第22話 舐められたものだね

 なんてこった! 彼方かなたさんは担任教員を疑っているのだ。


 茉莉まつりちゃんにとって担任教員とは絶対の存在だった。疑うことなんてなかったし、絶対的に正しいものだと思っていた。生徒たちにとってもそうかと思っていた。


 だが違うのだ。今の生徒たちには、茉莉まつりちゃんの常識は通用しないのだ。


 彼方かなたさんが担任教員を疑うなんて、茉莉まつりちゃんは想像もしていなかった。


「このことは誰にも言わないで」彼方かなたさんは龍太郎りゅうたろうくんに釘を刺す。「このまま警察に行って証拠を突きつければ、この事件は終わるから」

「……でも……」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。ケリは……私がつける」


 その言葉には怒気が含まれていた。彼方かなた此方こなたも怒りという感情を持っている。


 そのことが茉莉まつりちゃんにとっては意外だった。彼方かなた此方こなたという人間は……もっと感情を完璧に押し殺す人だと思っていた。


 彼方かなたさんは空を見上げて、


「舐められたものだね。この私を……コマの1つとして使おうとするなんて」

「……?」

「気にしないで。儀式みたいなものだから」会話が成り立っていないだろう。「なんにせよ……これからは完結編。真相という結末までは……ノンストップだよ」


 真相という結末……


 ……


 ……


 彼方かなたさんが思い浮かべている結末。茉莉まつりちゃんが思い浮かべている結末。


 それはきっと違うものなのだろう。2人は違う場所に辿り着こうとしているのだろう。


 ……


 ……


 そもそも茉莉まつりちゃんは彼方かなたさんと友達になりたかった。なのに機会を逸し続けていた。


 だというのに……龍太郎りゅうたろうくんは彼方かなたさんとあっさり友達になってしまった。


 そのことが憎いと思ってしまう。茉莉まつりちゃんはあんなに努力して報われなかったというのに。


 ……

 

 怒りの矛先……それをどこに向ければいいのだろう。茉莉まつりちゃんにはわからなくなっていた。

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