解答編っぽいなにか

第23話 何度も言いますが

 上の空のまま、本日の授業は終了した。


 彼方かなた此方こなたが担任教員を疑っている。そのことが……茉莉まつりちゃんにとっては衝撃的だった。


 どうしてだろう?  どうして彼女は担任教員を疑うのだろう?


 思えば彼方かなた此方こなた茉莉まつりちゃんの想定外の行動ばかりをする。クラスメイトと仲良くなろうともしないし、わざわざ孤立したりするし、学校でエッチな本を読んでいたりする。


 わからない。読めない。あの人の行動だけは読めない。常に彼女は私の想定外のところにいる。


 ……


 ……


 だからこそ茉莉まつりちゃんは彼方かなたさんのことが好きなのかもしれない。だからこそ憧れたのかもしれない。


 やはり自分は彼方かなたさんと友達になりたい。諦めきれない。そう茉莉まつりちゃんは思った。


「……なら行動するしかない……」


 強引にでも。


 茉莉まつりちゃんは授業が終わった放課後、彼方かなたさんを尾行した。許されない犯罪行為だとは自覚していたが、行動が止められなかった。


 夕日が眩しかった。何度か見失いそうになりながらも、なんとか尾行を続行する。


 やはり体力が落ちている。見つかってはいけないという緊張感があるにしても体力の消耗が激しい。また熱中症で倒れないように注意しなければ。


 尾行に気が付かない様子のまま、彼方かなたさんは歩を進める。


 相変わらず歩くだけで絵になる人だった。その美しさに何度嫉妬しただろう。


 しかし今日でそれも終わりだ。彼方かなたさんと友達になって、青春を謳歌するのだ。


 尾行を続けているうちに、


「……?」彼方かなたさんは、どんどん人の少ないところに進んでいく。「……なんでこんな路地裏に……」


 狭い路地裏を進んでいくと、開けた場所に出た。


 そこは行き止まりだった。路地裏の行き止まり。太陽の光もあまり差し込まない、冷たい空間だった。


 行き止まりに彼方かなたさんの家がある、わけではなかった。


 ……


 誘い込まれた、と気がついたときには遅かった。


「こんにちは」


 行き止まりで振り返った彼方かなたさんが、茉莉まつりちゃんと目を合わせてそう言った。


 すべてを見透かされているような感じがした。この目を見ていると吸い込まれてしまいそうだった。


 茉莉まつりちゃんは勇気を振り絞って、言った。


「び、尾行なんてしてゴメン……でも……どうしても彼方かなたさんと友達になりたくて……」


 一生懸命頭を下げてお願いすれば、彼方かなたさんはきっと友達になってくれる。それは龍太郎りゅうたろうくんが証明してくれた。


 茉莉まつりちゃんは彼方かなたさんをまっすぐ見つめて、


「ねぇ……友達になろうよ。私のこと、茉莉まつりちゃんって呼んでいいんだよ? もっと他のクラスメイトと同じように友達として接してほしいんだ」


 冷たい目線が返ってきた。この場所の空気が冷たいこともあって、茉莉まつりちゃんの体温は急速に下がっていった。


「どうして……?」茉莉まつりちゃんは感情のままに、「なんでわかってくれないの……? 私はただ、あなたと友達になりたいだけなのに……」


 本当はそれだけだったのかもしれない。それだけのために行動していたのかもしれない。


 ……

 

 やがて……彼方かなたさんが言った。


「……何度も言いますが……私はだと考えているんですよ。

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