第62話

個人事業をスタートさせてから、早いもので約1ヶ月が経った。まだ卒業式から数えて日が浅いはずなのに、ゴールデンウイークに専門学校の同級生たちと集まると、不思議と懐かしい気持ちになった。

連休が明けてすぐ、僕は何とかフリーペーパー時代にお世話になった社長から依頼を受けた仕事を終えて、今度はひと段落する間もなく、専門学校卒業前から決まっていた映画の脚本修正に追われていた。LINE電話を繋ぎながら、芸能事務所からの意見や要望の伝達をプロデューサーから受け、脚本の構成についても今一度意見をし合っていた。

自分が登場人物を作り上げ、それをもとに脚本を執筆しても、芸能事務所からキャラの出番を増やしてほしいと言う注文にこたえなければいけなかったのが、執筆の中で一番負担だったことだ。出番を削ることは比較的簡単でも、更に見せ場のシーンを増やさなければいけないのは、全体構成にも影響してくる。


脚本執筆に追われている最中、一通の手紙が我が家に届いた。差出人は就職で東京へ旅立っていった、姉妹校の製菓学校で親交のあった後輩HAからだった。手紙には、東京での生活が始まって一ヶ月が経ってもなお、地元が恋しく親しかった顔ぶれに会いたい旨と、東京に遊びに来てほしい旨が書かれていた。頼る人もおらず一人で上京したことは、随分心細いだろうと、心配になったほどだ。

5月中旬、僕は隣の市にある商店街に来ていた。ここで、シニア向けのフリーペーパーを作る事務所があり、ライターを募集しているという告知を見てコンタクトを取り、今日は編集会議があるから顔合わせも兼ねてぜひ来てほしいとのことだった。会議の出席者は、商店街の活性をするまちづくり会社の役員、商店街にある広告制作プロダクションの社長、介護事業を展開している若手女社長という顔ぶれ。

このフリーペーパー制作が、これから僕にとって大きな影響を与えるきっかけとなる。

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