第7話 やめとけばいいのにな

 恋というのは青春だと思う。茉莉まつりちゃんは割と恋の多い女であるが、その想いを伝えられたことは少ない。


 つい怖がってしまうのだ。告白したら今の関係が壊れるのではないかと考えてしまうのだ。


 しかし怖がってばかりもいられない。いつか結鶴ゆづるくんに告白しなければ。仮に玉砕したとしても、それは青春の1ページに刻まれるだけの話。


 さて階段から教室に戻りながら、


「あんな女のどこがいいんだろうな」結鶴ゆづるくんが言う。「たしかに顔はかわいいけど……あんな根暗な女、やめとけばいいのにな」


 彼方かなたさんのことだろう。


「あんまりクラスの仲間のことを悪く言ったらダメだよ」茉莉まつりちゃんが言う。「それに彼方かなたさんは私を助けてくれたんだから……」

「それも本当か怪しいと思ってるけどな」


 なぜか信じてもらえない。


 しかし熱中症のときに助けてくれた天使みたいな女の子と、彼方かなた此方こなたさんが同一人物かどうかの確証はない。


 直接本人に聞いてみようか? それとも他の先生に相談してみようか。選択肢はどちらかだと思うが……


「まぁ……今日のところは荷物をまとめて帰るか」結鶴ゆづるくんは教室でカバンを持って、「茉莉まつりちゃんは?」

「私は……もう少し残るよ。まだやらなきゃいけないことがあるから」

「ふーん……そっか。じゃあ、また明日な」

「うん。また明日」


 そうして茉莉まつりちゃんは教室に1人取り残された。


 結鶴ゆづるくんたちトップカーストがいなくなると、教室には生徒は誰もいなくなった。さっきまであんなに騒がしかったのが嘘のようだ。


 それも当然だろう。部室でもない教室に、いつまでも放課後に残っている意味もない。少しの間友達同士で世間話をすることもあるけれど、それも長くは続かない。


「……さて……どうしようかな……」


 やらなければいけないことが山積みだ。彼方かなたさんと友達になる方法を考えないといけないし、他にもやることはたくさんある。


 ……


 まぁ目の前のことを少しずつ片付けていこう。


 私の青春は誰にも邪魔されない。これからも私の青春は輝いているに決まっている。焦る必要はない。

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