第9話 マジでクソじゃん(side:マーディン)
あれからさらにブーツや手袋を呼び出してフランカに身につけさせたマーディンは、温かくてかわいい服を用意しておかなかったことを後悔していた。
フランカにあげたコートや手袋やブーツはマーディンものだ。デザインのおかげでフランカは気づいてないが、彼女に渡したコートも背中に羽を通すための穴が開いている。この世界を観光する時に着ようと思って持ってきたものだった。
手袋やブーツにも自動でサイズを合わせる魔法がかかっているから、フランカが身に付けてもきつかったりはしないだろう。
まさか愛し子がふざけた女にはめられて死にかけているとは思わなかったし、そのせいでろくな服を持っていないとは考えもしていなかった。
マーディンは愛し子の魂を回収するという仕事のために、この世界に来た。
その回収作業も宝石龍がするから、この世界でのマーディンの仕事はちゃんと宝石龍が機能しているか、愛し子が幸せかどうかを遠くから確認するだけ。
宝石龍を造ったり、お告げとして星を降らせたりという準備のほうが大変だった。
だから正直、魂の器である愛し子のことはそんなに興味がなかった。
手袋をはめた手をぐーぱーさせながら「暖かいです」と嬉しそうに微笑むフランカには聞こえないように、マーディンは腹の底に溜まった怒りをポソッと吐き出した。
「なんかけっこうむかついてきたなあ……」
ものすごく低い声が出た。
「何かおっしゃいましたか?」
「んーん! 早くご飯食べ行こ!」
にっこーと笑ってフランカの手を引っ張った。
向かう先はベランダである。邪魔な鉄格子を魔法で曲げて、二人が通れる隙間を開けた。
「あの……これ以上進むと落ちてしまうと思うのですが……」
マーディンの導きに素直に従って鉄格子の隙間をすり抜け、ベランダの手すりに上ったフランカが困惑しきった声をあげた。
石造りの手すりはがっしりしていて幅が広いが、ゆるくアーチを描いているので立つには不安定だ。
「大丈夫」
向かい合ってぎゅっとフランカを抱き寄せる。彼女は真っ黒な目を見開いて驚いた顔をしたけれど、素直にマーディンに抱きしめられてくれた。
毛皮のコートを着ているというのに、抱きしめたフランカの体は薄かった。
それが悲しくて、怒りも湧いて、マーディンは唇を噛みしめる。
フランカをこんな寒くて何にもないところに閉じ込めて、何が「愛を見つけて」だ。
頭湧いてんのか。
「来る時に朝市みたいなんの準備してたの見たんだよね。そこ行こーよ」
「それはおそらく、王都の中央通りの朝市だと思います。私は行ったことがないのですが、王都名物なんですよ」
頬を赤く染めたフランカが、腕の中でマーディンを見上げながら続けた。
「でも、その……この体勢は、いったい……?」
「ぎゅーだよ?」
「ぎゅ……は、わかりますが、なぜ……? 朝市に行くのではないのですか?」
もう一度腕に力を入れてぎゅっとする。照れているのかうつむいたフランカがかわいい。
それを盾に脅されたというのに、ふがいない王族のせいで国民の将来が心配だ、とそんな健気なことを言っていたフランカの好感度がえぐい。
「ぎゅーしたまんま飛んでくよぉ」
広げた羽に力を込めた。
二人の足が手すりから浮いて、浮遊感にフランカが小さく悲鳴を上げる。
「大丈夫だよー。絶対落とさないから」
こくこくとうなずくフランカを抱いて、空に飛び出した。
ちらりと振り返ればフランカを捕らえていた塔が寒々しい石肌をさらしている。
マジでクソじゃん。
マーディンはひときわ大きく羽ばたいて、その衝撃波を塔にぶつけてやった。積もった雪や
防寒と、保温。もちろん防護の結界だ。
塔の向こうに見える城もぶっ壊そうかと思ったが、衝撃波にびっくりして固まるフランカの心臓のことを考えてやめた。
せっかく友達になったんだし、フランカがもう少しマーディンに慣れてからでもいいか、と。
あまり知られていないが、実は宝石龍の口は砲撃できるようになっている。
だから城を破壊する代わりに、宝石龍を遠隔操作をして龍の頭を城に向けてみた。これでいつでも砲撃できる。
とりあえずフランカを傷つけたやつらがこれ以上また何かしてきたら、ついうっかり〝ドッカン〟しちゃうかもしんないなー……と、マーディンは思った。
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