第22話 ナイフと衝撃

 ラウレンスに選択の自由を許したことは、フランカの温情でもあった。だってフランカは自ら命を絶って、自分の言葉の正しさを証明することだってできるのだから。


 だけどきっとフランカの優しさは、彼らに伝わりはしないだろうとも、彼らの顔を見て思った。

 特にラウレンスの顔は、フランカという目下の者に反抗されたショックで真っ赤に染まっていたからだ。


 「できないでしょうね、きっと。責任を取りたくないですものね? 国中の人間の命がかかった決断を、次期国王だというのにあなたはできない」


 フランカに蔑まれ荒い息をするラウレンスよりも、思えばペトロネラの方がまだ決断力があった。

 どこまでも自分のための決断でしかないけれど、ペトロネラという人間が居心地よく過ごすためならば他人をいくら蹴落としてもいいという潔さはある。


 愛し子に成りすまし、本物の愛し子であるフランカをこんなところに閉じ込めたのも、自分が死んだ後のことなどペトロネラには関係ないからである。

 未来に生きる人間の感謝で、今のペトロネラの腹が膨れるわけではない。


 そんなペトロネラに比べて、国の未来に対して責任がある次期国王の――なんと意志薄弱なことか。


 「いくら愛しのペトロネラのためでも、私を殺すことなんてあなたにはとてもできないでしょう。自らそういう決断を下したことがない、弱い、あなたには」


 「おのれ……っ!」


 怒りのせいか裏返った声で叫びフランカを睨みつけ、ラウレンスは真っ赤な顔でフランカを突き飛ばした。力を入れずに持っていた果物ナイフが弾かれたように宙を舞う。


 それを一瞬目で追いかけて、視界がぐらりと斜めになった。

 バランスを崩して頭から床に倒れ、強烈な衝撃が右のこめかみに走る。


 「――っ!」


 体勢を立て直すこともできず、倒れ込んだままこめかみを押さえ――次の瞬間、辺りが真っ白に染まった。

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