第10話「文化祭準備」
梅雨が明け、真夏の日差しが照りつける7月中旬。高城高校では、9月に控えた文化祭の準備が本格的に始まっていた。
2年A組の教室。HR の時間に、クラスの出し物について話し合いが行われていた。
「えーと、今年のうちのクラスは……喫茶店をやることに決まりました」
クラス委員長の発表に、教室がざわめく。
「わあ、楽しそう!」
「制服はどうする?」
「メニューは?」
様々な声が飛び交う中、担任の山田先生が手を挙げて静かを求めた。
「はい、じゃあ役割分担をしていきましょう。まず、店長は……」
次々と役割が決まっていく。
「え? わたし、ウェイトレス?」
ちはやが驚いた声を上げる。
「ああ、ちはやなら似合うと思って」
クラスメイトの女子が笑顔で言う。
「蒼太はウェイターね」
別の女子が蒼太の肩を叩く。
「はあ? 俺が?」
困惑する蒼太。
「二人とも、頼むわよ?」
クラスメイトたちの期待の眼差しに、二人は渋々承諾した。
放課後、準備のために残ったクラスメイトたち。
ちはやと蒼太は、メニューの相談をすることになった。
「えーと、定番のものと、オリジナルメニューがあったほうがいいかな」
ちはやがメモを取りながら言う。
「ああ、そうだな。オリジナルは何がいい?」
蒼太が隣で考え込む。
「うーん、季節感のある……あ、かき氷なんてどう?」
「おお、いいな。でも、ちょっと変わったのを入れるか?」
二人で案を出し合う。時折、顔を見合わせて笑い合う。
その様子を、千夏と律が少し離れた場所から見ていた。
「ねえ律くん、あの二人、楽しそう」
「ああ、本当だな」
律も同意する。
ちはやと蒼太は、メニューの相談に夢中になっていた。
「じゃあ、これでどう? 普通のかき氷に加えて、抹茶ミルクかき氷とマンゴーヨーグルトかき氷」
ちはやが提案する。
「おお、いいじゃないか。季節感もあるし、珍しさもある」
蒼太が頷く。
二人の意見がどんどん噛み合っていく。クラスメイトたちも、その様子を見て驚いていた。
「へえ、あの二人がこんなに協力できるなんて」
「文化祭の力かな?」
そんな声が聞こえてくる。
準備が一段落し、片付けを始める頃。
ちはやが脚立に乗って装飾を貼ろうとしていた。
「ちょっと、届かないかな……」
つま先立ちで手を伸ばす。
「危ないぞ!」
蒼太が慌てて脚立を支える。
「え? あ、ありがと」
ちはやが照れくさそうに言う。
「気をつけろよ。危ないだろ」
蒼太の声に、心配の色が混じる。
「うん、ごめんね」
ちはやが優しく微笑む。
その瞬間、二人の目が合う。
何か言いかけて、でも言葉に詰まる。
「あのさ……」
「なあ……」
同時に口を開いて、また言葉を失う。
「ふふっ」
「はは……」
気まずさを誤魔化すように、二人で笑う。
その様子を見ていた千夏が、にやりと笑った。
「ねえ律くん、あの二人、絶対何かあるよ」
「ああ、間違いないな」
律も同意する。
「でも、本人たちは気づいてないみたいだね」
「ああ。まあ、そのうち分かるさ」
友人たちの暖かい視線に見守られながら、ちはやと蒼太の関係は、さらに一歩前進しようとしていた。
文化祭の準備は、二人の心をより近づける機会となった。しかし、まだ互いの気持ちに気づいていない二人。
これからどんな展開が待っているのか、誰にも分からない。
ただ、確かなのは、二人の関係が少しずつ、でも確実に変化していっているということ。
夏の陽射しが照りつける中、文化祭への期待と共に、二人の心にも新しい季節が訪れようとしていた。
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