第26話 誰にだってその権利はあるでしょ?
そうだ……私が計画を考え始めたのは……今から約30年前。
「高校3年生の夏のことだったよ。ちょうど……今の
私が微笑むと、
なぜだろう。怯えさせるつもりはなかったのだけれど。
とにかく……私は言う。秘密の共有は仲を深めるために重要なことだ。どうせバレているようだし、自分から話すほうが良い。
「私……もっと友達が欲しかったの。クラスのみんなが仲良くなって、みんな友達。それが私の理想だった」
「でもねぇ……クラスには絶対に孤立する人が出てくる。当時の私のクラスもそうだったし、何十年と教師をやっていても、必ず1人は見かけた」
なんてかわいそうな人だと思った。せっかくの青春を孤立して過ごしてしまうなんて、あまりにも不憫だと思った。
「だからね。なんとかしてあげたいなって思ったの。みんなと仲良くさせてあげたい……そう心から願った。それでね……思いついたんだ」
――そうだ殺してしまえばいいんだ――
「誰かを殺して……その孤立してる人を探偵役にする。そしてその人は名探偵のように事件を解決して、クラスの人気者になる」
「……」
「私が犯人だって気づかれる予定はなかったよ。無能な探偵役は……間違った人間を犯人に仕立て上げると思ってた。それっぽい理由をつけて、適当な犯人をでっち上げると思ってた」
だからミステリーが好きそうな人を探偵役にキャスティングした。名探偵に憧れて、虚構の世界に閉じこもっている変人が良かった。いつも読書をしている
まぁ実際に彼女が好んで読んでいたのは官能小説だったわけだが。
「……犯人役に選ばれてしまった人は……孤立してしまうんじゃないですか?」
「みんなで話し合えば大丈夫だよ。間違った行動をして……それを反省して謝罪する。そうなったら友情が深まるでしょ?」
冤罪でもなんでもよかった。ただ事件があって、解決があって、和解があればよかった。
ただ……少しばかり意外なことがあった。
「予想外だったよ。まさか生徒が教師を疑うなんて。私の中で教師っていうのは絶対的な存在だったから……まさか疑われるなんて思ってなかった。
教師を疑うなんて変人だ……そう思っていたのだが……
「……私だけじゃないですよ。
「……そうなの?」
「そりゃ……施錠する直前に教室に入った
……
「最初から私のこと、疑ってたの?」
「……はい……」
「……だから
あの時点で私のことを疑っていた。だから私のところには来なかった。
……
予想外だった。本当に自分が疑われることだけが想定外だった。
「……なるほど……キャスティングを間違えたか……」私は肩をすくめる。「無能な探偵役のつもりが……優秀な名探偵だった。もっと……頭の悪い生徒をキャスティングすればよかった」
「……誰に仕掛けても同じですよ……何度も言いますが、この計画は穴だらけです。成功する確率なんて……1%もないでしょう」
なんで
「……それはどうして?」
「仮に私が無能な探偵役を演じたとして、誰かを犯人役にしたとします。その犯人役は……罪を認めますか? 認めるわけがない」
「その点は抜かりないよ」そこに関しては想定していた。「犯人は罪の意識に苛まれて自殺する。遺書をでっち上げて、その中で自白させればいい。要するに殺せばいいの。死人に口なしってやつだよ」
その言葉を聞いて、
困惑しているような目だった。さっきまでは敵意というものを向けてきていたが、今は……未知の生命体を見ているような目つきになった。
私は続ける。
「クラスメイトの死を乗り越えて、クラスはさらに団結する。あなたという名探偵も加わって、最高のクラスになる。そんな予定だったよ」
「……」
「大変だったんだよ? 探偵役ができそうな生徒、犯人役ができそうな生徒……そして事件が終わってクラスをまとめてくれる生徒。そんな生徒が揃うのを待つのに30年もかかっちゃった」
そうしてようやく実行できた。
「あとちょっとだったのになぁ……」私はため息をついて、「クラスが全員団結して、そのまま卒業式を迎える。私がやりたかったのはそんな青春なの。それがやりたかっただけなのに……」
「……そのためだけに……
「そうだよ? 私は当時味わえなかった青春を取り戻そうとしてるだけ。誰にだってその権利はあるでしょ?」
咎められる理由がわからない。
私は私の青春を取り戻そうとしているだけなのだ。
なんでそれが伝わらないのだろう。
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