第5話「体育祭準備」

 初夏の陽気が感じられる5月下旬。高城高校では、毎年恒例の体育祭の準備が始まっていた。


 2年A組の教室。HR の時間に、担任の山田先生が体育祭の役割分担を発表している。


「えーと、赤組の応援団長は……鷹見ちはやさん」


「え!?」


 ちはやは思わず声を上げた。応援団長なんて、人前に立つのが苦手な自分には向いていない。そう思った瞬間……。


「白組の応援団長は、鳴海蒼太くん」


「はい」


 蒼太は淡々と返事をした。


(なんで蒼太があんなに落ち着いてられるのよ……)


 ちはやは不満げに蒼太を見る。


 放課後、体育館に集められた応援団長たち。体育教師の佐藤先生が説明を始める。


「よし、みんな。今年の体育祭のテーマは『結束』だ。クラスの団結力を見せてくれ!」


 先生の熱のこもった言葉に、生徒たちは緊張した面持ちで頷く。


「では、各組で練習を始めてくれ。競技の合間にある応援合戦が今年の目玉だからな!」


 そう言って、佐藤先生は各組に分かれるよう指示した。


 赤組のメンバーが集まる中、ちはやは戸惑っていた。


(どうしよう……みんなを引っ張っていけるかな)


 不安な気持ちでいっぱいのちはや。その時、隣から声がかかる。


「おい、ちはや」


 振り返ると、そこには蒼太が立っていた。


「蒼太? どうしたの?」


「いや、その……」


 珍しく言葉を躊躇う蒼太。


「なんか、困ってるみたいだったから」


 その言葉に、ちはやは少し驚いた。


「別に困ってなんか……」


 強がりを言おうとしたが、蒼太の真剣な眼差しに言葉が詰まる。


「俺も初めてで、正直不安なんだ。でも、お互い頑張ろうぜ」


 蒼太の意外な告白に、ちはやは思わず笑みがこぼれた。


「ふふっ、珍しいね。素直な蒼太」


「うるさいな……」


 照れくさそうに顔を背ける蒼太。


「でも、ありがと。ちょっと勇気出た」


 ちはやの言葉に、蒼太は小さくうなずいた。


 その後、各組での練習が始まった。ちはやは緊張しながらも、メンバーたちに指示を出す。


「えーと、まずはかけ声の練習からかな?」


 ぎこちない様子のちはやを見て、クラスメイトの一人が声をかける。


「ちはや、もっと大きな声で! みんなを引っ張るんだよ!」


「う、うん! 頑張る!」


 励まされて、少しずつ自信をつけていくちはや。


 練習の合間、ふと隣の白組を見ると、蒼太が真剣な表情で指示を出している姿が目に入った。


(蒼太も頑張ってるんだ……負けてられない!)


 その思いが、ちはやの背中を押した。


「よーし、みんな! もう一回、最初から!」


 大きな声で号令をかけるちはや。クラスメイトたちも徐々に熱が入ってくる。


 練習が終わり、片付けをしていると、再び蒼太が近づいてきた。


「お疲れ」


「うん、お疲れ様」


 二人は少し照れくさそうに言葉を交わす。


「なんか、だいぶ様になってきたじゃないか」


 蒼太の言葉に、ちはやは嬉しそうに笑う。


「ふふっ、そう? 蒼太こそ、さっきから カッコつけちゃって」


「うるさいな……」


 照れ隠しに軽く肩を押す蒼太。ちはやも負けじと押し返す。


 そんな二人の姿を見て、クラスメイトたちはクスクスと笑い合っていた。


 体育祭まであと2週間。応援団長としての責任を果たすため、二人は互いに刺激し合いながら、準備に励んでいく。この体育祭が、二人の関係にどんな影響を与えるのか。それはまだ誰にも分からない。

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