第77話
全身を筋肉痛に襲われたり、歌唱稽古で散々ダメ出しをされ、根本的に声が小さいと言われながらも、僕は何とか経験者ばかりである他のメンバーの足を引っ張らないように夢中で稽古に臨んでいた。配役も決定し、僕は彦星が飼っている牛の役となった。動物という意外な配役だったので役づくりには迷ったが、演出家のAY曰く「当て書きで書いた」とのこと。
メインビジュアルの撮影をすることになったのは、稽古が始まって1ヶ月が経った6月の中旬だった。夏祭りの雰囲気を出すために、男性陣も女性陣も浴衣に身を包んだ。ボランティアスタッフが中心となって、女性陣の着付けやメイクをする一方、男性陣はシンプルにそれぞれ浴衣の着付けをした。舞台用のメイクすらしたこともなかったが、何とか数日前から化粧水や乳液を顔に塗るようにしていたし、舞台経験メンバーであるFKからメイクを教わり、今回主人公の一人である大学生役を演じるNRは僕の眉毛の調整をしてくれた。
しばらくして、AYの要望で平日の夜に、該当者だけの個人稽古をすることになった。配役が決まってすぐの時もNRと共に個人稽古をしたが、今回はそれ以外に地元在住の女性陣3人とAYを含めて6人で、カラオケの一室を借りて行った。該当場面のセリフは何とか頭に入っていたし、代役をやることも良い経験となった。
個人稽古終了後、メンバー5人で近くの回転すし店に行った。普段の稽古以外で、こうして食事という形で集まったのは初めて。5人の中で年齢は僕が一番上だが、経験値としては一番下。気軽な食事なのに、ちょっと緊張してしまっていた。「他のメンバーよりも実力あると思う」「あの子、意外と下手」など、案外辛口な意見も出たが、腹を割って話せる機会は重要だと思った。
帰宅後、僕は本来の仕事に戻った。僕の本業は舞台に立つことではなく、脚本制作とフリーペーパーを作ることである。そのまま朝方まで、僕は自室で仕事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます