3
第15話 ハゲ頭とババア(side:ペトロネラ)
ムカつくムカつくムカつく!
ペトロネラは綺麗に整えさせた親指の爪を噛んだ。
金の箔を貼った爪先の曲線がガタガタに欠ける。
これからラウレンスが迎えに来るというのに、爪は汚くなってしまったし、センスのない侍女のせいで髪型はダサいし。
なによりも、ここ三ヶ月ほど夜になると宝石龍が弱々しく明滅を繰り返しているせいで気分は最悪だった。しかもなぜか王城に顔を向けて。
愛し子が生きている間に宝石龍が動いたことなんて、史上初めてのことらしい。
なんなのよ。
死んだらただの鉱山になるくせに、いっちょまえに自己主張なんて。
きっとペトロネラのことが好きすぎて、こっちを向いちゃったんだと思います!
宝石龍が動いた直後からペトロネラの周りにバカみたいに湧いて出た教会の関係者や学者やらに、そう可愛らしく答えておいたけど、あれが動いたわけなんか知らないわよ。
どうせその鉱山のご機嫌取りをして生きるしかないフランカが、自分の立場を理解せずいまだにメソメソしてるからじゃないの?
あの辛気臭い女が今さら自己主張したところで、周囲から愛し子って認められるわけでもないのに。往生際が悪すぎる。
――塔に閉じ込めた時、あれだけ忠告してあげたのに。
ペトロネラはイライラを我慢できずに爪を噛んだ。
親指の爪は両方ボロボロになっている。これ以上噛むと爪の金箔がまた歪んでしまうが、止められなかった。
ラウレンスのエスコートでこれから国王、王妃とごく親しい身内だけで晩餐会があるというのに!
それなのに〝慈悲深い愛し子様〟でいるために、侍女をクビにもできずダサい髪形を我慢しなくちゃならないペトロネラのほうが絶対に可哀想だ。
おそらく今日は〝宝石龍の明滅〟について何か言われるだろう。それも面倒くさかった。
これまでにも「これほど散財していて、いったい何が気がかりなのか」と将来の姑にチクチク言われていた。
散財? なにが? どこがよ?
と、ペトロネラは迎えに来たラウレンスへ微笑みかけながら、内心で姑に唾を吐く。
なんでかボロボロになった広場の彫像を、今度は全部純金で作り直せって言ったこと?
どうせ作り直すなら、〝黄金の宝石龍の愛し子〟にふさわしく金で作れというののどこがおかしいの?
それとも隣の国の王族が持ってた、大きなダイヤモンドの指輪が欲しいと言ったことかしら。
だってアクセサリーもドレスも、身につける全ての物がこの世界で一番の価値でなくっちゃ、愛し子であるペトロネラに釣り合わないじゃない。
隣国の王になんかの関税と一緒に頭を下げただのなんだのとグチグチグチグチ……本当にうるさかった。
あのハゲ頭にどれほどの価値があるっていうのよ。
宝石龍の愛し子にみすぼらしい格好させるつもり? ありえない。
なのに散財だなんて。あのババア、なんか理由つけて処刑してやりたいくらいムカつく。
王妃じゃなかったらすぐ実行してやるのにね。
ラウレンスの隣の席に着き、そのハゲ頭とババアの顔を見ながら飲むスープは、びっくりするほどまずかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます