第86話
10月に入り市民演劇祭に向けての稽古が本格的に始まった。場面ごとの稽古をしていくものの、僕は演出席にいながらも的確な意見を言うことができず、重々しく、また殺伐とした空気になってしまっていた。
相談の上、演出助手以外にも演技経験豊富なメンバーが意見を言うという演出部というグループが作られ、そのメンバーが演技指導や演出の話をするようになっていた。もはやこの時の僕は、『演出』など名ばかりの存在になっており、一人孤独な時間を過ごすことが増え始めていた。
予算を調整の上、大道具として見立てる木箱を作ることが決まったのは、ちょうどこの頃だった。演出部にも入っており、舞台経験が豊富なFKが木箱の図面を作ってくれて、他に演出助手のAMや、高校演劇現役のNYの4人で、ホームセンターの中にある工房でひたすら箱を組み立てる作業を行った。
ある日の運営会議で、KKは地域の農場公園で大晦日に開催されるカウントダウンイベントの企画を持ってきた。時間にして約15分程度の出し物をするという内容だが、ここでも運営会議で意見が割れてしまった。グループの名を広める良い機会だというKKに対し、AYはただでさえ演劇祭の稽古がスムーズにいってないのに、15分の演目とはいえ今から掛け持ちで稽古をするのは、スケジュール的にも酷になるということだった。
意見が分かれる中で、結局立場上代表である僕にも形式的に意見を聞かれたが、結局は総合プロデューサーのKKの決定により、カウントダウンイベントへの出場が決まった。その演目の演出は、現在市民演劇祭の演出助手をしているAMが担当することとなった。
稽古の掛け持ちに不安を募らせている最中、中学教師でもあるメンバーのIRが仕事との兼ね合いが難しいと脱退し、演劇経験者だったMSやNUも自分のやりたいことをしたいと脱退し、歯科衛生士の国家資格受験を控えているMKも活動休止することになってしまった。
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