第17話「仮面の下の素顔:ハロウィンパーティーの夜」

 10月31日、高城高校の体育館は、ハロウィンパーティーの賑わいに包まれていた。2年A組は、クラス全員でこのイベントの企画・運営を担当していた。


 体育館の入り口で、受付を担当しているちはや。彼女は、優雅な黒猫の仮装をしていた。


「いらっしゃいませ!」


 笑顔で来場者を迎えるちはや。しかし、その目は常に会場を探るように動いていた。


(蒼太のやつ、まだ来てないのかな……)


 そんな想いを抱きながら、ちはやは仕事を続ける。


 一方、体育館の裏手。蒼太は、自分の仮装に最後の調整を加えていた。彼の姿は、まるで中世の騎士のよう。


「おい、蒼太。そろそろ行くぞ」


 親友の律が声をかける。彼はドラキュラの仮装だ。


「ああ、わかった」


 蒼太は深呼吸をして、自分を落ち着かせる。


(なんでこんなに緊張するんだろう……)


 体育館に入る蒼太。その目は、すぐにちはやを捉えた。


「おっ、ちはじゃん。似合ってるな、その仮装」


 律が声をかける。ちはやは、その声に振り返る。


「あ、律くん。ありが……」


 言葉を途切れさせたちはや。彼女の目は、蒼太の姿に釘付けになっていた。


(か、かっこいい……)


 思わずドキッとするちはや。蒼太も、黒猫姿のちはやに見とれている。


「よう、ちはや。忙しそうだな」


 蒼太が声をかける。その声に、ちはやは我に返る。


「え? あ、うん。まあね」


 気恥ずかしそうに答えるちはや。二人の間に、何とも言えない空気が流れる。


 パーティーが本格的に始まり、体育館は熱気に包まれる。ダンスあり、ゲームあり、お化け屋敷ありと、盛りだくさんの内容だ。


 ちはやと蒼太は、それぞれの持ち場で忙しく立ち回っていた。しかし、時折目が合うたびに、小さな笑みを交わす。


 夜も更けてきた頃、ちはやは少し休憩を取るため、体育館の外に出た。澄んだ夜空に、満月が輝いている。


「ふぅ……」


 深い息をつくちはや。その時、後ろから声がかかる。


「お疲れ」


 振り返ると、そこには蒼太が立っていた。


「あ、蒼太……」


 二人は並んで、夜空を見上げる。


「なあ、ちはや」


「なに?」


「お前、本当に黒猫に似合ってるぞ」


 蒼太の言葉に、ちはやは顔を赤らめる。


「もう、からかわないでよ」


「いや、本当だって」


 真剣な眼差しで言う蒼太。ちはやは、その目をまっすぐ見返す。


「じゃあ、あなたも……すごくかっこいいわよ」


 今度は蒼太が照れる番だ。


 二人の間に、静かな沈黙が流れる。しかし、それは居心地の悪いものではなく、むしろ心地よいものだった。


「ねえ、蒼太」


「ん?」


「仮面の下の本当の顔って、見せ合ったことないよね」


 ちはやの言葉に、蒼太は少し驚いた表情を浮かべる。


「そうだな……」


 ゆっくりと、二人は互いの仮面に手をかける。


「いくよ……」


 蒼太の声に合わせて、二人は仮面を外す。


 月明かりに照らされた素顔。それは、いつもの顔なのに、どこか特別に見えた。


「ちはや、お前……」


「なに?」


「いや、なんでもない」


 蒼太は言葉を飲み込む。しかし、その目には何か特別な感情が宿っていた。


 ちはやも、何か言いたげな表情。しかし、結局は言葉にならない。


 その時、体育館から呼び声が聞こえる。


「おーい、二人とも! フィナーレの準備だぞ!」


 我に返った二人は、慌てて仮面をつける。


「行こう」

「うん」


 体育館に戻る前、二人は一瞬だけ手を取り合う。その温もりが、互いの心に刻まれた。


 ハロウィンパーティーの夜。仮面の下で、二人の想いは確実に育っていた。まだ口には出せないけれど、その気持ちは、やがて大きな花を咲かせるはずだ。

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