第8話「友人たちの観察」

 梅雨の晴れ間、昼休みの教室。

 

 千夏と律は、離れた場所からちはやと蒼太の様子を観察していた。


「ねえ律くん、あの二人、最近なんか変わったと思わない?」


 千夏が小声で尋ねる。


「ああ、なんとなくな」


 律も頷きながら答えた。


 ちはやと蒼太は、いつもの席で昼食を取っている。時折会話を交わし、時に顔を見合わせて笑い合う。


「ほら、見て。さっきまで喧嘩してたのに、今は普通に話してる」


 千夏が指差す。


「そういえば、最近喧嘩の頻度減ったよな」


 律が思い出したように言う。


 その時、蒼太がちはやの弁当を覗き込んだ。


「おい、それ美味そうだな」


「ふふっ、作り過ぎちゃって。食べる?」


 ちはやが笑顔で答える。


「マジで? じゃあ、遠慮なく」


 蒼太が箸を伸ばす。


「きゃー! 見た? 見た?」


 千夏が興奮して律の腕を叩く。


「落ち着けって。でも、確かに珍しいな」


 律も少し驚いた表情を浮かべる。


 昼食を終え、ちはやと蒼太は教科書を開いて何か話し合っている。


「あれ、一緒に勉強?」


 千夏が首を傾げる。


「ああ、たしか次の英語のテスト、二人とも苦手だって言ってたな」


 律が説明する。


「へえ、お互いの弱点を補い合ってるんだ」


 千夏が感心したように言う。


 放課後、部活動の時間。

 

 ちはやは茶道部、蒼太は野球部に所属している。


 茶道部の活動を終えたちはやが、友人と話しながら帰り支度をしていると、窓の外に目をやった。


「あ……」


 グラウンドで練習する蒼太の姿が見えた。


「どうしたの、ちはや?」


 友人が不思議そうに尋ねる。


「う、ううん。なんでもない」


 ちはやは慌てて視線をそらした。が、すぐにまたグラウンドを見つめる。


 その様子を、千夏がニヤリと笑いながら見ていた。


 一方、野球部の練習を終えた蒼太。

 

 更衣室で着替えながら、ふと窓の外を見る。


 茶道部の部室から出てくるちはやの姿が見えた。


「おい、蒼太。何見てんだ?」


 律が声をかける。


「べ、別に……」


 蒼太は慌てて視線をそらした。


 その夜、千夏と律はLINEで会話していた。


千夏「ねえ、あの二人のこと、どう思う?」

律「そうだな……多分、気づいてないんだと思う」

千夏「えっ、何に?」

律「お互いの気持ちにさ」

千夏「あー、なるほど! じゃあ私たち、ちょっと手伝っちゃう?」

律「いや、見守るだけでいいんじゃないか? 二人のペースで進んでいけばいいさ」

千夏「そっか……うん、そうだね。二人の関係、これからどうなるんだろ」

律「楽しみだな」


 友人たちの暖かい視線に見守られながら、ちはやと蒼太の関係は少しずつ、でも確実に変化していっていた。

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