第18話 官能小説です

 彼方かなたさんはばん先生に宣言する。


「私は犯人を見つけます。そうしないと自分の潔白を証明できないので」

「手伝うよ」

「いえ……それは……」

「大丈夫。クラスの仲間のためだから」


 もちろん仕事は忙しいが、クラスのために動くのも教員の仕事だ。


「……」彼方かなたさんはばん先生のことを見つめてから、「……では、まずは教室に行きます。現場をもう一度見ておきたいので」


 というわけで現場に移動。


 その途中、軽く冗談を言ってみる。


「探偵みたいだね」言ってから、ふと気になっていたことを聞いてみる。「そういえば彼方かなたさんって……普段はどんな本を読んでるの?」


 彼方かなたさんはいつも読書をしている。ブックカバーがかかっているので本の内容が不明だったのだ。


「……隠してるわけじゃないですけど、直接教員の方に言うのは抵抗があります」

「じゃあ当ててみようか」ちょっとしたクイズだ。「ミステリーとか」

「……ジャンルで言うなら、全ジャンル読みますよ……」

「ライトノベルとかも?」

「はい。そもそも小説とライトノベル……区分するのは好きじゃありません。どちらも面白い」


 なるほど……小説は小説だと。


「じゃあ……最近のマイブームは? 最近ハマってるジャンルとか」

「……」彼方かなたさんはばん先生の目を見て、堂々と告げた。「官能小説です」

「……は……?」


 あんまり堂々としていたので、聞き間違えたかと思った。


 官能小説……俗に言うエロ本? エッチな小説? 彼方かなたさんが?


「へ、へぇ……」声が上ずってしまった。「……なんで……?」

「……情景の描写とか……参考になるので」彼方かなたさんは少し気まずそうに、「校則違反なら取り上げてください」

「あ、ああ……そりゃ校則違反だろうけどね……」詳しくは確認していないが。「……でもまぁ……校則を守ることだけが青春じゃないからね……」


 校則を破って秘密を共有する。それもまた団結を深める方法の1つだろう。


 学校でトランプしてみたり、麻雀をしてみたり……それらもコミュニケーションツールの1つだ。校則がどうとか、硬いことを言ったりしない。


「……参考になる、っていうのは……彼方かなたさんも小説を書いてるの?」

「……まぁ、そうですね……もちろん今は趣味の範囲に収まっていますが」


 いつかは趣味の範囲を超えたいのだろう。


 しかし官能小説が描写の参考になる……

 

 なるほど……イラストの練習をするときも、エッチな絵を描くのが上達の近道だと聞いたことがある。服を着ていない裸体を描くのは人体構造を理解するうえで重要だろうし、なにより自分の性癖にあっているとやる気が出る。


 そういったことを考えると……小説家になりたい人がエッチな本を読んでいるのは自然の摂理かもしれない。運動部が憧れの選手のプレイを見て感動しているのと同じかもしれない。


 ……


 なんにせよ……彼方かなたさんの秘密を知ることができた。ちょっとは信用してきてくれたのだろうか? 少しくらいは仲良くなれただろうか?


 もっと仲良くなりたいな。

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