第18話「図書委員会の秘密:重なる指先、交差する想い」

 11月中旬、肌寒さが増す季節。高城高校の図書室は、放課後の静けさに包まれていた。ちはやと蒼太は、図書委員会の活動で新しく入った本の整理をしていた。


「ねえ蒼太、この本どこに置けばいいと思う?」


 ちはやが手に持っているのは、「星の王子さま」の新訳版だった。


「ああ、それなら児童文学のコーナーだな」


 蒼太が自然に答える。その知識の豊富さに、ちはやは少し驚く。


「へえ、蒼太って意外と本をよく知ってるのね」


「ま、まあな。昔から読書は好きだったし」


 照れくさそうに頭を掻く蒼太。その仕草に、ちはやは思わず微笑んでしまう。


 二人で本を並べながら、時折会話を交わす。好きな作家や印象に残った本の話で盛り上がる。


「ねえ、『風の歌を聴け』って読んだことある?」


「ああ、村上春樹の処女作だよな。良かったよ」


「そう! わたしも大好きなの」


 共通の趣味を見つけ、二人の目が輝く。その瞬間、本を取ろうとした手が重なる。


「あ……」


 ちはやと蒼太は、思わず息を呑む。指先から伝わる温もりに、二人とも動けなくなる。


「ご、ごめん」

「い、いや、こっちこそ」


 慌てて手を離す二人。しかし、心臓の鼓動は収まらない。


 図書室の窓からは、夕日が差し込んでいた。オレンジ色の光が、二人の横顔を優しく照らす。


「なあ、ちはや」


「なに?」


「お前と、こうして本の話ができるの、楽しいよ」


 蒼太の素直な言葉に、ちはやは顔を赤らめる。


「わ、わたしも……楽しいわ」


 小さな声で答えるちはや。二人の間に、心地よい沈黙が流れる。


 本の整理を続けながら、二人は時々目を合わせては、小さく笑い合う。その度に、心の距離がぐっと縮まっていくのを感じる。


「あ、もうこんな時間」


 ちはやが窓の外を見て驚く。すっかり日が暮れていた。


「本当だ。片付けよう」


 蒼太が言い、二人で慌てて後片付けを始める。


 図書室を出る時、ちはやが躓いて転びそうになる。


「危ない!」


 咄嗟に蒼太がちはやを支える。抱きかかえるような姿勢になった二人。


「だ、大丈夫か?」


「う、うん……ありがと」


 顔が近すぎて、お互いの吐息を感じる。心臓の鼓動が激しくなる。


 しかし、廊下から聞こえてきた足音に、二人は慌てて離れる。


「じゃ、じゃあ……また明日」


「あ、ああ。気をつけて帰れよ」


 ぎこちない別れ際。しかし、二人の目には特別な輝きがあった。


 家路につきながら、ちはやは胸の高鳴りを感じていた。


(なんだろう、この気持ち……)


 一方の蒼太も、複雑な思いを抱えていた。


(俺、ちはやのことを……)


 図書委員会での時間は、二人の心をさらに近づけた。共通の趣味を通じて、お互いの新しい一面を発見し、理解を深めていく。


 まだ恋とは認識していないけれど、確実に芽生えつつある特別な感情。それは、本の頁をめくるように、ゆっくりと、しかし確実に育っていくのだった。

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