茉莉ちゃん その1

第2話 みんなと友達になりたい

 茉莉まつりちゃん その1


 

―――――――――



「やっぱり高校生って時間を勉強だけに割くのはもったいないよ。恋愛とか友情とか、もっと青春って感じの事柄に目を向けないと」


 そう教室の中で言ったのは、長身の男子である結鶴ゆづるくんだった。


 彼が話し始めると、教室の中が明るくなる。要するにムードメーカーであり、このクラスのトップカーストに君臨している男子生徒だ。


 結鶴ゆづるくんは多くの生徒に囲まれながら、


「勉強勉強、それだけが青春じゃないよ。もっと俺たちは遊んで過ごすべきだと思うんだよ。なぁみんな」


 呼びかけに反応したのは、結鶴ゆづるくんの幼馴染である龍太郎りゅうたろうくんだった。

 真面目で勉強ができそうな雰囲気の龍太郎りゅうたろうくんは、唯一結鶴ゆづるくんに意見ができる人間だった。


結鶴ゆづるの場合は、ただ遊びたいだけでしょ」教室に少し笑いが起きてから、「勉強だけが青春じゃないっていうのは賛成だけれど、遊んでばかりでもダメだよ」

「そんなケチなこと言うなよ。なぁ茉莉まつりちゃん」


 いきなり話題を振られてドキッとしてしまう。


 とはいえ、新参者の自分にもこうやって話題を振ってくれる結鶴ゆづるくんには感謝している。彼がこうやって自分をクラスの仲間に入れてくれたのだ。


 結鶴ゆづるくんがいなければ、自分は孤立していたかもしれない。そんなことを茉莉まつりちゃんは思った。


 茉莉まつりちゃんは言う。


「そうだね……勉強だけが青春じゃないと思うよ」

「ほら龍太郎りゅうたろう茉莉まつりちゃんだってそう言ってるだろ?」


 調子に乗る結鶴ゆづるくんと、肩をすくめる龍太郎りゅうたろうくんだった。


「まったく……茉莉まつりちゃんは結鶴ゆづるに甘いんだから……」

「そんなことないよ。私は……みんなのことを平等に好きだよ」気持ちは素直に伝えておくべきだと思った。「私みたいな新参者を受け入れてくれて、ありがとね。本音を言うと……新しい学校に来るっていうので、怖かったんだ」


 それは茉莉まつりちゃんの本音だった。新しい学校に行くのはいつも怖い。何度か経験していることとはいえ、恐怖が消えることはないのだ。


 この学校に馴染めなかったらどうしよう。仲間外れにされてしまったらどうしよう。そんな事ばかり考えてしまう。


「なに言ってんだよ」結鶴ゆづるくんが優しく笑って、「それは茉莉まつりちゃんが自己紹介で言ってくれたからだろ? 『私はみんなと友達になりたい』って。その言葉がなかったら、俺は茉莉まつりちゃんと友達にはなってないよ」

「……ありがとう……」


 心の底からお礼が言える。


 結鶴ゆづるくんと話していると、茉莉まつりちゃんの心が軽くなる。茉莉まつりちゃんが結鶴ゆづるくんに対して特別な感情を抱いているのは確実だった。


 彼の笑顔をもっと近くで見たい。もっと長く見たい。そう思ってしまう茉莉まつりちゃんだった。


 結鶴ゆづるくんは明るい笑顔で言う。


「このクラスはみんな友達だろ? 茉莉まつりちゃんだって龍太郎りゅうたろうだって、亀吉かめきちくんだって友達だよ」


 クラスに居る生物はすべて友達。それが茉莉まつりちゃんの理想だ。


 そしてその理想を受け入れてくれたのが結鶴ゆづるくんである。結鶴ゆづるは新しい仲間である茉莉まつりちゃんのことも亀吉かめきちのことも友達として受け入れてくれたのだ。


 自分は最高の仲間に囲まれている。このクラスのみんなは仲が良く、茉莉まつりちゃんにとって理想的なクラスだ。


 このまま青春が続いてほしい。10年でも20年でも続いてほしい。


 そう茉莉まつりちゃんは心から願っていた。

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