第3話 クラスメイトに告白したとか

 青春、仲間というものは素晴らしい。茉莉まつりちゃんは常々そう思っている。この仲間たちに囲まれて青春を過ごすために自分は生まれてきたのだと、何度も何度も思っている。


 クラスの中にいるすべての生物は仲間であるべきだ。みんな仲良く、他愛もない世間話で盛り上がれるうような関係であるべきだ。それが茉莉まつりちゃんの考え。


 だからこのクラスに来た最初の自己紹介で、茉莉まつりちゃんはこう言った。『みんなと友達になりたい』と。


 その願いは半分以上は叶っている。結鶴ゆづるくんや龍太郎りゅうたろうくん、亀吉かめきちくんといったクラスの人気者と友達になることができた。


 だけれど、もちろん全員ではない。まだ友達になれていないクラスメイトも存在している。


 茉莉まつりちゃんは言った。


彼方かなた此方こなたさんって……なにが好きなんだろう」


 彼方かなた此方こなた、とはこのクラスに在籍する女子生徒である。


 黒髪ロングのクールビューティー。メガネが似合いそうな知的な表情。スラッとし体型に長い手足。モデルみたいな美人。それが彼方かなた此方こなたという生徒。


 あれほどの容姿があればクラスの人気者になれそうなものだが、なぜだか彼女は孤立気味である。ずっと教室の端っこで読書をしているような生徒だ。


「……彼方かなたさん……?」反応したのは龍太郎りゅうたろうくんだった。「読書なんじゃない? ずっと本、読んでるし」

「どんな本を読んでるんだろう……」

 

 彼方かなたさんと同じ本を読めば、少しは仲良くなれるかもしれない。そう茉莉まつりちゃんは思っていた。


 しかし結鶴ゆづるくんが笑い飛ばす。


「あんな根暗女、やめとけよ。仲間に入れたって空気が悪くなるだけだ」


 茉莉まつりちゃんは結鶴ゆづるくんに強い目線を向けて、


「そういう言い方、良くないよ。私は言ったよね。クラスのみんなと友達になりたいって。その中には当然、彼方かなたさんも含まれてる」

「……」結鶴ゆづるくんは目線をそらして、「……悪い……」


 わかってくれたならいい。


 龍太郎りゅうたろうくんが言う。


「でも……彼方かなたさんは集団に属して動くってタイプじゃないと思うよ。孤立しているんじゃなくて……好きで1人でいるって感じ。そんな人を無理やり仲間にいれるのも、どうなのかな?」

「そんなことない」茉莉まつりちゃんには確信がある。「クラスみんなで一緒に仲良く。それこそが学生の本分でしょ。彼方かなたさんだってそれを望んでるはず。でもきっと、勇気が出ないだけなんだよ」


 友達と楽しく会話して楽しくな人はいない。それが茉莉まつりちゃんの考えだった。


 茉莉まつりちゃんは立ち上がって、結鶴ゆづるくんの友達全員に宣言する。


「私……彼方かなたさんと友達になりたい」

「友達とは言ってもね……」龍太郎りゅうたろうくんが肩をすくめて、「どうやって? 今は放課後だけれど、彼女はすぐに帰っちゃってる。あまり話しかけないでほしい、って感じだと思うけれど」

「キッカケがないだけだよ。こっちから動けば……きっと友達になってくれるよ」


 少なくとも動き出さなければ始まらない。


 とはいえ直接話しかけても、ただただクールに対応されるだけだ。ならば外堀から埋めに行こう。


彼方かなたさんって……他のクラスに友達とかいるのかな?」


 結鶴ゆづるくんが答える。


「2年のときのクラスメイトとは、結構仲が良さそうだ。麻中あさなかさんとか夢野ゆめのくんとか……あとは、誰だっけ? なんか地味な女の子」

小心こごころ翼翼よくよく龍太郎りゅうたろうくんが補足する。「去年の競技大会で大暴れした人でしょ? なんか突然……クラスメイトに告白したとか」

「ああ……なんか、そんなのあったな……」


 自分のいないうちに素晴らしい青春のイベントがあったらしい。なんとも羨ましいと茉莉まつりちゃんは思った。自分も結鶴ゆづるくんに告白してしまおうか。彼なら受け入れてくれるかもしれない。


 しかし麻中あさなかさんと夢野ゆめのくんの名前は知っていた。その2人は学校でも有名人というか、かなり目立つトップカーストに位置している2人だ。


 小心こごころ翼翼よくよく、という人物の名前は初めて聞いた。


 とりあえず疑問を口にする。


「競技大会って何?」


 茉莉まつりちゃんが言うと、仲間たちが呆れた表情を浮かべた。


 龍太郎りゅうたろうくんまで呆れ顔で、


茉莉まつりちゃん……そんな事も知らずに、この学校に来たの……?」 

「う……ごめん……あんまり下調べとかしないタイプで……」 


 直情型で一直線なのが茉莉まつりちゃんである。難しいことを考えるのは非常に苦手だ。


「それで……競技大会って?」

「要するに体育祭とか文化祭のパワーアップバージョンだよ。何日もかけて、自分の得意分野で競い合うんだ」

「得意分野……?」

「そうそう。一般的なスポーツ種目からクイズ大会、ゲーム大会とか……とにかくいろんな種目があるよ。この学校の関係者なら参加資格があるから、茉莉まつりちゃんも参加してみたら?」


 そんな面白そうな大会があるとは知らなかった。


 にわかにテンションが上って、茉莉まつりちゃんが言う。


「じゃあ、みんなでなにかに出場してみようよ」

「それもいいかもね。クイズ大会とか大所帯でも出場できるらしいから、狙い目だと思うよ」


 というわけで青春の一大イベントが始まる予感がした。


 クラス全員でクイズ大会に出る。それが今の茉莉まつりちゃんの目的の1つになった。


 そのためにも彼方かなたさんと友達にならなければ。

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