第27話「卒業式の準備:別れと新たな始まりの予感」

 2月下旬、寒さが和らぎ始めた頃。高城高校の3年生たちは、受験を終え、卒業式の準備に追われていた。教室では、アルバム係や卒業制作係など、様々な役割に分かれて作業が進められていた。


 ちはやは、アルバム係として忙しく立ち回っていた。写真を選び、レイアウトを考え、コメントを書く。その作業に没頭する彼女の横顔を、蒼太はそっと見つめていた。


「なあ、ちはや」


 蒼太の声に、ちはやは顔を上げる。


「ん? どうしたの、蒼太」


「その写真、俺のだろ? ちょっと恥ずかしいんだけど……」


 蒼太が指差した写真は、文化祭でのものだった。照れくさそうな表情の蒼太が、ちはやと一緒に写っている。


「えー? でも、この写真いいじゃない。蒼太の素直な表情が出てるし」


 ちはやの言葉に、蒼太は顔を赤らめる。


「そ、そうかな……」


 二人の間に、柔らかな空気が流れる。


「ねえ、蒼太」


「ん?」


「私たち、もうすぐ卒業だね」


 ちはやの声には、少し寂しさが混じっていた。蒼太も同じような気持ちを抱いているようだった。


「ああ、早かったな」


「うん……でも、私たちの関係は変わらないよね?」


 ちはやの問いかけに、蒼太は真剣な表情で答える。


「当たり前だ。俺たち、ずっと……」


 言葉を詰まらせる蒼太。「ずっと一緒」と言いたかったが、なぜか言葉にできない。


 その時、クラスメイトの声が聞こえてきた。


「おーい、二人とも! 卒業制作の手伝い、頼むよ!」


 我に返った二人は、慌てて作業に戻る。しかし、その後も時折視線を交わし、小さな笑みを浮かべていた。


 放課後、二人は一緒に帰路につく。夕暮れの街を歩きながら、これまでの3年間を振り返る。


「ねえ、覚えてる? 1年の時の体育祭」


「ああ、お前が転んで、俺が……」


「もう! 思い出さないでよ」


 ちはやが頬を膨らませる。蒼太は優しく笑う。


「でも、あの時から俺たち、少しずつ変わってきたよな」


「うん……そうだね」


 二人の間に、静かな沈黙が流れる。それは居心地の悪いものではなく、むしろ心地よいものだった。


「なあ、ちはや」


「うん?」


「卒業しても、時々会おうな」


 蒼太の言葉に、ちはやは嬉しそうに頷く。


「うん、約束だよ」


 二人の指が、そっと絡み合う。その瞬間、互いの心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


 別れ際、二人は長い間見つめ合っていた。言葉にはできない何かが、確実に二人の間で育っていることを感じていた。


「じゃあ、また明日」


「うん、おやすみ」


 家に帰っても、二人の心は互いを思い続けていた。卒業という別れの時が近づく中で、新たな始まりの予感に胸が高鳴る。それは、まだ言葉にはできないけれど、確かに芽生えつつある特別な感情だった。


 卒業式の準備は、ちはやと蒼太の関係をさらに深めるきっかけとなった。別れの寂しさと、新たな出発への期待。相反する感情の中で、二人の絆はより強固なものになっていったのだった。

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