し』の末路を知った。



 どの後日談も凄惨な物で…………その時に彼女達の弱りきった姿を見てそこで知った。

 ———運営の設定なんかじゃない…。彼女達は笑うことでずっと耐えてたんだ…。



 その事実を知ってから、私は『噛ませ犬推し』が見せる前向きな行動や仕草をチェックするのご日課になった。



 きっと、最初は私もあんな風に強くなれていたら……そんな風な羨望からだったと思う。


 でも、いつの間にか『噛ませ犬推し』が私の生き甲斐となっていた。


 ———出会いはモニター越し、運命は運営の設定で決められている。


 それでも、好きだからこそ彼女達の残酷な後日談を避けたかった…。


 …

 ……

 ………



 一刻の猶予もない。

 臆病な私よ、もう答えは出ているはずだ。




 ーーーーー


「分かったなら大人しく明日は月夜領へ……」

「私は王城へ行きます…!!『命』を賭けて、『国』から『家族』を救います…!!」

「一切の迷いのない目つきか……。やれやれ、そんな顔されては止めれそうにないさ…」

 ———もう迷わない……!!私は王城へ、『猫宮瑠璃』を助けるんだ…!!


 答えを出した私に、零夜お父様は両手をあげて私の主張を認めてくれたらしい。


「着飾らない言葉の『本音』で話してみるっちゅーのも悪くないもんやなぁ」

「菊の発案だろう?明日は早朝出発になるさ。上手くいけば、明日の昼頃には王城だろう」

「零夜お父様………!!ありがとうございます!!」

「私は菊と少し話をするから涼宮君と零は早く明日に備えてお風呂に入り寝なさい」

「旦那様……お役に立てず申し訳ございませんでした。かしこまりました。おやすみなさい」

「気にすることはないさ」


 私も真里の後に零夜お父様へ挨拶した後、私と真里は『女性』と書かれた暖簾を潜り、部屋を出て奥の方にある脱衣所へと移動した。


ーーーーーーー


 ガラララララ……


 素早く服を脱いで近くの竹製の籠に入れ、脱衣所の奥のスライド式の扉を開ける。


 私の目に飛び込んできたのは前世でよく見た銭湯だった。


 既に浴室は湯気で充満されており、扉の付近にはシャワー等が設置されている。


 肝心の湯船に関しては1番奥の方にあり運が良かったのか、誰も入っていない。


 ———湯船広っ……!!


 とりあえず、1番近くにあったシャワーを使うことにした私は、端の方に並べられていた椅子を運んで自分のシャワーの前へ置く。


「零お嬢様……お背中流しますねぇ」

「真、真里!?い、いいよ。自分でできるよ…!!」

「零お嬢様はこのまま私から仕事を取り上げることで、私以外の方を専属使用人を募集するつもりなんですね……?」

「うっ……ちがっ」

「やっぱりそうなんですね…!!!私が朝食のつまみ食いを注意しすぎたばかりに…」

「なんだか真里に洗ってほしい気分になったから真里にお願いしちゃおっかなぁ…?」

「零お嬢様、お任せください!!」


 結局、真里に押し切られてしまった私は大人しく彼女に身体を洗われる事となった。


「痒い所などはございますかー?」

「………ないです。気持ちいいです」

 

 前世で元『3JK』のギャルゲーマー、おまけに自宅の警備員も兼ねていた私が他の人に自分の身体を洗われる経験などあるはずない。


 ———絶対、私の顔真っ赤だ…。恥ずかしくて、真里と目を合わせれない…。


「ふふふ、普段の凛とした零お嬢様もいいですけど、照れてる零お嬢様も可愛いです」

「っっう……」


 結果、前世の私がこんにちわする状態となり、真里になぜか可愛いと褒められてしまう。


 ーーーーー


「こ、今度は私も真里の身体を…………」


 暫くすると、ようやく前世の私を引き込めることに成功した私は、真里に先程の意趣返しをするため、彼女に提案する。


「零お嬢様が悶絶しておられた間に洗ってしまいました…」

「嘘ぉぉぉ…!!」

「あ、でも、零お嬢様がどうしてもというなら私の身体の隅々まで……………」

「………やっぱりいいです」


 なぜか真里に敗北した気分を味わったが、今度は切り替えて、掛け湯をした後、湯船に足からゆっくりと浸かる事にした。



 ———あったまるぅぅ………



 湯船の温度は42度ほどで、ほんの少し熱いと感じる程度である。


「零お嬢様、いいお湯ですねぇ…」

「だねぇ…。本当は長く浸かりたいけど…」

「仕方ないですからねぇ」


 結局、明日の早朝出発のことを考えて20分程だけ浸かって脱衣所へと戻ることとなった。


 ーーーー


「零お嬢様、少しお時間頂けませんか?」

「ん…いいけど。明日は早朝出発だよ?」

「最近の零お嬢様の朝はお早いですし、私はメイドなので慣れてます」

「それもそっか…」


 お風呂から部屋に戻ると既に敷布団が敷かれていた。そのため、私と真里はそのまま冷たい水を飲んだ後、布団の上に寝転がる。、


 暫く寝転がっていると真里から『時間が欲しい』と提案を受けたので、私は身体を起こして布団の上へ座り直す。


「あ、零お嬢様、今宵は満月みたいですよ」


 真里が見てる方向に視線を向けると窓から見える距離で夜空に満月が浮かび上がっていた。


「綺麗だね…」

「はい。本題に入りますが、零お嬢様にとって『猫族』の方はどんな存在なんですか?」

「……真里と同じくらい大切な人だよ」

「ほっ……そうでしたか。正直、先程の零お嬢様の話を聞いて猫族に妬いてしまいました…」

 ———確かに、瑠璃を救った後は今のように真里と2人きりの時間は難しいかもしれない。


 私が色々考えていると、いつの間にか真里は私の方に近づいていた。それに気がついた時、私の胸の鼓動が速くなっていく。


「零お嬢様は私の事、どう思っていますか?」

「そ、そ、そりゃ真里の事は好き…だよ」

「じゃぁ…私が猫族よりも1歩前に進みたいと言ったら、零お嬢様は許してくれますか?」


 明らかに真里のことを意識してしまい、うまく思考が働かない。


 そのため彼女の質問の答えにどう答えていいか、考えていた時、やや高い音と共に右頬に感じる人肌の温かい唇の感触があった。


 

 思わず、自分の頬に右手を当て…真里を見る。



「ふぇ!?真里…!?」

「零お嬢様、私はあなたが好きです。でも、零お嬢様は私以外にも好きな人がいます。……だから、頬だけにしておきました」

「え?え?」

「次はその人達に正々堂々勝って唇に………ゴホンッ、零お嬢様、それではおやすみなさい」


 事態が把握できないヘタレな私に真里は小悪魔のような意地悪な微笑みの後、ウィンクをする。そして、そのまま眠ってしまう。


 その日の夜、恋愛耐性のない私が先程の衝撃的な出来事により、一睡もできずに布団の中で永遠に悶絶し続けたのは、また別の話である。


ーーーー

今回は百合と己の過去を少し振り返る重要回でした。少しずつ情報を小出ししていきたい派ですので、全貌はしばしお待ちを…!!レビューや感想いただけますと大変喜びますm(_ _)m

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