第22話「秋の芸術鑑賞:感性の共鳴」
紅葉が深まる11月中旬、高城高校の3年生たちは、恒例の芸術鑑賞会のために市内の美術館を訪れていた。ちはやと蒼太も、クラスメイトたちと共に絵画や彫刻を鑑賞しながら、静かな時間を過ごしていた。
広々とした展示室。ちはやは一枚の抽象画の前で立ち止まり、じっと見入っていた。その横顔を、蒼太がそっと見つめる。
「なあ、ちはや。その絵、何か特別なのか?」
蒼太の声に、ちはやははっとしたように振り向いた。
「あ、蒼太……うん、なんだか惹かれるの。この色使いとか、筆のタッチとか……」
熱心に語るちはやの目が輝いている。蒼太は、その表情に見とれてしまう。
「へえ……俺には難しいけどな」
「そう? でも、感じるものはあるでしょ?」
ちはやの問いかけに、蒼太は少し考え込む。
「うーん……なんていうか、自由な感じがするかな」
「! そう、私もそう思った!」
ちはやの目が更に輝く。蒼太は、自分の言葉がちはやの共感を得たことに、少し誇らしさを感じていた。
「ねえ、他の作品も一緒に見てみない?」
ちはやの誘いに、蒼太は少し照れくさそうに頷く。
「ああ、いいぞ」
二人で展示室を巡りながら、それぞれの感想を共有し始める。時には意見が合い、時には違う解釈で議論になる。しかし、その過程自体が二人にとって新鮮で楽しいものだった。
「ねえ、この彫刻はどう思う?」
ちは?が人型の抽象彫刻を指さす。蒼太は、真剣な表情でそれを見つめる。
「なんだか……孤独を感じるな」
蒼太の言葉に、ちはやは少し驚いたような表情を見せる。
「そう感じたんだ……私はね、希望を感じたの」
「え? どういうことだ?」
「ほら、この手の形。何かに向かって伸ばしているみたいでしょ?」
ちはやの説明に、蒼太は新たな視点を得たように目を見開く。
「なるほど……そう見ると、確かにそんな風にも見えるな」
二人の間で、芸術を通じた対話が続く。その過程で、互いの感性の違いや共通点に気づいていく。
美術館を出る頃には、日が傾き始めていた。帰り道、二人は今日の感想を語り合う。
「ねえ、蒼太。今日楽しかった?」
「ああ、意外と面白かったよ。お前と一緒だったからかもな」
蒼太の素直な言葉に、ちはやは顔を赤らめる。
「も、もう! 変なこと言わないでよ」
照れ隠しに強がるちはや。しかし、その目は嬉しそうに輝いていた。
「でも、私も楽しかった。蒼太と見方が違って面白かったし……」
言葉を詰まらせるちはや。何か言いたげな表情を浮かべる。
「なあ、ちはや」
「うん?」
「また、二人でどこか行かないか?」
蒼太の言葉に、ちはやは驚いた表情を見せる。しかし、すぐに柔らかな笑みに変わった。
「うん、行きたい」
二人の間に、新たな何かが芽生えたような空気が流れる。それは、芸術を通じて感じた感性の共鳴が、二人の心をより近づけたからかもしれない。
夕暮れの街を歩きながら、ちはやと蒼太は、今日一日で深まった絆を噛みしめていた。芸術鑑賞は、単なる学校行事ではなく、二人の関係に新たな色を加える貴重な機会となったのだった。
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