第79話
ダンス稽古の途中に倒れてしまった僕は、そのまま少し別室で休んでいた。AYが付き添ってくださり、夕方の1時間休憩まで休むことになった。仕事や稽古で無理が重なったのではないかと僕自身もAYも推測しており、販売用パンフレット以外にも当日配布する当日パンフレットの制作も本来僕が担当する予定だったが、僕の負担を考慮してAYが制作を引き受けることになった。
長年舞台の現場を知っているAYは、他にも告知用のチラシデザイン制作も引き受けてくださった。本来、運営の事務局担当である僕のやるべき仕事ではあるが、初めての舞台を控えている僕にこれ以上の負担はさせられないという判断で、AYから運営に話を通してくれることになった。
市民ミュージカル本番まで、残り1ヶ月となった。七夕をモチーフにした物語で、プロローグとエピローグにのみ登場する老女役の女優さんも合流し、冒頭から最後までの通し稽古をすることが多くなった。
何度か通し稽古を重ねる中で、AYから教わったことをとにかく実行しようと心がけた。セリフを待っている間に素の顔に戻ってしまっているから気を付けることや、例え自分がセリフを間違えても演出家が止めるまでは演技を止めないこと、稽古場でも本番の会場と同じぐらいの声量でセリフを言うことなど。
プロデューサーや運営スタッフが見ている中で、僕らは通し稽古をし、終わるとAYからのダメ出しを聞き、更に稽古を重ねていった。ある日、稽古終わりに僕らは男性陣だけで簡単な食事会をし、ちょっとした演技論を語り合った。それも楽しい時間のひと時だった。
平日になると、僕はまた通常通り、自室で仕事をしていたのだが、朝出勤したはずの弟が昼過ぎに帰宅した。何かあったのかと尋ねると、会社を辞めてきたと言う。ちょうどパートから帰ったばかりの母もその場にいたのだが、思わず唖然としてしまった。別の仕事を探せば良いだけだと、弟は呑気そうにしていた。
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