第17話 ご安心を

 彼方かなた此方こなた、という人間は……言うなら主人公なのだと思う。


 どんなときでも冷静で、大勢の大人に囲まれても怯えることなく自分の意志を伝えられる。


 そんな姿には憧れてしまう。


 ともあれ職員会議は終了した。結論として『明日から平常の授業が行われる。クラスへの対応は各教員に任せる』というものだった。


 校長らしい日和見結論だ。対応は教員に任せたから、自分に責任はないと主張したいのだろう。


 パラパラと教員たちが解散していく。中には職員室に戻って仕事を続ける教員もいたが、大多数はこのまま帰宅するようだった。


 そんな中、ばん先生は彼方かなたさんの姿を探した。さっきまでソファに座っていたはずだが、気がつけばいなくなっていた。


 職員室を出ると、廊下を歩く彼方かなたさんを見つけた。


彼方かなたさん……」ばん先生は彼方かなたさんを追いかけて、「……ごめん……」

「……なぜ謝るんですか?」

「……私が職員室に残らせたせいで……」


 会議が始まる前に帰っていれば、彼方かなたさんがあんな暴言を聞くことはなかっただろう。


「謝罪は不要ですよ。それより……ありがとうございます」

「……なんでお礼を言われたんだろう……」

「……先ほど……かばってくれましたよね」スキンヘッドの教員に怒鳴ったことを言っているのだろう。「私のために怒ってくれた、というのは素直に嬉しいです。ありがとうございます」


 そう言って微笑んだ彼方かなたさんの顔があまりにも美しくて、不覚にも心臓が高鳴ってしまった。


 照れ隠しのために言う。


「お礼なら……そうだね、私のこと名前で呼んでタメ口で――」

「それは無理です」

「残念」大袈裟に肩をすくめて見せて、「それで……どうするの?」

「犯人を見つけます。このまま冤罪を受け入れるのは面倒なので」


 ばん先生は立ち止まる。それに気づいて、彼方かなたさんも立ち止まって振り返る。


 ばん先生は彼方かなたさんを見つめて、言う。


「……これはあなたを傷つける言葉かもしれないけれど……聞いてほしい」

「……なんですか……?」

「……人は間違える生き物なの。失敗することだってあるし、取り返しのつかないことをしてしまうこともある」人間は完璧じゃない。「……だからね……その……もしも彼方かなたさんが犯人だったとしても、私は彼方かなたさんを見捨てたりしないから」


 言ってから、慌てて付け加える。


彼方かなたさんが犯人だって思ってるわけじゃないよ? でも……とにかく、彼方かなたさんがなにをしても、私は彼方かなたさんの味方だから」


 生徒が、人間が失敗するのは当たり前のことだ。そんなことで見捨てたりしない。


「……ありがとうございます……」少し彼方かなたさんの表情が柔らかくなった気がした。「ご安心を。私はやっておりませんので」

「うん。わかってるよ」


 彼方かなたさんが犯人なワケがない。そんなことはばん先生にはわかっている。

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