第80話
弟が突然仕事を辞めたことは、我が家にとっては衝撃的だった。一言の相談もなく、また何の前触れもなく、朝普通に出勤したはずの弟が、昼過ぎになって帰ってきて、一言「仕事を辞めた」と言ってきたのだから。昼食を食べながら、母と何があったのかと話していたが、まずは本人の口より聞くしかない。
夕方になって、昼寝をしていた弟が起きてきたので、早速に事情を聴いてみることにした。聞けば弟曰く、先輩社員との折り合いが悪いのと、夏場の工場の暑さに耐えられなかったと言うのだ。元々製造業だった母は、夏の製造ラインが暑い現場になることは承知しており、それで辞めたことに呆れていた。
夜になり、母も弟も寝静まった後に残業から父が帰宅した。ちょうど風呂上がりだった僕は、父に弟の件を話した。父も驚くと同時に唖然としていた。弟としては、次の仕事先を見つけようとしてはいるようで、しばらく家にいるかと思えば、求人サイトや求人雑誌を見たりしていた。
家の方で大きな動きがある一方、市民ミュージカルの本番は着々と近づいてきていた。ある日の運営会議で、一同は市民ミュージカル本番後の計画について相談することになった。パフォーマンスグループとして作った以上は、今後の企画を考えなければいけない。
候補として出たのが、『市民演劇祭』と呼ばれる毎年開催される演劇大会に出場することだった。AYは自身の劇団の出演もあるため、脚本や演出を担当することはできない。そこで白羽の矢が立ったのが僕だった。舞台の脚本を書いたことはないし、ましては舞台の演出もしたことがない。果たして自分に、そんなことができるのか不安だった。また、追加の2期生メンバー募集についての話題も上がった。今後のビジョンを考えて、総合プロデューサーのKKとしてはメンバーを増やしていきたいようだった。グループとしての活動が、これからも顕著になっていくさまを僕はひしひしと実感していた。
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