第14話 密室

 亀吉かめきちくんがバラバラになっていた。


 その言葉を警備員の口から聞いて、ばん先生は急いで教室まで駆けつけた。


 廊下を走るな、といつもは口を酸っぱくして指導しているが、今は緊急事態だ。廊下を踏み鳴らして教室までたどり着いた。


彼方かなたさん」ばん先生は教室の扉を開けて、「なにがあったの……?」


 彼方かなたさんは教室の真ん中で立っていた。少しばかり顔が白く見える。


「……ばん先生……」

彼方かなたさん……」ばん先生は彼方かなたさんに近づいて、「なにがあったかわからないけど……もう大丈夫だよ。私が守ってあげるからね」


 抱きしめて安心させてあげようとするが、やんわりと拒否された。まぁしょうがない。


 そこでばん先生は振り返って、


亀吉かめきちくん……!」


 教室の端っこ……廊下側の端っこに亀吉かめきちくんがいた。いや……がそこにあった。

  

 バラバラになっていた。頭も、体も、足も……バラバラに切り裂かれて、ゴミのように地面に捨てられていた。


 亀吉かめきちくんの身体全体を覆い尽くすくらいの血が流れていた。なんとも……グロテスクな光景だった。


「なんで……こんなこと……!」ばん先生は亀吉かめきちくんに近づいて、「どうして……! 誰がこんなこと……」


 そう叫ぶばん先生に、警備員が言う。


「あ、あの……僕は警察に連絡してくるので……」


 言って、警備員はその場を離れた。おそらく亀吉かめきちくんの遺体をこれ以上見たくなかったのだろう。


 ばん先生は、しばらくその場に立ち尽くしていた。亀吉かめきちくんの死体を見下ろして、呆然とした表情を浮かべ続けていた。


 やがて振り返って、


彼方かなたさん……何があったか、説明してくれる……?」

「……」さすがの彼方かなたさんも少し弱っているようだった。「とりあえず……出ましょう。あんまり……見たいものじゃないです……」

「あ……そうだね」


 配慮にかけていたと反省する。クラスの仲間の遺体なんて見たいものじゃないだろう。


 教室の外に出た。その位置からは亀吉かめきちくんの死体は見えなかった。廊下からは見えない角度に死体があった。


 彼方かなたさんは言う。


「教室の鍵を開けて入ったら……亀吉かめきちくんを見つけました。それで……警備員さんを呼びに行って……それだけです」

「……私じゃなくて警備員さんを……?」

「……すいません……こういうときは警備員さんのほうがいいだろうと……」


 その判断は間違っていないだろう。少なくともばん先生に頼っても、この問題は解決しないのだから。


 それに……自分は彼方かなたさんに信頼されていないのだろう。そう思った。


「たしかに扉は施錠されたの?」

「……はい……前の扉は鍵を開ける前に確認しましたし、後ろの扉も窓も……亀吉かめきちくんを見つけてから確認しました。全部施錠されてましたよ」


 冷静な人だ。クラスの仲間がバラバラにされていて、すぐに現場の状態を確認するとは。


 ばん先生はつぶやく。


「……私が鍵を施錠したのは……昨日の17時30分をちょっと過ぎた頃」とある生徒に数学の問題を教えていた。「それから……鍵なんて誰も開けてないと思うから……」


 夜中に学校に忍び込んで職員室から鍵を取り出す。そんなことは不可能だろう。それを防ぐために警備員さんがいるのだから。


 つまり……これは……


 ばん先生が言う。


「……密室……」

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