男、突っ走る!(事業発展篇)
壽倉雅
第61話
2017年4月1日、この日は土曜日ではあったが、僕にとっては個人事業をスタートさせる大切な日だった。SNSでは事業スタートの投稿を行い、早速月間予定を立てた。また、事業用の名刺を作り、ついに新しい生活が始まった。
学校の環境とは違い、普段寝起きしている自分の部屋を模様替えした個人事務所。一度スイッチがオフになれば、プライベートモードになってしまう環境である。だが、いざ椅子に座り、パソコンに向かうと必然と仕事モードに入った。
昼になり、部屋のノック音と共に、母が入ってきた。パートから戻ってきた母は、家に戻る途中の買い物で赤飯を買ってきてくれた。大したことではないのに、と自分は思っていたが、母はスタートの日をお祝いしたかったようである。
その日の夕方、脚本デビューのきっかけを作ってくれたTMから、YouTubeドラマの新作の撮影現場に一緒に行こうと誘いの電話があった。脚本を執筆したことはあったが、まだ先方のプロデューサーやスタッフに挨拶をしていなかったので、ちょうど良い機会だった。
翌日の夕方、TMと名古屋駅で落ち合うと、そのまま高速バスに乗って大阪へ向かった。TMがドラマ撮影のカメラを担当する話は聞いていたが、このタイミングで僕が一緒に動向することになったのは、別の理由があった。それは、そのYouTubeドラマの制作が翌月末で終了するということだった。つまり、僕がこのYouTubeドラマの脚本を書く機会はもうないということ。せっかく脚本家としての仕事をもらえた取引先と思っていただけに、制作終了の知らせは、僕にとって大きな衝撃だった。
数日後、フリーペーパーでお世話になった社長に呼ばれて仕事を取ることができたが、ここでもあまり良い結果を出すことができなかった。仕事の失敗は仕事で取り返す、という言葉は聞いたことがあったが、だからと言って信頼を取り戻すのは容易ではないと、僕は実感していた。
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