第29話「告白の決意:蒼太の覚悟」

 卒業式前日の夜。蒼太は自室のベッドに横たわり、天井を見つめていた。明日、ついに高校生活最後の日を迎える。そして、ちはやへの想いを伝える最後のチャンスでもあった。


(もう、逃げられない……)


 蒼太は深いため息をつく。これまで幾度となくちはやに告白しようと思いながら、いつも勇気が出ずにいた。しかし、もう後がない。


 ベッドから起き上がり、窓際に立つ。月明かりに照らされた街並みを眺めながら、蒼太は心の中で決意を固める。


「よし、明日こそは……」


 その瞬間、スマートフォンの着信音が鳴る。画面を見ると、律からのメッセージだった。


『おい、蒼太。明日、ちはやに告白するんだろ? 応援してるぞ!』


 親友の言葉に、蒼太は苦笑する。自分の気持ちがそんなにも明らかだったのかと、少し恥ずかしくなる。


 返信を送りながら、蒼太は幼い頃のちはやとの思い出を振り返る。いつも喧嘩ばかりしていたのに、気がつけば特別な存在になっていた。


(ちはや、俺の気持ち、どう受け止めてくれるかな……)


 不安と期待が入り混じる複雑な心境。蒼太は、明日着る制服をハンガーにかけながら、自分の気持ちを整理する。


「俺はちはやが好きだ。ずっと好きだった。それを、しっかり伝えないと」


 自分に言い聞かせるように呟く蒼太。


 そして、机の引き出しから一通の手紙を取り出す。何度も書き直した告白の手紙だ。蒼太は、もう一度内容を確認する。


『ちはやへ


 俺たちはいつも喧嘩ばかりしてきた。でも、それは多分、本当の気持ちから目を逸らすためだったんだと思う。


 ちはや、俺はお前が好きだ。ずっと前から好きだった。お前の強さも、優しさも、時々見せる弱さも、全部好きだ。


 これからも一緒にいたい。大学に行っても、その先も。


 俺と、付き合ってくれないか?


蒼太より』


 読み終えた蒼太は、手紙を大切そうに胸ポケットにしまう。


「明日、必ず渡すぞ」


 決意を新たにした蒼太は、ベッドに横たわる。しかし、興奮と緊張で中々眠れない。


 窓の外では、桜のつぼみが今か今かと咲く時を待っていた。それは、蒼太の想いと重なるようだった。


 やがて、蒼太は静かな寝息を立て始める。その表情は、不安と期待が入り混じった複雑なものだったが、どこか晴れやかでもあった。


 明日、蒼太の人生が大きく変わる。そんな予感が、静かな夜に満ちていた。


第100話「二人の新たな一歩:想いが交差する卒業式」


 卒業式当日、朝もやの中に高城高校の校舎が浮かび上がる。蒼太は胸に手紙を忍ばせ、緊張した面持ちで校門をくぐった。


 体育館に向かう途中、ふと後ろから声がかかる。


「蒼太!」


 振り返ると、そこにはちはやの姿があった。


「ちはや……おはよう」


「おはよう。なんだか緊張するね」


 ちはやの言葉に、蒼太は小さく頷く。


「ああ、俺もだ」


 二人並んで歩きながら、時折視線を交わす。何か言いたげな雰囲気が漂うが、誰も口を開こうとしない。


 体育館に入ると、既に多くの生徒たちが集まっていた。ちはやと蒼太は別々の席に着く。


 厳かな雰囲気の中、卒業式が始まる。校長先生の訓示、来賓の祝辞、そして卒業証書授与。一つ一つの儀式が、高校生活の終わりを告げていく。


 証書を受け取る際、ちはやと蒼太の目が合った。互いに小さく頷き合う二人。その瞬間、何かが通じ合ったような気がした。


 式が終わり、生徒たちは教室に戻る。そこで最後のホームルームが行われた。


「みんな、3年間本当にありがとう」


 担任の山田先生の言葉に、クラス全員が感動で目頭を熱くする。


 教室を出る際、蒼太はちはやに近づく。


「ちはや、ちょっといいか」


「うん、何?」


「その……外で話したいことがあるんだ」


 蒼太の真剣な眼差しに、ちはやは少し驚いた様子で頷く。


 二人は校舎の裏、桜の木の下へと向かう。つぼみは今にも花開きそうだった。


「ちはや、俺は……」


 蒼太が口を開こうとした瞬間、ちはやも同時に話し始める。


「蒼太、私……」


 二人は驚いて顔を見合わせる。


「あ、ごめん。蒼太が先に」


「いや、ちはやが先でいい」


 お互いを思いやる言葉に、二人は小さく笑う。


「じゃあ、同時に言おうか」


 ちはやの提案に、蒼太は頷く。


「せーの……」


「好きです!」


 同時に言葉が飛び出す。二人は驚きのあまり、しばらく言葉を失う。


「え? ちはや、今……」


「蒼太も、今……」


 互いの気持ちが通じ合った瞬間、二人の頬が赤く染まる。


 蒼太は胸ポケットから手紙を取り出す。


「これ、読んでくれ」


 震える手でちはやに手紙を渡す蒼太。ちはやも同じように震える手で受け取る。


 手紙を読み終えたちはやの目に、涙が光る。


「蒼太……私も、ずっと好きだった」


 その言葉に、蒼太の心臓が大きく跳ねる。


「ちはや……」


 二人の距離が、自然と縮まっていく。


 その時、ポツリと二人の間に何かが落ちる。見上げると、桜の花びらが一枚、舞い落ちてきたのだった。


「ああ、咲いた」


 蒼太の言葉に、ちはやも空を見上げる。


 桜の木全体が、ゆっくりと花開き始めていた。


「ねえ、蒼太」


「ん?」


「これからも、一緒にいよう」


 ちはやの言葉に、蒼太は満面の笑みを浮かべる。


「ああ、ずっとな」


 二人は手を取り合い、新たに咲き始めた桜の下で見つめ合う。


 高校生活の終わりと、新しい人生の始まり。その境目で、ちはやと蒼太の想いは finally 交差した。


 これは終わりではなく、二人の新たな物語の始まりだった。


(了)

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【学園ラブコメ】ちはやと蒼太、素直になれない二人 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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