第73話

2018年の4月、僕は何とか個人事業の2年目を迎えることができた。3月末に市長表敬訪問の記事が掲載されたこともあり、地元でも「新聞見たよ」という声をたくさんいただき、親もその新聞記事を記念に保存するというほどだった。

2年目の春を迎えたとはいえ、相も変わらずシニア向けフリーペーパー、そして地元のフリーペーパーの2つの掛け持ちをしたり、新規顧客獲得のために名古屋の異業種交流会まで出向くなどの営業活動も変わらない中、市民ミュージカルの準備は着々と進んでいった。申し込みは現状で10人となり、オーディションは4月20日金曜日が19時から、4月21日土曜日と22日日曜日は昼1時スタートという日程で、20日と22日にオーディション参加希望日程が集中していた。この2週間近くの間で7人の応募があり、ようやく男性からの申し込みもあった。しかも、名古屋の劇団の公演に出演経験が何度もあるという大学生である。本人の顔を見ていなくても、この大学生は間違いなく合格するような気がしていた。


そして20日の金曜日、僕らは夕方からオーディション会場の設営に追われていた。名札やアンケート用紙、楽譜、演技テスト用のセリフの書かれたプリントなどの備品チェックを行っていた時、僕はKKから思いがけない提案をされた。それは今日の参加者が3人のため、絵面的に寂しいので、サクラとしてオーディションに参加してほしいと言われた。

例の大学生は今日オーディションに来るし、他に参加する女子高生2人は共に演劇部や合唱部に所属しているという強者。これでは公開処刑となることは目に見えていたが、オーディションがいざ始まると、僕はあたかもオーディション参加者のような顔で他の参加者と椅子を並べて座った。

全く考えていなかった自己PRも、アドリブで何となく話すことができ、文章や構成を考える仕事をしていて良かったと、この時ほど思ったことはないだろう。

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