第15話 証人として

 しばらくして警察が訪れた。警察は手際よく亀吉かめきちくんの遺体を処理して、そのままあっさりと立ち去っていった。


「淡白な対応……」ばん先生はつぶやいた。「もっと……深刻そうにしてくれていいのに……」

「……警察も1つの問題にかかりきり、というわけにはいかないんでしょう」彼方かなたさんが言う。「しょうがないですよ」

「……そうだね……」ばん先生は作り笑いを作って、「……生徒に励まされてしまったね。私は教師失格かな」

「……どうでしょうね……私は、まだばん先生のことをよく知りませんから」


 素直な人だ。だからこそ安心できる。


 今、2人は職員室のソファに座っていた。ばん先生が用意した温かい紅茶を飲んで、2人で飲んでいるところだった。

 

 少しずつ職員室に人が増え始めていた。


 彼方かなたさんが言う。


「……今回の事件のこと……もう伝えたんですか?」

「それは教員に? それとも生徒に?」

「どちらも、です」

「教員には伝えたよ。それと……今日は休校。朝早くから学校に来てた生徒には帰ってもらったし、門も閉めたから。今日のところは生徒が入ってくることはないよ」


 門には事情を知っている教員を配置して、登校してきた生徒たちを追い返してもらっている。


 ばん先生は続ける。


「一応緊急連絡先に、今日は休校だって連絡も送ってる。休校の理由は伏せてあるけどね」


 亀吉かめきちくんがバラバラにされて殺されていました、なんてメールで伝えられるわけもない。


「じゃあ……私も帰ったほうがいいですかね」

「それはダメ」明確に引き止める。「……あなたは直接見てしまったんだから……ショックも大きかったでしょう?」

「……それは……そうですけど」


 大人びて見える彼方かなたさんでも、さすがにクラスの仲間の死体を見るショックは大きかったのだろう。かつてないほど、彼女は弱々しい表情をしていた。


「落ち着くまで、ここにいていいよ」

「……ありがとうございます……」

 

 ……


 彼方かなたさんでもこんなに弱ることがあるんだな。やはり彼女だって年相応の高校生なのだ。


 やはり彼女もクラスの仲間に入れてあげなければ。そうすれば……いつかこの傷だって癒えるだろう。


 さて……彼方かなたさんのことも気がかりだが、教師としての仕事もしなければ。


 そう思っているばん先生に、校長先生が声をかけた。


「あ、あのう……ばん先生……」校長先生はどうにも気弱な人だった。「えーっとですね……今回の、ことについて……職員会議を開催したいのですが……」

「わかりました」ばん先生は苦笑いして、「……そんなに緊張なさらなくても……」

「ああ……ごめん……校長1年生だから緊張しちゃって……」


 この校長先生は今年から校長になったのだ。前年度までは他の先生が校長をやっていたのだが、異動になったらしい。

 

 というわけでこの頼りにならないのが現在の校長である。もっと自信を持ってくれたら従いたくなるのに……


 ともあれ職員会議が開催された。


 学校の教員たちが雁首揃えて職員室に集結。数人は緊迫感のある顔。そして数人は『俺には関係ねぇだろ』という顔をしていた。


 ……他のクラスとはいえ仲間が殺されているというのに、そんな顔するな。腹が立つ。


 会議が始まる直前、


「私……ここにいないほうがいいですよね……」


 彼方かなたさんがそう言った。たしかに職員会議なら生徒はいないほうがいいだろうけれど……


「いてもらって大丈夫だよ。聞かれて困る話はしないから」

「……ですが……」

「逆にいてもらったほうが安心かな。この会議の証人として、ね」


 彼方かなたさんとしても会議の内容は気になるのだろう。彼方かなたさんはもう一度ソファに座り直した。


 それから……


 職員会議スタートである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る