第23話「蒼太の誕生日:溢れる想いのケーキ」

 11月23日、蒼太の17歳の誕生日。秋の肌寒さが増す中、ちはやは早朝から台所に立っていた。


「よし、これで完成!」


 ちはやは満足げに微笑む。目の前には、手作りのケーキが置かれていた。チョコレートとストロベリーのマーブル模様が美しく、上には「Happy Birthday Souta」の文字が丁寧に描かれている。


(蒼太、喜んでくれるかな……)


 不安と期待が入り混じる複雑な心境。ちはやは深呼吸をして、自分を落ち着かせる。


 一方、蒼太の家では、両親からの祝福を受けていた。


「蒼太、17歳おめでとう」


 母の優しい声に、蒼太は照れくさそうに頷く。


「ありがとう」


 しかし、蒼太の心の中には、ある期待があった。


(ちはやからは、何かあるのかな……)


 そんな思いを抱きながら、蒼太は学校へと向かう。


 教室に入ると、クラスメイトたちから次々と祝福の言葉をかけられる。


「おめでとう、蒼太!」

「17歳か、いいなー」


 友人たちの声に、蒼太は照れくさそうに応える。しかし、その目は教室の隅にいるちはやを探していた。


 ちはやは、なぜか蒼太と目を合わせるのを避けているようだった。


(やっぱり、忘れてたのかな……)


 少し落胆する蒼太。しかし、そんな気持ちを表に出すことはなかった。


 放課後、部活動を終えた蒼太が教室に戻ると、そこにはちはやの姿があった。


「ちはや? まだいたのか」


「あ、蒼太……」


 ちはやは、何か緊張した様子で蒼太を見つめる。


「あの、ちょっと付いてきて」


 そう言って、ちはやは蒼太の手を引いて校舎の裏へと向かう。


「おい、どうしたんだよ」


 戸惑う蒼太。しかし、ちはやは黙ったまま歩き続ける。


 校舎の裏。誰もいない静かな場所で、ちはやは立ち止まった。


「蒼太、目を閉じて」


「え?」


「いいから」


 半信半疑で目を閉じる蒼太。すると、甘い香りが鼻をくすぐる。


「はい、開けていいよ」


 目を開けると、そこにはちはやが手作りのケーキを持っていた。


「誕生日おめでとう、蒼太」


 照れくさそうに言うちはや。蒼太は、言葉を失った。


「ちはや、これ……」


「うん、昨日から準備してたの。気に入ってくれるといいけど……」


 ちはやの言葉に、蒼太の胸が熱くなる。


「ありがとう。本当に嬉しい」


 素直な言葉に、ちはやの頬が赤く染まる。


「あ、あのね。一緒に食べない?」


「ああ、もちろん」


 二人は、校舎の裏で静かにケーキを分け合う。蒼太は一口食べると、目を輝かせた。


「うまい! ちはや、お前すごいな」


「本当? よかった……」


 安堵の表情を浮かべるちはや。その姿に、蒼太は胸が高鳴るのを感じた。


「なあ、ちはや」


「うん?」


「俺、今日のこと一生忘れないよ」


 蒼太の言葉に、ちはやは驚いた表情を見せる。しかし、すぐに優しい笑顔に変わった。


「私も、忘れない」


 二人の間に、静かな空気が流れる。それは、言葉では表現できない特別な時間だった。


 夕暮れ時、二人は一緒に帰路につく。肩が触れ合うほどの距離で歩きながら、時折視線を交わす。


 この日、蒼太の17歳の誕生日は、二人の関係にとって大きな転機となった。ケーキに込められたちはやの想い、そしてそれを受け取った蒼太の気持ち。それらが交錯し、二人の絆はより深いものへと変化していったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る