第15話 アムさんとディナーデート

「食事中です!

そういうのは止めてください!」


声を掛けてきたリザードマンに対し、アムさんが毅然とした態度で言い返した。


この感じ、アムさんも大分この手の連中には慣れてる様子である。

普段から声を掛けられるのだろう。

だがリザードマン達は去らない。


「いいだろよゲヘヘ!」

「こんなガキくせえ事務員より俺らにしろよ!?」

「奢ってやるからよ!!」


更に別のリザードマンたちも集まってきて、あっという間にアムさんが囲まれてしまった。

随分と強引な連中だな。


さて。

どうするか。


考えながら、店の入口付近の席を見やる。

実は店内にセラスが居る。

このところ彼女には一日中尾行されており、今日も俺らの後からレストランに入ってきていた。

当然、俺に何かあればすぐに飛んでくるはずだ。

大事おおごとにならないようにしないと。


俺がそんな事を考えていると、


「どうしたんです、アナタたち」


向かいのテーブル席に座っていた長身のリザードマンが言った。

何故か蛇腹模様の入った黒い紳士服を着ており、長細い足を組んで偉そうにタバコを吹かしている。


どんなファッションセンスしてんだコイツ。

悪趣味だな。


なんて俺が思っていると、


「おお、そこのアナタ」


蛇腹服の男がアムさんをタバコの先で差して言った。


「その恰好、ギルドの受付嬢ですね?

素晴らしい。

一度受付嬢を愛人にしたいと思っていたんです。

こちらに来てワタシに酌をしなさい」


「イヤです!

この人と食事中なんですから!」


アムさんが言った。

そんな風に言われるとちょっと嬉しい。


「いいから来いよ!」

「ボスが誘ってるんだからよ!」


アムさんを囲うリザードマンたちが言った。


「ボスって、あの蛇腹の偉そうな奴?」


俺が尋ねると、


「フッ……!

凡俗なド底辺事務員にも、このワタシの偉さが分かってしまいますか!

有名になると素性は隠せませんねえ!」


蛇腹が自慢げに長い髪を掻き上げて何やら言い出す。


偉そうって言っただけで偉いとは一言も言ってないんだけど。

随分妄想逞しいなコイツ。


「いいでしょう!

特別に教えてあげます!

ワタシは魔王會系闇組織『黒蛇魔會(ブラックサーペント)』の現會長『ザラフ・ナハーシュ』!

いずれは魔王會の大幹部に取り立てられる男です!!」


蛇腹……ザラフはその場に立ち上がると自信満々に自己紹介し始めた。

その名を聞いた途端店内に居た客たちが、


「ぶっ……ブラックサーペント!?」

「人身売買から違法錬金物まで扱うヤベエ連中じゃねえか!!」

「今のうち逃げろ!!」


次々と席を立ち、店から逃げ出していく。


ああ、ブラックサーペントか。

規模的には昨日ギルドにセクハラしに来たギンバの組織『ダークバトラ』よりも一回り大きい。

たしか大陸中に5000人くらいは構成員が居たはず。


なんて思っている間にも蛇腹……ザラフがその場に立ち上がり、俺たちの方に歩いてきた。

片手にワイン瓶とグラスを持っている。


「さ、受付嬢さん。

私に酒を注ぎなさい」


ワイン瓶をテーブルの上に置き、グラスをアムさんに押し付けて言った。


「なんで私がそんな事しなくちゃいけないんですか!?」


アムさんは断る。

するとザラフはイヤらしい笑みを浮かべて、


「別にいいんですよ?

アナタがワインを注ぎたくないと仰るなら強要は致しません。

ただし、そちらの男性がどうなるか分かりませんねえ」


先端の裂けた舌をチロチロ出して言った。

リザードマンらしく狡猾な奴だ。


「ほら。アナタの意思で注ぎなさい」


言って、ザラフが屈んだ。

アムさんの顔にトカゲ面を寄せる。


「はいはい」


なので、俺が代わりに酌してやる事にした。

ザラフのグラスにドボドボと赤ワインを注いでやる。


「てめえじゃねえよ!?」


傍に居たリザードマンが俺に突っ込む。


「え? お酒飲みたかったんでしょ?」


俺が言うと「フ……!」ザラフは立ち上がった。

その高い背丈で俺を見下ろし、


「面白い事務員です。

ブラックサーペント會長であるこのワタシにケンカを売っているのですか?」


蛇の目で俺を睨みつけて言った。


「うん。

店の裏行こうよ。

ここじゃ何かと目立っちゃうし」


俺はザラフに提案する。


「いいでしょう。

そんなに死にたいなら殺して差し上げます」


ザラフも乗ってきた。

駄々こねるなら『ビビってるの?』とか煽ろうと思ってたけど、これはいい流れ。


「ヴィトスくん!?

 ダメよ!!

 アナタだけでも逃げて!!」


なんて俺が思っていると、アムさんが心配そうな顔をして俺に言った。


「前にも言ったでしょ。

こういうの慣れてるから大丈夫」


俺はそう言ってアムさんに笑顔で手を振った。

アムさんは唖然としている。

そして「付いてきなよ」ザラフたちを誘って店の入口へと向かう。


「度胸だけはあるようですね。

よろしい!

お前たち、外に行きますよ!」


するとザラフとその配下達も、鼻息荒くしながらついてきた。


よしよし。

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