第14話 今のところは、ね(side:マーディン)

 魔法で燃やす暖炉の火の前で、夜にフランカと一緒にオレンジを食べた。


 おそらく選ぶという行為を制限されていたであろうフランカが、勇気を出してマーディンに選んでくれたオレンジはみずみずしくておいしかった。

 不意打ちで酸っぱいこともなく、房も皮が薄くて甘かった。次も買おうねと二人で約束し、笑い合う。


 そして疲れたフランカが早めにベッドへ入ってぐっすり眠ったあと、マーディンはベッドの横に置いてある丸椅子に座って空色の爪を眺めた。


 昼間にフランカが綺麗だと褒めてくれた空色の付け爪は、故郷では男がつけていると馬鹿にされる。だけどマーディンはかわいいものや綺麗なものが好きだから、誰が何と言おうと付け爪の媒体を使っていた。


 マーディンの力が強いせいで面と向かって貶してくるやつはいないが、陰でこそこそ言われているのは知っている。

 自分では気にしていないと思っていたが、昼にフランカに褒められて思ったよりも嬉しかったことで、わりと引け目に感じていたらしいことに気がついた。


 最初にマーディンを見た時は自分と違う姿を恐れていたのに、フランカはマーディンの赤い目を真っすぐ見て綺麗だと褒めてくれた。


 困ったなー、離せなくなりそう。

 フランカの安心しきった寝顔を眺めて、マーディンは相好を崩す。


 マーディンは仕事としてこの世界に来ている。愛し子の人格などどうでもよくて、最初は魂だけが目的だった。

 けれど今は、魂の器であるフランカごと故郷に連れて帰りたくなっている。


 それをするとだいたいの人間が心を壊してしまうから、寿命で肉体を無くしまっさらになった魂だけを回収するのが習わしなのだが……。

 フランカは未練などないと言っていたし、この世界を滅ぼしたら、もっと未練をなくしてマーディンの故郷に連れて帰れるようにならないだろうか。


 フランカを不幸にしたこんな国、世界ごと滅ぼしたってなんにも惜しくないだろう。

 マーディンにはその力があるし、マーディンが造った宝石龍もこの国の面積くらいなら焦土にできる。


 ただ最初に報復はいらないとフランカに言われてしまったので、今のところは控えることにする。

 次に彼女に何かしたら、もちろん容赦しない。


 マーディンはとりあえず、今回は宝石龍を弱々しく明滅させることにした。

 今にも消滅しそうなくらいにか細い光は、さぞかしこの国の人間たちを不安にさせるだろう。


 愛し子様は王城で幸せなはずなのに、なんでだろーね?


 もしもこれで自分たちの過ちに気づいて詫びを入れにきても、もちろんマーディンはこの国の人間を絶対に許さないが。

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