第25話「クリスマスイベント:サンタの衣装に込めた想い」

 12月24日、クリスマスイブ。高城高校では、地域の子供たちを招いてクリスマスイベントが開催されることになった。3年A組は、サンタクロース役とその手伝いを担当することに。


 朝、準備のために早めに登校したちはや。教室に入ると、そこには既に蒼太の姿があった。


「あ、蒼太。おはよう」


「ああ、おはよう」


 二人は少し照れくさそうに挨拶を交わす。修学旅行以来、何となく気恥ずかしい雰囲気が続いていた。


「ねえ、衣装はもう決まったの?」


 ちはやの問いかけに、蒼太は少し困ったような表情を浮かべる。


「ああ、それが……俺、サンタ役に選ばれちまったんだ」


「えっ!?」


 驚きの声を上げるちはや。蒼太がサンタ服を着る姿を想像して、思わず頬が熱くなる。


「ちはやは?」


「私はトナカイ役だって」


 今度は蒼太が驚いた顔をする。ちはやがトナカイの衣装を着る姿を思い浮かべ、何だかドキドキしてしまう。


 準備が進む中、二人は衣装を着る。蒼太は真っ赤なサンタ服に身を包み、ちはやは茶色のトナカイの着ぐるみを着る。


「どう? 似合ってる?」


 ちはやが恥ずかしそうに聞く。


「ああ、可愛い……じゃなくて、似合ってる」


 蒼太の言葉に、ちはやの顔が真っ赤になる。


「蒼太こそ、サンタ様みたい」


 照れ隠しに言うちはや。しかし、本心からそう思っていた。


 イベントが始まり、子供たちが次々とやってくる。蒼太は緊張しながらも、優しく子供たちと接している。その姿を見守るちはやの目は、暖かな光を宿していた。


「ねえねえ、サンタさん! プレゼントちょうだい!」


 元気な男の子が蒼太に駆け寄る。


「ほら、いい子にしてたかな?」


 優しく語りかける蒼太。その声音に、ちはやは胸が高鳴るのを感じる。


(こんな優しい一面があったなんて……)


 気づけば、ちはやは蒼太から目が離せなくなっていた。


 一方の蒼太も、子供たちと接する中でちらちらとちはやの様子を窺っていた。トナカイの着ぐるみ姿で子供たちと遊ぶちはやの姿に、何度も目を奪われる。


(ちはや、子供たちと接するの上手いな……)


 そんな思いを抱きながら、蒼太は自分の役目をこなしていく。


 イベントも終盤に差し掛かったころ、一人の小さな女の子がちはやに近づいてきた。


「ねえ、トナカイさん。サンタさんと結婚するの?」


 突然の質問に、ちはやは言葉を失う。近くにいた蒼太も、その言葉を聞いて固まってしまう。


「え、えっと……それは……」


 戸惑うちはや。その時、蒼太が近づいてきた。


「そうだな。トナカイさんが良ければ、サンタさんはとっても嬉しいな」


 冗談めかして言う蒼太。しかし、その目は真剣だった。


「サンタさん……」


 ちはやと蒼太の目が合う。二人の間に、言葉では表現できない何かが流れる。


「やった! サンタさんとトナカイさんが結婚する!」


 無邪気に喜ぶ女の子の声に、二人は我に返る。


「ほら、もうこんな時間だ。みんな、帰らなきゃね」


 蒼太が優しく子供たちに声をかける。ちはやもそれに続いて、子供たちを見送る。


 イベントが終わり、二人きりになった教室。まだサンタとトナカイの衣装を着たまま、何とも言えない空気が流れる。


「なあ、ちはや」


「うん?」


「さっきの、あれ……」


 言葉を詰まらせる蒼太。ちはやも、何か言いたげな表情を浮かべる。


「私……蒼太のサンタ、素敵だったよ」


 勇気を出して言うちはや。蒼太の顔が、サンタ服と同じくらい赤くなる。


「ちはやこそ、可愛かったぞ」


 素直な気持ちを口にする蒼太。


 二人の間に、新たな何かが芽生えたような空気が流れる。それは、サンタとトナカイの衣装に包まれた、特別なクリスマスイブの魔法だったのかもしれない。

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