【学園ラブコメ】ちはやと蒼太、素直になれない二人

第4話「図書館でのすれ違い」

　放課後、ちはやは図書館に向かっていた。明日の国語のレポート課題のために、参考資料を探すためだ。

　図書館に入ると、静かな空気が漂っている。本の匂いが鼻をくすぐる。

（さて、どこにあるかな……）

　ちはやは文学のコーナーに向かった。探している本は、夏目漱石の「こころ」についての評論本だ。

　棚の前でしゃがみ込み、本のタイトルを一つ一つ確認していく。

「あった！」

　小さく声を上げたちはやは、手を伸ばして本を取ろうとした。しかし……。

「あれ？」

　同時に、別の手が同じ本に伸びていた。

「……っ！」

　ちはやは驚いて顔を上げる。そこには、同じように驚いた表情の蒼太がいた。

「蒼太……」

「ちはや……」

　二人は言葉を失う。

「あ、あんたこそ何してるのよ」

　ちはやが小声で聞く。

「いや、明日の国語のレポートのために……」

「え？　わたしも……」

　二人は顔を見合わせた。

「まさか、同じ本？」

　蒼太の問いに、ちはやはゆっくりとうなずく。

「仕方ないな……じゃあ」

　蒼太は本を手に取ると、ちはやに差し出した。

「え？」

「お前が先に見つけたんだろ？　俺は他の本で代用するよ」

　その言葉に、ちはやは少し驚いた。

「あ、いや、そんな……」

　ちはやは迷った。確かに自分が先に見つけたかもしれない。でも、蒼太も必要としているのは明らかだ。

「……一緒に使う？」

　思わず口から出た言葉に、自分でも驚く。

「え？」

　蒼太も驚いた表情を浮かべる。

「だって、二人とも必要なんでしょ？　だったら、一緒に使えばいいじゃない」

　ちはやは顔を赤らめながら言った。

「……そうだな」

　蒼太は少し照れくさそうに頷いた。

　二人は近くの閲覧席に座る。本を開き、必要な箇所をノートに書き写していく。時折、ページをめくる手が触れ合い、二人は慌てて手を引っ込める。

「あ、ごめん……」

「い、いや……」

　気まずい空気が流れる。しかし、徐々にその空気も和らいでいった。

「ねえ、この部分ってどう思う？」

　ちはやが小声で聞く。蒼太は少し考えてから答えた。

「うーん、俺はこう解釈したんだけど……」

　二人は静かに意見を交わし始めた。本の内容について、時には熱心に議論することもある。

　図書館の大きな窓から、夕日が差し込んでくる。オレンジ色の光が、二人の横顔を優しく照らしていた。

「あ、もうこんな時間……」

　ちはやが驚いて時計を見る。蒼太も慌てて立ち上がった。

「まずい、部活の時間だ」

「わたしも、お稽古が……」

　二人は急いで荷物をまとめ始める。

「あの、ありがと。一緒に使わせてくれて」

　ちはやが小さな声で言う。

「いや、俺こそ。助かったよ」

　蒼太も照れくさそうに答えた。

　図書館を出る時、二人は少し照れくさそうに別れの言葉を交わした。

「じゃあ、また明日」

「うん、また明日」

　別々の方向に歩き出す二人。しかし、数歩歩いてから、同時に振り返る。

　目が合い、慌てて顔をそらす。でも、二人の口元には小さな笑みが浮かんでいた。

　この日の図書館での出来事は、二人の関係に小さな変化をもたらした。それは、まだ気づいていない感情の芽生えの始まりだった。