第24話「冬の修学旅行:雪景色に揺れる想い」

 12月中旬、高城高校の3年生たちは待ちに待った修学旅行で北海道を訪れていた。銀世界に包まれた札幌の街並みに、生徒たちは歓声を上げる。


 ホテルに到着し、部屋割りが発表された。ちはやは千夏たちと同室、蒼太は律たちと同室になった。


「ねえちはや、蒼太くんと離れて寂しくない?」


 千夏のからかいに、ちはやは顔を赤らめる。


「も、もう! 何言ってるのよ」


 強がるちはやだが、心の中では蒼太のことを考えていた。


 一方、男子の部屋では……


「おい蒼太、ちはやのこと心配か?」


 律の言葉に、蒼太は平静を装う。


「別に……心配するようなことあるのか」


 しかし、その目は時折ドアの方を見ていた。


 夕食後、自由時間になり、生徒たちはホテルのロビーに集まった。ちはやは友人たちと話しているうちに、ふと蒼太の姿を見つける。


「あ……」


 思わず声が漏れる。蒼太も同時にちはやに気づき、目が合う。


「よう」


 蒼太が近づいてくる。


「あ、うん。こんばんは」


 何となくぎこちない二人。周りの友人たちは、にやにやしながらその様子を見ている。


「なあ、ちょっと外見てくるか?」


 蒼太の提案に、ちはやは少し驚く。


「え? でも、寒いよ?」


「大丈夫、すぐ戻るから」


 蒼太の言葉に、ちはやは迷いながらも頷く。


 ホテルの裏手に出ると、静かな雪景色が広がっていた。街灯に照らされた雪が、幻想的な光景を作り出している。


「わぁ……綺麗」


 ちはやの目が輝く。蒼太も、その横顔に見とれてしまう。


「なあ、ちはや」


「うん?」


「修学旅行、楽しいか?」


 蒼太の質問に、ちはやはにっこりと笑う。


「うん、とっても。蒼太は?」


「ああ、俺も」


 二人の間に、柔らかな空気が流れる。


「ねえ、蒼太」


「ん?」


「私たち、もうすぐ卒業だね」


 ちはやの言葉に、蒼太も少し物思いに耽る。


「ああ、そうだな……早いもんだ」


「うん……でも、私たちの関係は変わらないよね?」


 ちはやの問いかけに、蒼太は真剣な表情で答える。


「当たり前だ。俺たち、ずっと……」


 言葉を詰まらせる蒼太。「ずっと一緒」と言いたかったが、なぜか言葉にできない。


 その時、ちはやが小さく震えるのに気づく。


「寒いのか?」


「う、うん、ちょっと……」


 蒼太は迷わず自分のマフラーを取り、ちはやの首に巻く。


「あ……」


 突然の優しさに、ちはやは言葉を失う。


「これで少しはマシだろ」


 照れくさそうに言う蒼太。ちはやは、マフラーに顔を埋めるようにして頷く。


「ありがとう……」


 二人の間に、静かな沈黙が流れる。しかし、それは居心地の悪いものではなく、むしろ心地よいものだった。


 雪が静かに降り始める。ちはやと蒼太は、無言のまま雪景色を眺めていた。言葉にはできない何かが、二人の間で確実に育っていることを感じていた。


 ホテルに戻る時、二人の歩調は自然と合っていた。肩が触れ合うほどの距離で歩きながら、時折視線を交わす。


 この冬の修学旅行は、ちはやと蒼太の関係に、新たな温かさをもたらした。雪景色の中で交わした言葉と、言葉にならなかった想い。それらが、二人の心をより一層近づけたのだった。

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