【学園ラブコメ】ちはやと蒼太、素直になれない二人

藍埜佑(あいのたすく)

第1話「今日も喧嘩から始まる朝」

 朝日が差し込む住宅街。鷹見家の二階の窓から、慌ただしい物音が聞こえてくる。


「もう、遅刻しちゃう!」


 悲鳴のような声を上げながら、鷹見ちはやは制服のリボンを整えていた。長い黒髪を手早くまとめ、鏡に映る自分の姿を確認する。


「ちはや! 朝ごはんできてるわよ!」


 階下から母の声が響く。


「ごめん、今日はパス!」


 ちはやは大きな声で返事をすると、カバンを手に取り階段を駆け下りた。


「もう、ちはや。朝ごはんはしっかり……」


 母の言葉を背に、ちはやは玄関を飛び出した。


 春の柔らかな日差しが頬をなでる。桜並木の下を小走りに進むと、いつもの交差点に見慣れた後ろ姿が見えた。


「……って、蒼太!」


 ちはやは思わず声を上げていた。背の高い少年が振り返る。


「おはよ、ちは……って、今日も遅刻しそうか?」


 鳴海蒼太の口元に小さな笑みが浮かぶ。


「うるさいな! あんたこそ、のんびりしてる場合じゃないでしょ」


 ちはやは蒼太の隣に並ぶと、さっさと歩き始めた。


「俺は余裕があるからな」


 蒼太の言葉に、ちはやは顔をしかめる。


「ふーん、どうだか。昨日の夜遅くまでゲームしてたんでしょ? 目の下のクマ、ばれバレよ」


「っ! お前にだけは言われたくないぞ。いつも寝坊して……」


「わたしは忙しいの! あんたみたいに、のんびりしてられないのよ」


 二人の口論は、学校までの道のりずっと続いた。


 校門が見えてきたとき、チャイムの音が鳴り響く。


「やば!」


「くそっ」


 同時に声を上げた二人は、一目散に走り出した。


 ぎりぎりで教室にたどり着いた二人は、ほっとため息をつく。しかし、その安堵もつかの間。


「おはよう、鷹見さん、鳴海くん。今朝も仲良く遅刻ギリギリですね」


 担任の藤原先生の冷ややかな声に、二人は顔を見合わせた。


「え? 仲良くって……違います!」

「はぁ? 誰がこいつと仲良くなんか……」


 同時に声を上げた二人を、クラスメイトたちの笑い声が包んだ。


 その日の朝は、いつものように喧嘩から始まった。でも、誰もが知っている。この二人の関係が、何か特別なものだということを。

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