第3話「席替えで隣同士に」

 クラス替えから一週間が過ぎた頃、2年A組では最初の席替えが行われることになった。


 教室に入ったちはやは、友人の千夏に話しかけられた。


「ねえ、ちはや。今日、席替えだって」


「え? そうなの?」


 ちはやは少し驚いた表情を浮かべる。


「うん。クラスの男子が言ってたよ」


 そう言って千夏が笑う。その瞬間、教室の後ろのドアが開き、蒼太が入ってきた。


 ちはやと目が合う。


「……おはよう」


「……うん、おはよう」


 ぎこちない挨拶を交わす二人。


 チャイムが鳴り、担任の山田先生が教室に入ってきた。


「はい、朝のHRを始めます。今日は……そうそう、席替えをしますよ」


 クラス中にざわめきが広がる。


「えー」

「やったー」


 様々な反応が飛び交う中、ちはやは少し緊張した面持ちで自分の席に座った。


「では、くじを引いてもらいます。前から順番に来てください」


 一人、また一人と席が決まっていく。ちはやは7番を引き、窓側の列の真ん中あたりの席に座った。


(まあ、悪くない場所かな)


 そう思った瞬間……。


「はい、次8番」


 蒼太が前に出て、くじを引く。


「8番……ああ、7番の隣ですね」


 山田先生の言葉に、ちはやは凍りついた。


(うそ……)


 ゆっくりと顔を上げると、そこには困惑した表情の蒼太が立っていた。


「あの、先生」


 ちはやが小さな声で言う。


「はい、鷹見さん?」


「これって、変更できないんですか……?」


 山田先生は優しく微笑んだ。


「いいえ、くじで決めたんだから、これは運命だと思ってください」


 クラスメイトたちからクスクスと笑い声が漏れる。


 しぶしぶ蒼太が隣の席に座る。


「よろしく……」


「……うん」


 ぎこちない会話を交わす二人。


 授業が始まり、英語の教科書を開く。しかし、集中できない。隣にいる蒼太の気配が気になって仕方がない。


(こんなの絶対嫌だ……)


 そう思いながらも、時折チラチラと蒼太の方を見てしまう。


 蒼太も同じように落ち着かない様子で、そっとちはやの方を見る。目が合うと、慌てて視線をそらす。


 昼休み。


「ねえちはや、蒼太君と仲良くできそう?」


 千夏が笑顔で聞いてくる。


「む、むり……」


 ちはやは顔を赤らめながら答えた。


「でも、これって運命のイタズラかもね」


 千夏のその言葉に、ちはやは思わず顔を上げた。


(運命……?)


 その言葉が、何故か心に引っかかる。


 そんな中、次の授業が始まった。数学の問題を解く時間。


「あ……」


 ちはやが小さく呟く。どうしても分からない問題があった。


 その時、隣から紙切れが差し出される。見ると、問題の解き方が丁寧に書かれていた。


 驚いてちはやが顔を上げると、蒼太が少し照れくさそうに微笑んでいた。


「……ありがと」


 小さな声でお礼を言うちはや。蒼太はそっとうなずいた。


 二人の間に、小さな変化が訪れ始めていた。

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