第22話 魔王の跡取り息子、またもギルドを救うⅤ

「キサマッ!?」

「アナタ!?」


 セラスとママスが同時にルガルを睨みつけ叫んだ。

 ゴゴゴゴゴという音とともに地響きがし出す。

 これは二人の指先や剣に凄まじい魔力が集まっているせいだ。

 次の瞬間。


「死になさい」


 ママスが指先をルガルに向けた。

 指から超高魔力を圧縮した緑の光線が放たれる。

 あれは風系統最高位呪文の一つ『王鷹砕破疾イーグルサイクロン』。

 普通は竜巻を発生させる呪文なのだが、その竜巻を光線になるほど圧縮してある。

 直撃すればルガルは勿論、結界ごとこの建物が崩壊しかねない。


 同時にセラスも突っ込んでくる。

 ママスの光線すらも追い越すほどのスピードでルガルとの距離を詰めると、そのままの速度で、両手に構えていた剣を振り下ろした。

 余りの高速度に剣が火を噴きだす。

 これは『爆熱魔剣ダイバレーヴァ』と呼ばれている剣技で、昔魔族の剣豪が編み出した必殺剣の一つだった。

 本来は長時間集中した後にようやく放てる技なんだけど、セラスは呼吸するように出せる。


 ルガルは当然対処などできない。

 このままだとルガルは勿論の事、マスターやアムさんまで被害に遭う。


「そこまで」


 そう判断した俺は、片手でセラスの豪熱魔剣を受け止めつつ、もう片方の手のひらでママスの放った呪文を受け止めた。


「は……ッ!?」


 ルガルが呆然と突っ立ったまま呟いた。

 すぐ傍ではマスターも同じ顔をしている。


「で、殿下!?

 お怪我はございませんか!?」


 セラスが俺に抱きついて言った。

 軽装のために彼女の形の良い乳房がダイレクトに俺の頬に押し付けられる。


「さすが殿下ですわね」


 一方ママスはちょっと嬉しそうに微笑んでいた。

 魔族は『力』が第一。

 主である俺の実力を見られて誇らしいのだろう。

 特別な事は何もしてないけど。


「あの一撃を止めただと……ッ!?」

「アイツどうなってんだ……ッ!?」


 やっと室内に戻ってきたウェアウルフたちも、遠巻きに俺を見て驚いている。

 するとそれを聞いて「フン!」セラスが鼻息荒く立ち上がった。

 そして片手で俺を示して、


「何も知らぬ俗物どもが!!

 この方をどなたと心得る!!!」


 言った。

 それにママスまで呼応する。


「この御方は魔王會會長の一人息子であらせられるヴィトス殿下。

 全魔族が忠誠を誓うべき至高の御方に御座いますの。

 分かったら平伏しなさい」


 ママスは広げた手を前に突き出し、ルガルたちに平伏するよう示した。

 途端にルガルたちが血相を変える。


「ヴィトス殿下……ッ!?

 俺が憧れていた魔王會の……ッ!?」

「ウソだろ!?」

「アレが噂の魔王の跡取り息子様……ッ!?」


 ルガルを始め、ウェアウルフたちが次々とその場に平伏する。


 魔王の跡取り息子様って、俺噂になってるのか。

 まあいずれ知れ渡ることだし、問題は無さそうかな。


 マスターもそれを受けて、


「は……ははああああッ!?」


 その場に両手両足を付け、額を床に擦り付けた。

 俺はそんなマスターを見やる。


 あーあ。

 マスターにバレちゃったよ。

 いずれはこうなると思ってたけど。

 詳しいことは後で話すか。

 とりあえずこの場を収めないと。


 そう思った俺は、すぐ傍で平伏しているルガルの方を向いた。


「ルガル」


 俺が名を呼ぶと、


「ははっ!?」


 ルガルが巨体を縮ませて返事をする。


 こんな奴にわざわざ何か言ってやるのは面倒くさいけれど、放っておくとギルドもといアムさんがまた被害に遭う可能性があるから、ちゃんと躾けておかないといけない。


「錬金工房を開いてお金を稼ごうとする事は構わないけれど、脅して高く売りつけるのはよくないと思うな。

 今に怖い人が来て殺されちゃうかもしれない」


 俺はそう言ってセラスを見やった。

 セラスは頷くと、


「次やったら私が殺します」


 再び剣を抜いてルガルたちを脅しつけた。

 余りの恐怖に、「ひひぃっ!?」全員土下座したままピョンと跳びあがる。


「それに魔族の悪評が広がると困るんだ。

 人間とは仲良く暮らしたいからね。

 今後は適正価格で売るように。

 悪事は絶対禁止」


「ハハッ!!

 必ずやそのようにさせて頂きます、ヴィトス殿下ッ!!」


 ルガルを始め、ウェアウルフたちが再び額を床に擦り付ける。

 そんな彼らに俺は、


「俺は言葉は信じない。

 必ず行動で示すように。

 次は無いから」


 少し真面目な口調で言った。


「ヒッ……!?」

「は……ハハアアアアアアアッ!!!」


 するとルガルたちが半ば怯えながら再度這いつくばる。

 よほど恐ろしかったのか、全員毛がバリバリに逆立っていた。


 ま、これくらいは言っておいた方がいいだろ。

 後はいつもの通りメリットも与えておくか。


「世のため人のために役に立つことをするなら取り立ててあげるからね」


 俺が優しくそう言うと、


「なっ……なんて寛大な御方なんだッ!!」 

「「「ありがとうございますうううううううッ!!!」」」


 ルガルたちが驚いた様子で俺の顔を仰ぎ、その後何度も平伏しては地面に額を擦り付けた。

 よし。

 これで悪事はしないだろう。


「うっうっ……!!

 殿下のご立派な様…ッ!!

 なんと喜ばしい……ッ!!」


 隣でセラスがハンカチを片手に、またも感服の涙を流していた。


「さすが殿下。完璧なお裁きですわ」


 ママスもそう言って俺の前に跪く。


「セラス。

 泣いてるところ悪いけどルガルたちを衛兵のところに連れてってもらえる?

 俺はもう許したけど、ここは人間界だから人間のルールで償ってもらわないとね。

 ママスは壊れた建物の修復をお願い」


「ハッ!」

「かしこまりましたわ!」


 さて。

 魔族に関してはこれでいいかな。

 後はマスターだ。


「マスター。こんな感じでいいかな?」


 俺はマスターに話しかける。

 今回の件は俺だけじゃなくギルドも関わっているから、彼の意見も聞かないといけない。


「ははあああああ!!

 こ、これまでの無礼申し訳ありませんでした!!!

 なにとぞお許しおおおおお!!!」


 するとマスターが突然謝りだす。


 無礼?

 何言ってんだコイツ。


「ああ、ひょっとして俺がミスした時に怒った事とか気にしてる?

 だったら上司だし普通の事だと思ってるけど。

 むしろ怒ってくれない方が困るし」


 俺が思ったことを言うと、


「は……ははあああああああッ!!!

 申しわけありませんッ!!!

 命だけはお助けおおおおおッ!!!」


 何を勘違いしたのか、マスターが命乞いし始める。


 ホント魔族みたいな奴だな。

 まあこういう方が俺はやりやすいけど。


「いいけど、代わりにお願いしたい事があるんだ。

 俺が魔王の跡取りって事は職場の皆には秘密にして欲しい。

 ここで働きたいからね」


「ははああああああ!!!

 絶対秘密にさせて頂きます!!!!」


 大げさな態度がちょっと気になるけど、とりあえずはこれで一件落着かな。

 後はアムさんにも説明しないと。

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