第13話 バラバラになって

 あっという間に明日になった。


 ばん先生は用意を整えて家を出た。


 そうして学校にたどり着いて、とりあえず職員室に移動した。


 現在時刻は5時30分。まだ肌寒いと感じるような朝の空気だった。


 生徒のいない学校というのは非常に静かだ。暗いわけでもないので恐怖もなく、逆に神秘的な雰囲気すらも漂っている。


 しばらく朝の仕事をこなしていると、職員室にノックの音が響いた。


 ばん先生は立ち上がって職員室の扉を開けると、そこには少し眠たそうな表情の彼方かなたさんがいた。


 ……


 相変わらず美人な女子高生だ。油断すると惚れそうになる。


 ばん先生は鍵を彼方かなたさんに手渡して、


「来てくれてありがとう。もうちょっと仕事していくから……先に教室に行っておいて」

「……」彼方かなたさんは鍵を受け取って、「あの……先生が私のことを心配してくれているのは理解しています。ですが……」

「大人数で騒ぐのも楽しいものだよ。キミにはそれを体験してもらいたいってだけ」

「……私は大人数で騒ぐのが苦手でして……」

「だからやってみたら楽しいんだって」


 彼方かなたさんにもあの楽しみを味わってもらいたいのだ。


 彼方かなたさんは小さく息を吐いて、


「……私は……そんなに苦しんでいるように見えますか? 現状には満足しているのですが……」

「本心を隠すのが上手い人もいるんだよ」平気そうにしていて、急に爆発してしまう人もいる。「もっと楽にしていいんだよ。私のことも友達だと思って」

「ですから教師と生徒は――」

「水掛け論だね……」ちょっとイライラしてきた。「とにかく……先に教室に行っておいて。そこで話そう」

「……」彼方かなたさんは憮然とした表情で、「……わかりました……」


 そう言って教室に向けて歩き始めた。


 やれやれ……やはりあの子は堅物だ。こちらが友達として接してほしいと言っているのに、なぜ彼女はわかってくれないのだろう。


 とにかくこれで目的は達成した。


 ばん先生は職員室の机に戻って、朝の仕事に再び取り掛かった。


 それからしばらくの時間が経過した。時刻は5時50分。


 彼方かなたさんが教室に向かったのが5時40分ぐらいだから……とっくに教室にはたどり着いているだろう。

 

 さて……そろそろ行くか。そう思って立ち上がったときだった。


 騒がしい足音が聞こえてきた。バタバタとして、焦りに焦っている足音だった。


 その足音は職員室に近づいてきて、次に扉が勢いよく開かれた。


ばん先生……!」

「……」ばん先生はその人物を見て、「……警備員の……」


 そこにいたのはこの学校の警備員さんだった。こんな朝早くからご苦労さまである。彼の名前は忘れたけれど。


 ばん先生は警備員に近づいて、


「どうかされましたか?」

「3年2組の教室で……! 先生の担当クラスですよね……!」


 ……


 そんなに慌てなくてもいいのに。


「そうですけど……」

「す、すぐに来てください……!」

「いったい……なにが……」

亀吉かめきちくんが……!」警備員さんは青い顔で叫んだ。「亀吉かめきちくんが…………!」

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