第21話「進路決定の時期:交差する未来への想い」

 秋も深まり、紅葉が鮮やかさを増す11月上旬。高城高校の3年生たちにとって、進路決定の時期が迫っていた。ちはやと蒼太も例外ではなく、それぞれの将来について真剣に考える日々が続いていた。


 放課後の図書室。ちはやは進路資料を広げ、真剣な表情で目を通していた。そこに、部活動を終えた蒼太が現れる。


「おい、ちはや。まだここにいたのか」


 蒼太の声に、ちはやは顔を上げた。


「あ、蒼太……うん、ちょっと調べものしてて」


 少し疲れた様子のちはやに、蒼太は心配そうな目を向ける。


「そうか。進路のことか?」


「うん……あなたは? もう決まったの?」


 ちはやの問いかけに、蒼太は少し考え込むような表情を見せた。


「ああ、まあ……野球は続けたいと思ってる。でも、大学進学も考えてるんだ」


 その言葉に、ちはやは少し驚いた様子を見せる。


「へえ……私てっきり、プロ目指すのかと思ってた」


「そりゃあ、目指したい気持ちはある。でも、現実的に考えると……」


 蒼太の言葉に、ちはやは何か複雑な感情を抱いたようだった。


「そっか……でも、蒼太なら絶対にプロでやっていけると思うな」


 ちはやの言葉に、蒼太は少し照れたような表情を見せる。


「お前にそう言ってもらえると、なんか嬉しいな」


 二人の間に、柔らかな空気が流れる。


「ちはやは? 将来の夢とか、あるのか?」


 蒼太の問いかけに、ちはやは少し考え込む。


「うーん、まだはっきりとは決まってないんだ。でも、人の役に立つ仕事がしたいなって……」


 ちはやの言葉に、蒼太は優しい笑みを浮かべる。


「そうか。それ、お前らしいな」


「え? そう?」


「ああ。お前、いつも人のこと考えてるもんな」


 蒼太の言葉に、ちはやは顔を赤らめる。


「も、もう! からかわないでよ」


 ちはやの反応に、蒼太は小さく笑う。


「からかってなんかないぞ。本当のことだ」


 真剣な眼差しで言う蒼太に、ちはやは言葉を失う。


「……ありがと」


 小さな声でそう言うちはや。二人の間に、静かな沈黙が流れる。


 窓の外では、夕陽に染まった紅葉が風に揺れていた。その景色を眺めながら、ちはやは思わず言葉を漏らす。


「ねえ、蒼太……」


「ん?」


「私たち、来年はもう高校生じゃないんだね」


 少し寂しげな声音のちはや。蒼太も同じような気持ちを抱いているようだった。


「ああ、そうだな……早いもんだ」


「うん……でも、私たちの関係は変わらないよね?」


 ちはやの言葉に、蒼太は少し驚いたような表情を見せる。


「当たり前だろ。俺たち、幼なじみだし……」


 言葉を詰まらせる蒼太。「幼なじみ」という言葉が、何か物足りないように感じられた。


「そう、だよね……」


 ちはやも何か言いたげな表情を浮かべる。しかし、結局二人とも、その先の言葉を見つけることはできなかった。


 図書室を出る頃には、すっかり日が暮れていた。校門まで一緒に歩きながら、二人は何気ない会話を交わす。


「ねえ、蒼太」


「ん?」


「私たち、きっと大丈夫だよね」


 ちはやの言葉に、蒼太は優しく微笑む。


「ああ、そうだな。俺たちなら、どんな未来だって乗り越えられる」


 その言葉に、ちはやは安心したように頷いた。


 別れ際、二人は互いに「また明日」と言葉を交わす。その言葉には、いつもと少し違う、特別な響きがあった。


 家路につきながら、ちはやと蒼太はそれぞれ、互いの存在の大きさを改めて実感していた。進路は違えども、二人の心はどこかでつながっている。そんな確信が、彼らの胸に静かに芽生えていたのだった。

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